Vol.42 売買重要事項の調査説明 ~現地照合確認調査編②~
水路の調査を見落とした敷地調査の売買トラブル事例


不動産トラブルで数多く指摘されていることに、敷地に関するトラブルがあります。特に、敷地境界線にかかわる事件が多くみられますので、現地照合確認調査において、どのような点に注意をしたらいいかを述べます。

取引対象敷地内に水路が含まれていた事件

買主が、交通利便がよいと考え、仲介業者を通じて、更地を3,000万円で売買契約を締結しました。重要事項説明時に、仲介業者が添付した書類には、①登記事項証明書、②公図、③敷地境界確定測量図、④道路境界査定図などがありました。公図では、取引対象の敷地と道路の間には水路がありましたが、現況の水路は暗渠(あんきょ)となっており、目視での現況は、水路は敷地内ではなく道路内にありました。本物件取引を仲介した宅建業者は、縁石等で囲まれた暗渠部分を含めた現況の敷地が取引対象地と取り違えており、敷地には地積測量図があり、道路境界確定図面もあるので、何ら問題はないと考えて、売買契約を締結しました。売買契約の特約として、敷地内にはカーブミラーがありましたが、カーブミラーは現況有姿のまま引き渡す、という条件で取引が完了しました。その後、買主が建築会社に住宅の建築を依頼し、その際に、カーブミラーの撤去をお願いしたところ、カーブミラーが所在する土地は、取引対象敷地内ではなく、市が管理する水路で道路敷地内にあることがわかりました。買主は、「住宅を建築する予定の敷地の中に、約0.4mの水路が含まれていた」として、「損害賠償請求の紛争」となりました。間口が約15mであるため、買主が当初予定していた現況敷地より約6.0㎡(約1.8坪)敷地が減少した分の損害がある、というものです。交渉の末、仲介業者が「100万円を支払う」ということで決着しました(ポイント1)。

ポイント1

取引開始時点での更地の際の状況は、赤い点線区域も敷地と一体となって利用されていたため、一見して取引対象地と考えて取引をしてしまった宅建業者ですが、調査をした結果、実際には、赤い点線部分は水路であり、道路区域内にあることがわかり、仲介業者の調査説明義務違反による責任が問われました。

調査説明義務違反

確定地積測量図だからと簡易計測を省略した不動産トラブル

なぜ、このようなトラブルが発生したのでしょうか。重要事項説明書には、敷地が道路に接する距離は、約15.0mと記載していますが、その数値の記載は地積測量図に記載された数値をそのまま転記したものでした。確定測量図があるのだからと、あえて、現況寸法を簡易計測していなかったのです。簡易計測さえしていれば、敷地間口は問題ないとしても、奥行きは、地積測量図寸法よりも約0.4m多い数値が出て、すぐにおかしいと気付いたはずです。また、念のため、道路幅員もきちんと簡易計測をしていれば、道路境界確定図面に記載された数値は、水路を含んだ道路幅員寸法であることがわかったことでしょう。また、問題のカーブミラーも敷地内ではなく、市の道路区域内に所在しており、敷地は現況よりも約0.4m後退した位置が敷地と道路との境界線だということも判明したでしょう。確定測量図であるときは、現況寸法と相違がないかどうかを確認するために、現地照合確認調査が必要です。

水路がある場合の2つの調査ポイント

敷地と道路の間に水路がある場合の調査には、3つの重要なポイントがあります。

最初に、現況で水路の寸法を簡易計測できる状態にあれば、その寸法を簡易計測しておきます。この事例では、水路が暗渠のため寸法がわかりませんが、公図に水路が記載されていることから、水路の管理者は誰であるかを確認します。調査先は、道路維持管理担当課か下水道の維持管理担当課です。そして、管理者がわかれば、その担当課で水路幅員を示す図面を請求します。次に、水路が道路維持管理担当課の管理の場合は、道路境界査定図の有無を照会して、査定記録がある場合は、第1に、道路査定担当課で「水路は道路に含まれているか否か」を照会します。その上で、第2に、建築確認担当課で「水路は建築基準法上の道路幅員に含まれるか」を照会します。含まれるときは、第3に、現地において「査定図面の幅員と現地の道路幅員とが照合一致しているか」を確認します。この3つの作業が水路調査における重要なポイントです。一方、下水道維持管理担当課の管理であれば、「建築基準法上の道路幅員には含まれない」という可能性があります。その場合は、敷地が建築基準法上の道路に接していないため、「建築基準法第43条第2項第2号の許可の可能性の有無」の調査をする必要があります。しかし、「水路は下水道維持管理担当課が管理しているが、建築基準法上の道路幅員に含めてもよい」と、建築確認担当課が回答すれば、敷地は建築基準法上の道路に接していることになるので、問題なく建築確認を取得できます。

水路が存在するときは、水路の管理者は誰か、水路は建築基準法上の道路に該当するか、現地で水路の位置はどこか、ということを現地照合調査して確認することが大切です(ポイント2)。

ポイント2

下図のように、敷地前面に水路が存在するときは、必ず、「水路区域か、道路区域か」を確認し、現地において、水路の位置を確認するための現地照合調査が大切です。

現地照合調査

津村 重行

不動産コンサルタント

津村 重行

三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。