Vol.5 銀行は「不動産業者の本業としての投資」と「他業種による副業としての投資」をこう見分けています


不動産価格の上昇局面のなか、不動産業以外の事業者にも、賃貸収入や含み益を見込んだ収益物件への投資意欲が高まっているようです。自己資金だけでなく、銀行からの借入れをもって投資を行っている事業者もみられますが、こうした投資ニーズに、銀行側はどんな本音を持っているのでしょうか。今回は、そのポイントを解説いたします。

収益物件への投資における銀行の視点

銀行は、賃貸アパート・マンション・ビルなど収益物件への投資を、ⓐ不動産事業者が(本業として)行う場合、ⓑ経営の多角化などを意図して異業種が行う場合、に区分し、実情を凝視しつつ取引時の判断材料としています。その背景に、2つの事項があります(図表1)。

図表1 銀行から見た不動産収益物件投資に係る重要事項

❶審査過程での「総合的な返済可能性」の重視

❷月次単位で監督当局に提出が求められる経営指標

対外的に公表しているきれいな理屈では、申し込まれた融資を審査する着眼点に「その事業が持つ独創性や社会性などの事業性」や「地域貢献」を掲げる銀行が増えています。しかしながら実態は「なかにはそういった意図にのっとって対応したものもある」程度の件数・割合にすぎません。つまるところ、大部分は従来どおり、「きちんと返済されるかどうか」を何より重視した審査が実施され続けています(図表2)。

図表2 申し込まれた融資への審査時の着眼点(イメージ)

申し込まれた融資への審査時の着眼点(イメージ)

そうした審査姿勢は、不動産収益物件がらみも、例外ではありません。つまるところ、「契約どおりの返済がなされるか」を最も重視し、それに加えて「延滞時に処分できる流動性のある物件か」も有力な判断材料としています。

この観点で「不動産業者」と「異業種」おのおのの収益物件の取扱いを眺めてみると、両者に大きな違いが認められます(図表3)。図表に示したノウハウを持たない箇所については外部委託などが必要になり、費用を支払わなければならないぶんだけ利益を圧縮します。この結果、融資の返済可能性が低くなります。

図表3 不動産収益物件へのノウハウ(イメージ/例示)

不動産収益物件へのノウハウ(イメージ/例示)

よって、不動産業者各位が収益物件取得時に銀行融資を申し込む場合には、保有されているノウハウのうち、特にどのような分野に強みを持っているのかを個別具体的に説明することが有効です。そのノウハウを持たずに外部委託したときに比べ、どのくらい費用を抑えられるのかを数字を挙げてアピールするとよいでしょう。

また、異業種の事業者への収益物件仲介時に銀行融資の利用を希望される場合にも、図表に示したノウハウに着眼・利用することが一案となります。異業種ながら何らかのノウハウを保有している場合には、裏付けとともにそれを説明し「例外的に強みがある」とアピールするとよいでしょう。仲介される不動産業者自身が、不十分なノウハウを補うことで異業種側の支払い費用を抑えられる材料がある場合にも、それを訴えることがプラス材料になります。

銀行側は、収益物件自体についても、当然に注視します。特に異業種の場合には、遠方の物件ならば管理負担が相対的に大きくなり、本業がおろそかにならないかと懸念します。また、本社や本店を高層化して収益物件化した場合には、有事(=つまりは延滞時)の物件処分に支障が出やすいとも考えます。あらためて振り返っても、特に専業不動産事業の持つノウハウを銀行側は評価しているのです。これらが図表1のです。

業種別残高には敏感

そうした一方で、典型的な許認可業種である銀行は、監督当局の意向を常にうかがってもいます。監督当局による銀行への経営事態把握もデジタル化されており、毎月末ごとに預金や融資などのデータの送付が義務づけられています。当局側でそれらのデータを精査し続けることで、定量的な経営状態をあらかじめ把握しておき、異常が認められた場合にすぐに立入り検査に着手できる建付けです。

ごく簡単に言えば、預金や貸出金が減ったり、株式や債券などに投資して損失が生じた場合などに、経緯や今後の方針を厳しく問われるわけです。そうした表面的なものだけでなく、もっと細かい点も検証され、厳しく調査されます。

誤解を怖れずに言えば、そうした注視項目の1つに、不動産業向けの貸出しも挙げられます。金融当局としては、バブル経済期の不動産価格の上昇の背後に、銀行の無尽蔵な融資があったと反省の目線で捉えており、“バブル超え”となった現在の不動産価格も当然に凝視しています。

銀行も株式会社形態の収益事業を行っているわけですので、預金も融資も常に積み上げて増やしていきたいのが本音です。不動産業は、融資残高を最も効率的に増やせる業種でもあり、既述のとおり、専業不動産業者の持つノウハウも評価させてもらっています。ところがその不動産業者は、当局から注視される業種でもあるわけです。

非常に細かい話なのですが、この業種別の貸出残高には「事業を多角化している法人の場合には最大の売上げを占める業種」というルールがあります。専業不動産業の場合は否応なしに「不動産業」に区分されますが、規模の大きな青果店が多角化のため収益物件を持ち、売上げが「青果部門>賃貸収入」の場合には、「小売業」に区分されます。

よって銀行にとっては、異業種の収益物件取得時に融資を実行すれば、残高が稼げて不動産業にも区分されないことになります。これらが図表1のですが、ここに融資を活用できる余地があるわけです。

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佐々木 城夛(じょうた)

オペレーショナルデザイン㈱
取締役デザイナー/データアナリスト

佐々木 城夛(じょうた)

1990年信金中央金庫入庫。欧州系証券会社(在英国)Associate Director、信用金庫部上席審議役兼コンサルティング室長、静岡支店長、地域・中小企業研究所主席研究員等を経て2021年4月に独立。「ダイヤモンド・オンライン」(ダイヤモンド社)、「金融財政ビジネス」(時事通信社)ほか連載多数。著書に「いちばんやさしい金融リスク管理」(近代セールス社)ほか。 https://jota-sasaki.jimdosite.com/