Vol.47 売買重要事項の調査説明 ~取引直前調査編①~
敷地境界の確認調査の仕方


近々に売買契約を予定しているときは、契約を無事に遂行できるように、最終的な重要事項調査によって取引の安全を図ることが必要です。本節では、「売主による境界の明示」に関する確認調査について述べます。

境界の調べ方

境界の確認のためには、境界標を探すことから始めます。法務局から取得した公図を観察すると、そこに記載された取引対象地の隣接地が空白の場合があります。また、左右に分割された分割公図で、中心部分が空白の場合があります。このままでは、周囲の隣接地の土地の形状がわからず、四角い土地であっても境界点が4点とは限らず、ほかにも境界点が出てくるかもしれません。このような場合は、市区町村役場の固定資産税の調査担当課に行き、「地番図」または「土地調査図」と呼ばれているものを請求します。これは、固定資産税を課税する際に法務局の公図を参考に、市区町村役場が独自に作成したものです。これを見れば、空白の部分の地番が明らかになり、敷地が接する箇所の個数を確認することができます(ポイント1「公図」、ポイント2「土地調査図」参照)。

ポイント1

公図が左右に分割されている場合、対象地の隣地の地番が空白となっているため、隣地の地番が不明で、境界点の確認も困難です。周囲の状況を確認できる地図が必要です。

周囲の状況を確認できる地図
※分割公図(隣地は空白)

ポイント2

ポイント1のような分割公図等で、隣地が空白などで、隣地の状況を詳しく知りたいときは、市区町村が発行する「土地調査図(または地番図)」を取得すると、隣地の状況がわかります。

土地調査図
※市区町村が発行する「土地調査図」

境界と筆界の違い!

2006年1月20日、不動産登記法改正で「筆界特定制度」が施行されました。この制度は、敷地分割などの際に、「隣接地主が押印を拒むため分筆登記ができない」などの理由で申請をすると、筆界特定登記官が職権により筆界を定めてくれます。過去16年間に、37,000件が登記されています。登記されると、土地の登記事項証明書の表題部1ページ2行目の筆界特定欄が空白ではなく、No.等が記載され、筆界登記の有無を確認することができます。この制度では、「所有権の境界」と「筆界」とを分けて、「筆界」は“真の境界”と言われ、当事者間で合意して定めることはできません。しかし、「所有権の境界」は、当事者間で自由に定めることができます。この制度は、筆界を定める制度のため、筆界特定されても、「所有権の境界」は、そのままです。そうなると、2種類の境界が存在することになります。この筆界特定は、これまで5~6年かかっていたものを、おおむね10カ月での完了を目的としていますが、「検査を拒み、妨げ、または忌避した者」、「質問に対し陳述をせず、もしくは虚偽の陳述をした者」、「立入りを拒み、または妨げた者」は、「30万円以下の罰金」に処せられるという厳しい法律です。このようなことから、隣地と口も聞けない険悪な関係や過去に境界紛争があっても、申請することができます。筆界特定のある物件は、「売主による境界の明示」がスムーズになりますが、「所有権の境界」と一致していない場合もあるため、法務局の筆界特定図(450円)を取得して確認することが必要です(ポイント3「筆界特定図」参照)。

ポイント3

法務局で筆界特定されると、次のような「筆界特定図面」が作成され、450円で、「筆界特定図面」の交付の申請ができます。筆界特定の申請に至る理由等の記載のある「筆界特定書」の交付には、個人情報が記載されているため、所有者の委任状が必要になります。

境界特定図面(参考)

境界特定図面(参考)
※法務省が公開している筆界特定図面を編集

廃案になった境界確定制度とは!

筆界特定制度が施行される2年前の、2004年5月28日、「新たな土地境界確定制度の創設に関する要綱案」が法務省から発表されました。一言で言うと、「境界確定制度要綱案」です。「この制度において“境界確定”とは、土地の境界が明らかでない場合において、この制度の定めるところにより法務局または地方法務局の長の指定する登記官が境界を確定することをいうもの」とされ、「土地所有者からの申し出」または「法務局の地図作成の際に、登記官が必要と認めたとき」に、「筆界および所有権の境界」を確定させるという画期的なものでした。この制度が法律化されたなら、全国の境界紛争は一気に解消したことでしょう。これまでの境界紛争の訴訟では、「所有権確認訴訟」と「境界確定訴訟」の2種類がありましたが、これら2種類の境界を登記官職権で定めるものでした。しかし結果は、日の目を見ずに、この「境界確定制度要綱案」は、廃案となりました。その2年後、現在の筆界特定制度が施行され、所有権の境界には関わらずに、筆界のみを定めることとなりました。

“境界非明示特約”の売買は信義則違反の可能性が!

売買契約において「境界非明示特約」を付加する場合は、注意が必要です。例えば、敷地境界の非明示による不動産取引で、後日、隣地が1.0m幅の敷地越境の事実が判明した場合、売主は、買主から損害賠償請求を受ける可能性があります。また、仲介業者も不真正連帯債務として損害賠償請求される可能性があります。過去の事例では、「契約の一方当事者が、当該契約の締結に先立ち、信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には、上記一方当事者は、相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき、不法行為による賠償責任を負う」(平成23年4月22日、最高裁)としています。民法第1条の信義則上の義務に違反した境界非明示取引による買主の損害に対しては、売主側に不法行為責任による損害賠償請求が行われ、20年間の時効により責任が加重される可能性があるため、注意が必要です。


津村 重行

不動産コンサルタント

津村 重行

三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。