Vol.54 売買重要事項の調査説明 ~法令調査編①~
役所調査における歩く順番の決め方


不動産売買における不動産物件調査では、各役所における法令の調査が難しいというのが実情です。法令調査の対象となる条項は、令和5年7月1日時点で、147条項に及んでいるほか、役所ごとに定められている条例や指導要綱が存在することが、法令の調査の難しさに輪をかけています。この難題を解消するために、今回は、役所における法令の調査の仕方について、そのポイントを述べます。

役所調査で得られる2種類の情報

役所調査で得られる情報は、2種類しかありません。①「聞き取り調査により得られる情報」と②「交付書類に記載された情報」です。

しかし、ここに重大な問題があります。交付書類には、公印や担当部署の記載がありますが、「聞き取り調査により得られた情報には、証拠がない」ということです。そこで、役所から得られた聞き取りによる不動産情報には、聞き取りをした際の担当者の名前を重ねて聞き取る必要があります。「ご担当者のお名前を伺っていいですか?」と。この記録は、「聞き取り調査メモ」として、後日のために保存することが大切です。具体的には、「聞き取り調査保存用シート」を用意し、「調査年月日」、「調査項目」、「担当課名」、「担当課の所在建物」、「担当者名」、「聞き取り者の氏名」などを記載できるようにします(ポイント参照)。そして、記録は、少なくとも10年間は保存しておくことが大切です。

ポイント

役所調査で得られる情報は、①「聞き取り調査により得られる情報」と②「交付書類に記載された情報」の2種類です。このうち、「聞き取り調査により得られた情報には、証拠がない」ということに問題があります。下記のような「聞き取り調査保存用シート」を用意しましょう。(参考事例)

聞き取り調査保存シート

役所調査の歩く順番を決めておく

役所調査をしたことがある人は、役所に入り、手近な部署を皮切りに片っ端から聞いて回るというやり方をして、「役所内を行ったり来たりして、同じ通路を何度も繰り返して歩いた」といった苦労をした経験があるのではないでしょうか。このような無駄な時間をなくすために、次のような手法があります。

最初に、「都市計画に関する情報」を調べます。たとえば、都市計画の担当課で「計画街路あり」と聞いた場合、その詳細情報については、「計画街路の建設担当部署」ですので、その場から担当課へ移動して、そこで詳細に調査します。つまり、都市計画の担当課は、不動産調査の入口となります。そして、最後に訪問する担当部署が、「建築確認の担当課」です。つまり、都市計画課と建築確認担当課の間に、さまざまな重要な担当部署を効率よく配置して巡回するのです。これが、役所調査の歩く順番です。この間の担当部署は、建物の上層階の担当課にエレベータで行き、その後は、階段で下に降りて行きながら順番に回る、という方法です(下図参照)。

図 役所調査の歩く順番イメージ

役所調査の歩く順番イメージ

都市計画担当課で調べること

どのような物件にも、共通する法令調査項目というものがあります。都市計画の担当課では、「用途地域の名称」「建蔽率・容積率」「地域地区計画の名称」「防火・準防火地域」「絶対高さ制限」「最低敷地面積」「高度地区の名称」「最高高さ」「最低高さ」「計画街路」「都市計画公園」「生産緑地」「立地適正化計画」「景観法届出」「駐車場整備地区」「工業団地地区」「屋外広告看板の届出」などを調べます。

最後に回る部署は「建築確認担当課」

「建築確認担当課」では、「台帳記載事項証明書の記録」「建築計画概要書」「工作物確認の記録」「建築基準法の該当道路」「2項道路の敷地後退距離」「道路位置指定図」「検査済証交付の有無」「43条許可要件・手続き」「再建築時に他の法令の規制の有無」などを調べます。

建築確認担当課の調査を最後にする理由は、すべての関係法令の調査を終了した後で、「再建築を予定していますが、建築基準法以外の建築規制はありますか」と質問をする必要があるからです。このような質問をすると、「物件の所在地は地盤沈下区域のため、再建築時は、基礎の上に鉄骨を載せて建築工事に入るなどの建築規制があります」といった回答が返ってくることがあります。実際に、地盤沈下区域は個人情報扱いされ、一般に公開されていない状態で建築規制をしている、という事例がありました。このように歩く順番をいつも一定にしていると、調査ミスや調査のし忘れを防止することができます。担当課の正式な名称と所在階は、総合受付カウンターで聞いておきましょう。


津村 重行

不動産コンサルタント

津村 重行

三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。