Vol.50 売買重要事項の調査説明 ~取引直前調査編④~
区分所有建物の売買における注意点について


区分所有建物の不動産売買には、敷地権付き区分所有建物と共有持分方式がありますが、重要事項調査の際に見落とすと、大きなトラブルに発展することがあります。本章では、その注意点について述べます。

マンション敷地権制度に欠陥

全国の法務局では、昭和60年ごろから、全国一斉に大きなマンションから順に「敷地権の登記」を実施しました。敷地権登記は「敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には、区分所有者は、その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができない」(区分所有法第22条)というものです。

こんな事件がありました。

区分所有マンションの建物の登記事項証明書を取得したところ、「敷地権の表示」があり、敷地権の種類は所有権、そして、敷地権割合と敷地権登記の日付が記載されています。また、乙区には、抵当権の設定登記が記載されています。敷地権登記の建物は、土地と分離して処分ができないため、建物の調査で原則的に問題はないはずですが、敷地権の目的である土地の登記事項証明書を取得すると、乙区に地役権が登記されていました(ポイント1参照)。

ポイント1

専有部分の建物登記事項証明書に、地役権等の情報等について一切記載がない場合でも、敷地権の対象となっている土地の登記事項証明書には、「地役権設定」の登記が行われていることがあります。このことについて登記官は「敷地権登記制度の欠陥」と表現しています。

専有部分の建物登記事項証明書

法務局に「乙区に記載されている地役権などの登記情報が、なぜ建物の登記事項の乙区に記載されないのですか」と照会したところ、「敷地権制度のシステム上の欠陥です」との回答でした。

区分所有マンションの建物の登記事項証明書を申請するときは、トラブル回避のため、忘れずに、土地の登記事項証明書も申請しましょう。

規約設定共用部分の建物の存在

マンションの登記には、“駐車場”“電気室”“倉庫”などの規約設定共用部分の建物が登記されていることがあります。大型の区分所有マンションでは、通常の建物の専有部分の登記事項証明書の申請だけでは、“駐車場”などの登記事項証明書は出てこないことがあります。建物の登記事項証明書の申請をするときは、「土地上にあるすべての建物を出してください」と法務局の受付でお願いします。そうすると、独立して登記されているものが出てくることがあります。しかし実は、この方法ではすべての規約設定の建物の登記事項証明書が出ない場合があります。そのため、市区町村役場の固定資産税課で、税額記載の固定資産評価証明書の交付申請をします。この申請は、所有者の委任状が必要です。その他、売主に対して「お手元に届いている固定資産税納付書をご持参してください」とお願いをして、固定資産税納付書の記載項目を確認し、専有部分以外の建物があれば、すべての建物の登記事項証明書を取得します。これらは“規約設定共用部分の登記”の可能性があります。この規約設定共用部分の登記がある場合には、事前に、司法書士に登記費用の概算見積もりを依頼し、買主に説明します(ポイント2参照)。

ポイント2

固定資産税納付書には、土地および建物についての固定資産評価額が記載されています。記載内容で、専有部分の建物以外の記載の家屋番号があるときは、必ず、建物の登記事項証明書を取得します。下表は、種類は倉庫で、規約設定共用部分として登記されていることがわかります。

固定資産税納付書

登記費用は、専有部分の建物の価格、土地の敷地権割合の価格、規約設定共用部分の建物の価格などが登録免許税に加算され、通常よりも高くなるので注意が必要です。

登記されていない管理人室

よくあることですが、駐車場は規約設定共用部分で登記されているのに、管理人室や集会場は登記されていない事例が、大手分譲マンション業者の物件でも見つかっています。

たとえ管理規約で「規約共用部分」と定めていても、「建物の部分および附属の建物は、規約により共用部分とすることができる。この場合には、その旨の登記をしなければ、これをもって第三者に対抗することができない」(区分所有法第4条第2項)ので注意が必要です。たとえば、分譲主が債務整理となり財産が第三者に譲渡された場合は、未登記建物をめぐってトラブルになる可能性があります。このような場合は、「管理人室は、管理規約第〇条では規約共用部分としています。管理人室は未登記です」などと説明することが大切です。

マンションごとに異なる管理情報

国土交通省は、令和3年6月に「マンション標準管理委託契約書」の改正を発表しましたが、その第14条「管理規約の提供等」のコメントでは、「宅地建物取引業者が、媒介等の業務のために、宅建業法施行規則第16条の2等に定める事項について、マンション管理業者に当該事項の確認を求めてきた場合の対応を定めたものである」としています。また、「マンション管理業者が提供・開示できる範囲は、原則として管理委託契約書に定める範囲となる。一般的にマンション内の事件、事故等の情報は、売主または管理組合に確認するよう求めるべきである」としています。

現実は不動産トラブルが多様化しており、(一社)マンション管理業協会は、「管理に係る重要事項調査報告書作成に関するガイドライン」を策定していますが、管理会社による管理情報の提供内容は管理組合の承諾を必要としているため、「管理情報項目」がガイドラインどおり一定ではなく、その提供内容は該当マンションごとに異なります。

したがって、マンション管理会社が提供する「管理に係る重要事項調査報告書」には、重要事項の抜け落ちが存在する可能性が高いため、不足情報があるときは、必ず、管理会社や売主に質問をするということが大切です。


津村 重行

不動産コンサルタント

津村 重行

三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。