Vol.59 現況有姿の説明資料作成編①~
敷地現況図の作成手順について


中古住宅の不動産売買の多くは現況有姿売買方式ですが、現況についての説明が十分でなかったために、不動産トラブルが生じた事例があります。このようなトラブルの発生を防止するためには、消費者にも理解できるように丁寧に現況を説明し、現況説明のための資料の作成が重要なポイントとなってきます。今回は、現況を説明するための資料として、「敷地現況図」の作成の手順について述べます。

重要事項説明では簡単な文章による説明ではなく、図面で説明を!

従来から、不動産売買における重要事項説明の際は、簡単な文章にして重要な事項を記載するという風潮がありました。しかし、物件に対する現況認識に一般消費者と宅建業者との間には、知識や情報の点で大きな差が存在するために、トラブルが生じると、「宅建業者側に説明不足があった」と訴えられることがあります。そのため、作成した現況の図面で説明をするほうが、消費者にとっては、はるかに理解しやすく、納得しやすいものになります。その資料の1つが「敷地現況図」(ポイント参照)です。

ポイント

一般消費者と宅建業者との間では、敷地の現況把握の仕方には相当な差があり、その差を埋めるためには、下記のような敷地現況図などの資料を作成して、できるだけ丁寧に、具体的な説明をすることが、取引の安全につながります。

敷地現況図

現況調査方法の基準について

現況調査の調査方法基準とは、「歩行その他の通常の手段により移動できる位置において、少なくとも仕上げ材、移動が困難な家具、物置、工作物等により隠蔽されている部分を除き、当該位置の地上面、床面等からの高さが2m以内の部分における目視により認められた劣化事象等のほか、自重による床の沈み等を対象」(平成30年国土交通省告示第490号より抜粋)を基準として行うものです。

図面作成にはエクセルファイルが最適!

図面作成手順として、マイクロソフトのエクセルソフトを事例に説明をします。

図面作成で最初に行うのは、敷地の形状をできるだけ現況に近い図形に作成することです。地積測量図が存在するときは、敷地形状部分を切り取り、それを画像に変換し、白紙のエクセルファイルに「貼り付け」ます。道路部分に不足があるときは、直線を追加します。この図形は、現況説明用ですので、寸法等が正確に記載されていなくても問題はありません。

道路幅員を記載する!

次に、道路幅員を記載します。10m以上の広い道路でない場合の道路幅員は、2点測量をし、2カ所の道路幅員を記載します。角地の場合は、それぞれの道路の2カ所の幅員を記載します。その際、挿入ボタンからテキストを選択し、さらに、横書きのテキストボックスを選択するとテキストボックスが作成できます。その中に、4.5m等と記載し、そして、テキストボックスをクリックしながら記載したい個所に移動して配置します。

道路内設備を記載する!

次に、道路内の電柱位置に図形の○を描画し、塗りつぶし色では赤系の色を選択します。○に対する矢印を描画し、電柱番号を記載します。そして、汚水マンホールの位置に○を描画し、茶系の色を選択します。雨水マンホールの位置に○を描画し、青系の色を選択します。それぞれ塗りつぶしをして描画します。塗りつぶしの色は、塗りつぶしたい図形の上で右クリックをして、図形の書式設定を選択し、塗りつぶしボタンから適当な色を選択します。道路内にガス点検口がある場合は、ピンク系の色で塗りつぶしをして描画します。水道の止水栓、排水弁、制水栓などは青系の色で塗りつぶしをします。U字溝は、長方形を記載し、図形の塗りつぶしパターンを選択すると、色と模様が描画でき、見やすい図面を作成することができます。

敷地内の状況を記載する!

敷地内の状況で建物が存在するときは、法務局にある登記建物図面を活用します。

建物部分を切り抜き画像に変換をして、作成済みの敷地図面に配置します。その際、敷地図面の外側に貼り付けをし、□の図形を建物図面の形状に合わせて、塗りつぶしの色をグレー系にします。複数になる□の図形をグループ化させて1つにまとめれば、建物図面の作成が完成です。建物図面が出来上がったら、元の登記建物図面は不要のため削除して、この建物図面を敷地図面の中に入れますが、大きさは、最初から合わないため、建物図面を拡大または縮小しながら、位置合わせをして完成させます。

境界線の図形を記載する!

境界線上の状況を描画する場合、ブロック塀のときには、塗りつぶしパターンを選択し、□の図形を長細くすると、ブロック塀の形状になります。この画像の角度を敷地図面に合わせたいときは、サイズとプロパティのボタンを選択し、サイズを選択し、その中の回転の数値を上下させることで、角度の変更ができます。その際に、微少のずれが生じたときは、敷地図面の方で修正すると、きれいな図面が完成します。境界線がネットフェンスや植栽のときには、太い点線等で色合いを緑系の色にします。点線は、直線を描き、それを選択して、右クリック図形の書式設定を選択して、を選択し、色や太さを選びます。

敷地周囲の寸法を記載する!

敷地周囲の寸法は、道路幅員を記載した要領でテキストボックスを配置するだけで完成します。その際、境界標を描きます。境界標は、テキストボックスに□を描画してその中に十字を記載すれば、十字印の四角い境界標ができます。作成の際、少し大きく拡大した図形にすると、きれいな境界標が完成します。そのあとは、必要な大きさに縮小して完成です。境界標は各敷地の角に配置します。境界標が無い箇所は、小さな中黒の●印にします。

敷地高低差を記載する!

敷地高低差の記載方法は、建物の基礎部分がある周囲の土地の高さを0mとして、その他の宅盤高低差を+0.50m、-2.20mなどと、テキストボックスで記載します。そうすると、隣地は、本物件より、高い、低いということが一目瞭然になります。

維持管理状況を記載する!

最後に、土地や建物の欠陥に関する事項は、すべて、この敷地現況図に描画します。設備の亀裂・破損、建物や設備の傾き、越境などをわかりやすく描画して、重要事項説明の際の説明資料とすることにより、誰が見ても理解できる契約内容不適合の事象の周知が行え、不動産トラブルの防止に役立つことでしょう。


津村 重行

不動産コンサルタント

津村 重行

三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。