宅建士講座
2020.12.14
宅建士試験合格のコツ

Vol.21 権利関係
~民法7(賃貸借)~


今月は、賃貸借に関する法改正点を見ていきます。本試験では、賃貸借の問題がほぼ毎年出題されています。また、毎年2問出題されている借地借家法は、民法の賃貸借の規定をベースにして制定されているので、借地借家法を学習する際は、民法の賃貸借に関する理解が必要になってきます。宅建試験に合格するためには、賃貸借をマスターすることは不可欠といえるでしょう。

賃貸借

(1) 賃貸借の存続期間

賃貸借の存続期間の上限が、20年から50年に変更になりました。賃貸借の存続期間は50年を超えることができず、これより長い期間を定めても50年に短縮されます。

(2) 賃貸人の地位の移転

不動産の賃貸人の地位の移転について、以前から判例により認められていた結論が、条文に明記されました。具体的には、次のような内容です。

※借地借家法で認められた対抗要件でもよい

上記いずれの場合でも、賃貸人の地位の移転を賃借人に対抗するためには、当該不動産について所有権移転登記をすることが必要です。

(3)賃借物の修繕

賃借物の修繕義務は賃貸人が負うのが原則ですが、賃借人の責めに帰すべき事由で修繕が必要になったときは、賃貸人は修繕義務を負わない旨の規定が新たに定められました。また、次の場合には、賃借人が自ら修繕できる旨の規定も定められました。

①賃借人は賃貸人に修繕が必要である旨を通知しなければならないが、この通知等によって賃貸人が修繕の必要性を知ったにもかかわらず、相当の期間内に必要な修繕をしないとき
②急迫の事情があるとき

(4)賃借物の一部滅失等

賃借物が一部滅失等した場合について、次の規定が定められました。

①賃借物の一部が滅失その他の理由により使用・収益できなくなった場合で、賃借人の責めに帰することができない事由によるときは、賃料は、請求しなくても当然に減額される
②賃借物の一部が滅失その他の理由により使用・収益できなくなり、残存する部分のみでは賃借をした目的を達することができないときは、それが賃借人の責めに帰すべき事由による場合であっても、契約の解除をすることができる

(5)賃借人の原状回復義務

賃貸借が終了したときは、賃借人は、賃借物を受け取った後に生じた損傷については、原状回復義務を負うが、通常損耗・経年変化については原状回復義務を負わない旨の規定が定められました。

(6)転貸借

適法に転貸借された後に、賃貸人と賃借人(転貸人)との間の賃貸借が解除された場合について、判例により認められていた結論が条文化されました。

①賃貸人と賃借人の間の賃貸借契約が合意解除されたとしても、そのことを転借人に対抗することはできない
②賃貸人と賃借人の間の賃貸借契約が賃借人の債務不履行によって解除された場合は、そのことを転借人に対抗することができる

(7)敷金

これまで敷金に関する規定はありませんでしたが、法改正により次の規定が定められました。

敷金の定義敷金とは、いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう
敷金返還義務が生じるとき①賃貸借が終了し、かつ、賃貸人が賃借物の返還を受けたとき(賃借人は賃借物の返還を先に済ませないと、敷金の返還を求めることはできない)
②賃借人が適法に賃借物を譲り渡したとき
敷金の充当賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいた債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充当することができるが、賃借人の側から充当を請求することはできない

過去問を解いてみよう!

論点の確認と
知識の定着を
  • 【Q1】AがBに甲建物を月額10万円で賃貸し、BがAの承諾を得て甲建物をCに適法に月額15万円で転貸している。AがBとの間で甲建物の賃貸借契約を合意解除した場合、AはCに対して、Bとの合意解除に基づいて、当然には甲建物の明渡しを求めることができない。(H28 問8)
  • 【Q2】マンションの賃貸借契約終了に伴う賃貸人の敷金返還債務と、賃借人の明渡債務は、特別の約定のない限り、同時履行の関係に立つ。(H27 問8)

ic_kaisetsuこう考えよう!<解答と解き方>

Answer1

【解説】AB間の賃貸借契約を合意解除しても、そのことを転借人Cに対抗することはできないので、Cに対して明渡しを求めることはできない。

Answer2
×

【解説】賃借物の明渡しと敷金返還債務は同時履行の関係には立たない。先に明渡しを済ませる必要がある。


植杉 伸介

早稲田大学法学部卒業。宅建士、行政書士、マンション管理士・管理業務主任者試験等の講師として30年以上の実績がある。『マンガはじめて建物区分所有法 改訂版』(住宅新報出版)など、これまでに多くのテキストや問題集の作成に携わり、受験勉強のノウハウを提供している。