Vol.49 売買重要事項の調査説明 ~取引直前調査編③~
添付書類の情報から得られる品質性能に関する情報


不動産の売買契約締結日が近づく頃には、不動産の重要事項の調査もおおむね完了し、重要事項説明書に添付できる添付書類の数も、40数種類に及ぶことさえあります。

これらの添付書類には、それぞれに、文書の性質や内容からは、通常、有する不動産の品質性能の欠陥に係わる重要な情報を含んでいることがあります。本章では、添付書類の情報における品質性能に関する特に重要なポイントについて述べます。

登記事項証明書の情報は公正証書原本の写しに該当する

昭和36年3月30日、最高裁・斎藤悠輔裁判長は、土地家屋調査士が21町歩の土地を4町歩と偽り虚偽の分筆登記をした事件で、公正証書について次のように述べています。

「刑法の権利義務に関する公正証書とは、公務員がその職務上作成する文書で、権利義務に関する事実を証明する効力を有し、公務員において申し立てに基づきその内容のいかんを審査することなく記載するもので、土地台帳は、いわゆる権利義務に関する公正証書に該当する」。

昭和35年の不動産登記法改正により、土地台帳から登記簿台帳となり、平成17年3月には登記記録となりましたが、土地台帳と同等のものは、登記記録(登記簿)であり、「登記事項証明書は、公正証書の写し」に該当します。したがって、この登記事項証明書に記載された内容に誤りがあったとしても、これを信じて疑わずに、宅建業者が不動産売買の仲介をした場合、宅建業者の過失とはなりません。これが、「登記に公信力がない」とされるゆえんです。

地積測量図の作成年月日から信ぴょう性の情報を得る

法務省の民三通達について、「昭和52年9月3日、法務省が民三通達第4473号民事局通達以降は、地積測量図の誤差の限度は明確であるが、通達以前に提出された地積測量図においては、現在の基準により低精度のものがある可能性がある」として、法務省は「昭和52年9月3日以前に作成された地積測量図は信ぴょう性が低い」としています。

特に、法務局に提出された作成年月日が昭和52年9月3日以前のものは、トラブルが生じやすいので、顧客に交付する前に、必ず現地と照合をします。その結果、現況寸法との大きな相違がある場合は、その個所について、相違のある事実を告知することが大切です。

開発計画図面から切土盛土の情報を得る

中古住宅の内覧の際、台所や脱衣場などの水回りの設備が集中する個所の床が、沈むように傾いているのを目にすることがあります。それは、湿気などにより床下土台に腐食等が生じたことによるものが多いのですが、それ以外に、湿気もなく床下が乾燥しているはずのリビングルームなどの床が傾いていることがあります。こういった現象は、床下をベタ基礎としていないときに、不等沈下により、土台の下の土砂が移動したときに起こることがあります。丘陵地帯の宅地開発事業では、切土や盛土などの宅地が必然的に発生します。

このような、地盤の軟弱度の程度などの品質性能の欠陥に関する情報は、開発許可の際の開発計画図面の文書が有効な情報源となります。計画図面には、開発事業実施前の地盤高と開発事業計画後の地盤高を記載されていることが多く、それぞれの地盤高の差は、切土・盛土となった箇所となります。工事前より数値が多ければ、そこは盛土であり、工事前より数値が低ければ、そこは切土です。盛土の場合は、敷地の土砂が、隣地との境界にある擁壁などの下に、年月経過とともに下へ下へと流失し、不等沈下が発生しやすい状態にあります。土砂が移動したとき、その上に土台があれば土台が宙に浮き、建物の傾きにつながるというわけです。

盛土の有無は、宅地性能に関する重要な情報となります。このような宅地性能の情報のことを、“造成履歴情報”ともいいます(ポイント参照)。

ポイント

開発計画図面には、現況の地盤高(GH)と計画地盤高(FH)が記載されていることがあります。その場合は、宅地造成履歴図面として、情報を得ることができます。計画地盤高が現況地盤高より大きいところは“盛土”です。

※以下の開発計画図面に、FHとあるところ(大きい赤丸部)は、計画している地盤高です。一方、中黒の点の個所(小さい赤丸部)に記載されている数値は、現況の地盤高に該当します。

開発計画図面

境界線に接近する建物の概要書から情報を得る

建築確認の際の建築計画概要書に、「境界に接近して建築物を建築する際は、隣地に十分に配慮をすること」などの文言が付加されていることがあります。これは、「防火地域または準防火地域内にある建物で外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる」(平成元年9月19日最高裁)とされていますが、防火地域、準防火地域以外での地域では、「建物を築造するには、境界線から50cm以上の距離を保たなければならない」(民法234条)とする相隣規定があるからです。現地において、建物外壁が境界線より50cm未満の場合は、その簡易計測した数値を敷地現況図等に記載をして、告知することが大切です。

敷地現況図には、「建物の隣地境界線までの距離は、約40cm(50㎝未満)」と記載します。


津村 重行

不動産コンサルタント

津村 重行

三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。