不法行為は、本試験において3年に2回くらいのペースで出題されており、受験対策上、重要な論点の1つです。今回は、不法行為の問題において、出題されやすいポイントを学習していきます。しっかりとマスターしてください。
1. 不法行為の効果に関するポイント
(1)損害賠償…被害者は加害者に対して損害賠償を請求できますが、損害には、財産的損害・精神的損害のみならず、法人の名誉毀損によって生ずる非財産的損害も含まれます。
(2)損害賠償請求権の発生時期…損害賠償請求権の発生時期は、損害発生時です。したがって、被害者が賠償請求をしなくても、損害が発生した時から直ちに履行遅滞が生じ、遅延利息のカウントが始まります。
(3)過失相殺…不法行為による損害賠償請求において、被害者側に過失があるときは、裁判所は損害賠償の額を定めるにあたりその過失を考慮して、賠償額の減額等をすることができます。なお、過失相殺をするかどうかは、裁判所の裁量に任されることに注意してください。
(4)損害賠償請求権の消滅時効…不法行為による損害賠償請求権は、被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年(人の生命または身体を侵害する不法行為の場合は5年)、不法行為の時から20年で消滅します。
2. 使用者責任
他人に使用される者(被用者)が使用者の事業の執行について第三者に損害を加えた場合、使用者および使用者に代わって事業を監督する立場にある者も、その損害を賠償する責任を負います。
- ①使用者の責任は、使用者が被用者の選任およびその事業の監督について相当の注意をしたとき、または相当の注意をしても損害が生ずるべきであったときは、責任を免れることができます。
- ②使用者が被害者から請求されて、損害賠償金を支払った場合、使用者は、被用者に対して求償できます。ただし、使用者から被用者の求償において、支払った賠償金の全額の請求は必ずしも認められず、損害の公平な分担という観点から、一定額に制限されることがあります。
- ③被用者が損害賠償金を支払ったときに、使用者に対して求償することは、原則として認められません。
3. 責任無能力者の監督者の責任
他人に損害を与えた者が責任無能力者であった場合、その者を監督する義務のある者が損害を賠償する責任を負います。ただし、監督義務者が注意を怠っていなかったときは、責任を免れることができます。
責任能力とは、行為の結果を理解して、責任をわきまえることのできる能力のこと。未成年者でも13才ぐらいから責任能力があるとされています。
4. 注文者の責任
注文者は請負人がその仕事について第三者に損害を加えた場合、原則として損害賠償責任を負いません。ただし、注文または指図に過失があったときには、自己の責任を負います。
5. 土地の工作物責任
土地の工作物責任とは、土地の工作物の設置・保存に瑕疵があり、それによって他人に損害を与えた場合をいいます。土地の工作物についての責任は、第一次的には占有者が負いますが、占有者が免責事由を立証すれば、第二次的に所有者が責任を負います。
占有者は、損害の発生を防止するのに必要な注意を払ったときは免責されますが、所有者にはこのような免責事由がなく、無過失責任を負います。
6. 共同不法行為
数人が共同して不法行為をした場合に、被害者の救済を厚くするために責任者の範囲を拡張し、その責任を連帯債務と同様の債務としました。
たとえば、売主Aおよび買主Bがそれぞれ別の宅地建物取引業者甲・乙に媒介を依頼し、甲・乙が共同して媒介を行った場合において、甲・乙の共同不法行為により買主Bが損害を受けたときは、買主Bは依頼した業者乙のみでなく売主Aが依頼した業者甲に対しても損害賠償を請求することができます。
問題を解いてみよう!
知識の定着を
- 【Q1】Aが、その過失によりB所有の建物を取り壊し、Bに対し不法行為による損害賠償債務を負担した。Aの損害賠償債務は、BからAへの履行の請求があった時から履行遅滞となり、Bは、その時以後の遅延損害金を請求できる。(H12 問8)
- 【Q2】Aが1人で居住する甲建物の保存に瑕疵があったため、甲建物の壁が崩れて通行人Bがケガをした。Aが甲建物を所有している場合、Aは甲建物の保存の瑕疵による損害の発生の防止に必要な注意をしたとしても、Bに対して不法行為責任を負う。(R3 問8)
こう考えよう!<解答と解き方>
Answer1
【解説】期限の定めのない債務は、債権者が請求した時から履行遅滞となるのが原則ですが、不法行為による損害賠償債務は、損害発生時から履行遅滞となり、遅延損害金が生じます。
Answer2
【解説】土地の工作物の設置・保存の瑕疵による損害について、その工作物の所有者は、損害の発生を防止するのに必要な注意をしていても、責任を免れることはできません。
植杉 伸介
宅建士・行政書士・マンション管理士、管理業務主任者試験などの講師を30年以上務める。著書に『マンガはじめて建物区分所有法 改訂版』(住宅新報出版)、『ケータイ宅建士 2021』(三省堂)などがあるほか、多くの問題集の作成に携わり、受験勉強のノウハウを提供している。