Vol.14 不動産物件調査技術の基礎 ~役所調査編~
浄化槽排水の調査


公共下水道区域外の個別浄化槽排水による建物の確認申請においては、排水方法は確認検査項目となっている重要なポイントです。浄化槽排水では調査ミスによるトラブルが多いため、その詳細を述べます。

周囲が浄化槽排水でも、取引対象地が汲み取りの場合がある

こんな事例がありました。

土地の不動産調査のために現地に行きますと、隣地に新築住宅が建っており、その建物は浄化槽排水の建物です。今回、その隣の土地が販売され、広告では、「排水は個別浄化槽(以下、浄化槽)可」と記載されています。しかし、役所調査をすると、「この地区は川の流れが悪く、今年からは、浄化槽排水での建築許可を出せない」ということでした。つまり、この物件は「汲み取り便所」ということです。販売業者は隣家を見て、「浄化槽排水で建築許可が出る」と思い込んだようです。このようなトラブルを防止するためには、浄化槽に関する知識が必要です。

■浄化槽の種類

浄化槽は、大きく2つに分類されます。1つ目は、単独浄化槽です。トイレの汚水だけを浄化槽で処理をして、その他の台所や洗濯機、風呂場、洗面所から出る排水は、一部を浸透させて、上澄みをU字溝(道路側溝)へ排水する仕組みです。この方式の場合、U字溝に、台所から出たご飯粒や洗剤などが流れ込み、ネズミなどが繁殖し、見るからに不衛生な状態になります。U字溝を観察する際、ご飯粒や台所から出る生ごみなどの有無を目視調査します(ポイント1)。

2つ目は、合併浄化槽です。平成13年4月1日から義務付けとなった浄化槽です。この方式は、トイレの汚水、台所、風呂、洗濯機などの雑排水を浄化槽で1つにして浄化するものです。

現在、このシステムが単独浄化槽と比べて衛生的であり、一般的に広く流通しています。

■浄化槽の仕組み

浄化槽は、バクテリアなどの微生物により汚物をきれいな排水に分解する仕組みで、いくつかの分離槽を経由して、きれいな水をU字溝に排水し、そのU字溝を経由して、最寄りの河川などへ放流されます。

■浄化槽排水の許可

浄化槽による排水許可の要件は、①U字溝が最寄りの河川まで整備され、途中で破損や、泥の埋設で機能していないなどの状態がないこと、②流末河川の状態において、最寄りの放流先の河川がスムーズに下流に流れていることなどが必要です。「これまでは、川の水に問題なく流れもよかったが、昨年から川の流れが止まり、淀んでいる」などというときは、浄化槽の許可が出ない場合があります(ポイント2)。都市排水担当の課に「浄化槽排水で許可が出ますか」と質問すると、「確認申請が出されたら、現地を見に行きます」と、後ろ向きに回答されることが多くあります。このような状況では、売買の重要事項説明書を作成できません。そのため、役所調査の際、U字溝の状況や川の流れの状況を撮影した写真を持参して、担当課で写真を見せながら質問をすると、その場で、「許可が出るか否か」の回答をもらうことができます。

■浄化槽の維持管理

浄化槽はバクテリアの働きで汚物を分解するため、送風機を浄化槽ポンプで動かし、バクテリアに酸素を送っています。このため、電源を落とすと、バクテリアが死んでしまい、家の周りが汲み取り便所のような悪臭が立ち込めることがあります。居住者がその建物から去った後も、浄化槽ポンプだけは電源につないで使用中の状態にしておくことが大切です。また、トイレの掃除のために、黄ばみを落とす酸性の便器洗浄剤や漂白剤を使いすぎると、バクテリアが死滅し、同じように、悪臭が発生します(ポイント3)。

■浄化槽使用履歴の調査

現在更地で、「過去に浄化槽を使用していたかもしれない」という場合、浄化槽使用届を市区町村に出しているものについては、「浄化槽使用履歴を教えてください」と聞けば、すぐに回答が出ます。使用履歴がある場合、売主に「浄化槽のすべてを撤去したか、下半分を残して埋設したか」と質問し、売主の記憶が不鮮明の場合は、「地中障害物あり」として取引をすることが大切です。

ポイント1

下の写真のように、U字溝に洗濯した後の洗剤の泡や食べ物の残りかすなどが水に浮かんでいる場合は、雑排水が隣地から流れ出たもので、隣地は単独浄化槽を使用中ということがわかります。

ポイント2

過去に、水路の放流先となる川の水の流れが悪くなり、一時、浄化槽排水の許可が出ませんでした。その後、河川の改修工事が行われ、浄化槽排水の許可が出るようになりました(写真)。

ポイント3

バクテリアの力により浄化する仕組みの浄化槽の利用の際、黄ばみを落とす酸性の便器洗浄剤や漂白剤を使いすぎると、バクテリアが死滅し、トイレの悪臭が発生することがあります。消費者には、トイレの使用方法を告知しておくことが大切です。

出典:環境省「よりよい水環境のための浄化槽の自己管理マニュアル」より抜粋


不動産コンサルタント

津村 重行

昭和55年三井のリハウス入社。昭和59年に不動産物件調査業(デューデリジェンス業)に注目し、消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とする有限会社津村事務所を設立。研修セミナーや執筆活動等を行っている。著書に『不動産調査入門基礎の基礎4訂版』(住宅新報出版)などがある。