今月は、債権譲渡・弁済・相殺について法改正のポイントを押さえていきます。これまで、債権譲渡は2~3年に1回、弁済は5年に1回、相殺は3年に1回くらいの頻度で出題されていますが、法改正との関連で本年は出題の可能性が少し高まると思われます。
債権譲渡
(1) 譲渡制限の意思表示
債権者と債務者の間で「債権譲渡はできない」旨の特約があるにもかかわらず、これに反して債権が譲渡された場合の効力について、法改正により原則と例外が逆転しました。
(2) 対抗要件具備時までに譲渡人に対抗できた事由
債務者が譲渡人に対抗できた事由を、譲受人も対抗できるかという点について、従来の「異議をとどめない承諾」制度が廃止されました。たとえば、債権譲渡の通知が行われる以前から、債務者も債権者に対して債権を有していたのなら、債権譲渡に対して債務者がその債権のことを譲受人に何も告げずに承諾(異議をとどめないで承諾)していても、債務者は譲受人に対してもその債権による相殺を主張できるということです。
第三者の弁済
弁済は、債務者以外の第三者でも可能ですが、弁済が認められない場合について以下の改正がありました。
弁済をすることについて正当な利益を有しない第三者は、
① 債務者の意思に反して弁済をすることができない(ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、弁済できる)
② 債権者の意思に反して弁済することができない(ただし、第三者が債務者の委託を受けて弁済する場合において、そのことを債権者が知っていたときは、弁済できる)
不法行為等によって生じた債権による相殺
従来、不法行為の被害者保護の観点から、加害者からの相殺は、その不法行為の内容や種類を問わず一律に禁止されていましたが、法改正により、①悪意による不法行為に基づく損害賠償債務、または②人の生命・身体の侵害による被害者の損害賠償債権を受働債権※ とする場合のみ、加害者からの相殺が禁止されることになりました。なお、被害者保護が目的ですから、被害者の側から相殺することは禁止されません。
※相殺の意思表示をする人が有している債権を自働債権といい、相殺の意思表示を受ける人(相手方)が有している債権を受働債権という。
AがBに貸金債権を有し、AによるBへの悪意の不法行為があった状況において、Aが相殺の意思表示をする場合、Aの貸金債権が自働債権、相手方であるBの損害賠償債権が受働債権となり、加害者Aからの相殺が禁止される。
過去問を解いてみよう!
知識の定着を
※法改正に対応するため問題文の一部を改変しています。
- 【Q1】譲渡禁止特約のある債権の譲渡を受けた第三者が、その特約の存在を知らなかったとしても、知らなかったことにつき重大な過失があれば、債務者は、その第三者に対して債務の履行を拒むことができる。(H30年 問7)
- 【Q2】BがAの自動車事故によって身体に被害を受け、Aに対して不法行為に基づく損害賠償債権を取得した場合には、Bは、Aとの土地売買契約に基づく売買代金債務と当該損害賠償債権を対当額で相殺することができる。(H30年 問9)
こう考えよう!<解答と解き方>
Answer1
【解説】譲渡禁止特約に反した債権譲渡も原則として有効であるが、悪意または善意重過失の第三者に対しては、債務の履行を拒むことができる。
Answer2
【解説】身体の侵害による損害賠償債権なので、加害者Aの側から相殺することはできないが、被害者Bの側から相殺することはできる。
植杉 伸介
早稲田大学法学部卒業。宅建士、行政書士、マンション管理士・管理業務主任者試験等の講師として30年以上の実績がある。『マンガはじめて建物区分所有法 改訂版』(住宅新報出版)など、これまでに多くのテキストや問題集の作成に携わり、受験勉強のノウハウを提供している。