Vol.46 売買重要事項の調査説明 ~現地照合確認調査編⑥~
中高層の共同住宅の売買重要事項の調査の仕方


共同住宅の建築を目的とする不動産売買における重要事項調査においては、宅建業法に定められた法令以外にも、契約内容不適合に該当するものがあるかどうかの調査が大切になります。本節では、一般住宅地の取引とは異なり、見落とすと重大なトラブルになると思われる中高層建築物の調査ポイントを述べます。

中高層の共同住宅建築の法令制限のポイント

買主が共同住宅を計画している際は、役所の建築確認の担当課で、「ワンルームマンションの建築規制はありますか」「中高層建築物の建築規制はありますか」と、ストレートに質問をします。ワンルーム形式の建築規制では、「1住戸の床面積は29㎡以下、住戸が6戸以上の建築物」として、駐輪場の台数規制をしている行政もありますが、この規制は、市区町村ごとに異なります。一方、建築基準法では、「日影による中高層建築物の高さの制限」において、「中高層建築物」の定義は、①軒の高さが7mを超える建築物、②建築物の地階を除く階数が3以上の建築物、③高さが10mを超える建築物と定めています。これらの「中高層建築物の紛争の予防と調整に関する条例」等による建築規制がある場合、その主な内容は、①規制対象に該当する建物の定義、②事前に、建築計画の概要を記載した標識の設置、③周辺住民への建築計画の説明、④周辺住民の範囲、⑤周辺住民に説明をする説明図書、⑥テレビ放送の受信障害などについて、詳細な項目を定めています。このような法規制がある場合は、確認申請までに長期の調整日数が求められ、建築の工期に直接影響を与えるため、法規制の内容を示す概要書類の入手が大切です。

一方、これらの建築規制の方法では、「条例」「指導」とでは取扱いがまったく違い、「指導」は、「あくまでもお願い」にとどまるため、「指導を無視して住宅戸数を増やしたい」という買主には、「指導要綱は、将来、条例として法規制される可能性があるため、指導要綱に従わずに建築はできますが、将来、法令制限に適合しない不適合建築物になる可能性があります」との説明が必要です。

駐車場・駐輪場・ゴミ置き場等の設置義務

建築物の建築の際の計画戸数により、駐輪場の台数の設置義務を定める市区町村があります。その際は、駐輪場のスペースの寸法についても詳細に定めている場合があります。

また、共同住宅の建築物の延べ床面積が一定規模以上の場合に、駐車場の台数を確保する義務を定めた「駐車場附置義務条例」を定めている市区町村もあります(ポイント1)。

ポイント1

1棟の中高層共同住宅の売買の際は、通常の一般住宅の売買重要事項とは異なり、法規制も数多く追加されます。
駐車場附置義務条例に基づいて、駐車場台数の制限を受ける場合があります。

1棟の中高層共同住宅の売買のイメージ画像

そのほか、ゴミ集積所の設置義務を定めている市区町村も数多くあるので、注意が必要です(ポイント2)。

ポイント2

共同住宅の建築条例などにより、ゴミ置き場の設置義務などを定められている場合があります。

ゴミ置き場のイメージ画像

水道管本管からの取出し口径変更に開発負担金

前面道路内の「水道管本管の口径」、道路から敷地内に取り出されている「取出し口径」の情報は大切です。例えば、前面道路の本管が50mmの場合、75mm程度の大きな口径を必要とするような大規模な共同住宅の計画の場合には、50mmでは足りません。本管の口径をもっと大きなものにする必要があります。たとえば、メータ―が75mmの場合の局納金は737万円必要、40戸の共同住宅は、10戸を市が負担して、30戸×30万円の合計900万円の開発負担金を必要とするなど、行政によって異なりますが、多額の費用が発生します。これらの費用の一覧表を取得して、重要事項としてしっかり説明をすることが大切です。

文化財包蔵地内で掘削届が必要

建築予定地が文化財包蔵地内にある場合は、文化財保護法第93条による掘削届出が義務付けられていますが、一般住宅の建築で地面の下を深く掘り下げるような工事ではない場合は、試掘調査をせずに、「慎重工事」とされることが多くあります。しかし、共同住宅の建築の際は、一般住宅と比較して、基礎工事の際に地面を深く掘削することとなるため、ほとんどの建築の際に、「試掘調査」が必要となります。この試掘調査にかかる費用は行政が負担してくれますが、掘削作業の際に障害物が発見された場合の撤去費用は、地権者の負担となるため、重要な説明事項となります。建築用地が文化財包蔵地内に所在する場合は、この文化財包蔵地内において、「過去の試掘調査記録の有無」「試掘調査の経緯や期間はどうだったか」について、聞き取り調査をすることが大切です。その土地で「いつから工事に着工することができるかという目安」になるでしょう。

旧建物の浄化槽の届出記録の有無の調査

現況が更地であっても、地中にあった浄化槽が撤去されているとは限りません。浄化槽が地中埋設物として残置されていれば、撤去費用が別途、必要になります。そこで、過去に浄化槽を使用していたかどうかを調べる必要があります。一般に、浄化槽を設置する場合は「浄化槽設置届出」を提出しています。まず第一に、環境衛生の担当課で、「浄化槽設置届出の記録はありますか」と聞き取りをします。第二に、法務局で、「閉鎖建物の登記事項証明書」を申請し、「新築年月日」を確認します。第三に、下水道維持管理の担当課に行き、「下水道の供用開始時期の年月日」を確認します。

「下水道供用開始時期が新築年月日よりも古い場合」は、「旧建物は本下水」であり、「下水道供用開始時期が新築年月日よりも新しい場合」は、「浄化槽使用の建物」と、おおむね推定することができます。最後に、売主に対して、「浄化槽の撤去の際は、全撤去か、上半分のみの半撤去か」を告知してもらいます。売主が「知らない」場合は、「浄化槽は、地下に埋設されたまま」という前提での取引を行い、重要事項説明をします。

その他、共同住宅の建築では、「路地状部分の長さと幅員による建築制限」「敷地周囲の空地距離の制限」「延べ床面積による接道距離の制限」「延べ床面積による避難空地距離制限」などを定めている市区町村もありますので、建築確認担当課で、「建築基準法の制限のほかには、建築規制はないですか」と聞き取りをすることがポイントです。


津村 重行

不動産コンサルタント

津村 重行

三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。