物権変動に関する問題は、3年に1回程度の頻度で出題されています。少し難解な内容を含みますが、基本的な考え方を理解したうえで知識を整理し、覚え方のコツをマスターしておけば、難問にも対応できるようになると思います。
1. 対抗要件の基本的な図式
上図のBとCのように二股に分かれる関係の場合は、対抗要件(不動産の場合は登記)を先に得たほう(悪意でも)が勝つ
上図のAとB、BとC、AとCのような直線的関係の場合は、対抗要件によって優劣を決定しない
2. 取消しと登記
たとえば、AがBの詐欺により土地をBに売却し、さらにBがCに土地を売却した後、Aが詐欺を理由に契約を取り消した場合、Cが善意無過失ならCの勝ちだが、Cが悪意または善意有過失ならAの勝ちであり、登記の有無は関係ありません。
これに対して、AがBとの契約を取り消した時点では、まだBからCへの売却を行われておらず、取消し後にCが契約した場合は、AとCのどちらが先に登記を得たかで勝敗が決まり、Cの善意・悪意は関係ありません。この場合は、二重譲渡と同様に考えるのです。つまり、Aの取消しによってBのもとにあった権利がAに戻ってくるという権利の変動があり、他方でBがCに売却することによりBからCへ権利が変動しています。これは、Bを起点にしてAとCに二重に譲渡された関係に類似するからです。
3. 取得時効と登記
A所有の土地をBが時効取得する一方、Aがその土地をCに売却した場合に、BとCの関係はどうなるかという問題ですが、CがAから権利を取得したのが、時効完成の前か後かで結論が異なります。
まず、時効完成前にCが現れた場合は、Bは登記なくして時効による権利取得を主張できます。なぜなら、時効完成時点では、Cが所有者であり、時効によりCからBに権利が変動したことになるからです。つまり、権利変動の当事者の関係なので、登記で決着する場面ではないわけです。
これに対して、時効完成後にCが現れた場合は、BとCは登記を先に得たほうが勝つという関係になります。この場合、時効完成時点では、まだAが所有者なので、時効によりAからBに権利が変動したことになります。そして、さらにAはCに売却したわけですから、まさにAを起点にしてBとCに二重に権利が移動したことになるからです。
4. 解除と登記
たとえば、AがBに土地を売却し、さらにBがCに売却した事例で、AがBの債務不履行を理由に契約を解除した場合、AとCの関係はどうなるかという問題ですが、結論は次のようになります。
5. 覚え方のコツ
問題を解いてみよう!
知識の定着を
- 【Q1】A所有の甲土地につき、AとBとの間で売買契約が締結された。AがBにだまされたとして詐欺を理由にAB間の売買契約を取り消した後、Bが甲土地をAに返還せずにDに転売してDが所有権移転登記を備えても、AはDから甲土地を取り戻すことができる。 (H23 問1)
- 【Q2】Aは、Aが所有している甲土地をBに売却した。Bが甲土地の所有権移転登記を備えた後に甲土地につき取得時効が完成したFは、甲土地の所有権移転登記を備えていなくても、Bに対して甲土地の所有権を主張することができる。 (R1 問1)
こう考えよう!<解答と解き方>
Answer1
【解説】取消し後に出現した第三者と取消しをした者との関係は、登記の先後で決着をつけます。したがって、Aは、すでに登記を得ているDから土地を取り戻すことはできません。
Answer2
【解説】時効取得者は、時効完成前に権利を譲り受けた者に対しては、登記がなくても時効による権利取得を対抗できます。
植杉 伸介
宅建士・行政書士・マンション管理士、管理業務主任者試験などの講師を30年以上務める。著書に『マンガはじめて建物区分所有法 改訂版』(住宅新報出版)、『ケータイ宅建士 2021』(三省堂)などがあるほか、多くの問題集の作成に携わり、受験勉強のノウハウを提供している。