Vol.64
従業員が知りたい不動産調査基礎編①
現地調査のための調査道具の選び方!
宅地建物取引業法に基づく宅地建物取引士の資格を取得したのち、「すぐに不動産取引の実務を行うことができるか」といえば、難しい話です。不動産取引の実務の教育機関がないため、経験の浅い人たちに向けた実務知識に関する情報が必要です。そこで本編では、「現地調査のための調査道具の選び方」に関する実務知識を述べたいと思います。
現地調査の七つ道具
不動産調査のための調査道具については、宅建業法上の定めは一切ありません。しかし、宅建業者の調査説明責任が問われ、損害賠償を求められる事例があるため、不動産トラブルの防止に役立つと思われる調査道具を紹介します。
①デジカメ
現地調査の際に必須です。不動産の現況を説明するための現況写真を撮影します。撮影箇所は、(1)境界標 (2)電気・ガス・上下水道の諸設備 (3)境界塀・建物外壁・基礎の毀損(きそん)状況や残置物 (4)境界線上の越境物 (5)全景など。重要事項説明では、言葉や文章にして説明するよりも、現況写真を添付するほうが、説明不足によるトラブルリスクが少なくなります。スマートフォンのカメラ機能でも代用できます。
②5mスチールメジャー
前面道路の幅員、隣地や道路との宅盤高低差を計測する際に必要になります。
③20m、50mスチールメジャー
スチール製のメジャーは精度が高いため、計測数値に温度補正、張力補正が不要です。計測は2人で行います。
④20m、50mビニールメジャー
やわらかく使いやすい反面、スチールメジャーとは違い、温度補正、張力補正が必要となります。誤差が大きくなる場合があります。
⑤デジタル距離計
最近では10,000円ほどで販売されるようになりました。誤差は1,000分の3程度で、計測された数値の精度は高いです。レーザーを発射して、反対側までの距離を計測します。室内用と室外用があるので注意が必要です。
⑥レーザー反射板
デジタル距離計とあわせて使用するもので、3,000円ほどで販売されています。これがあれば、1人でも、敷地周囲や広い道路の幅員を容易に計測することができます。
⑦レーザー反射板スタンド
デジタル距離計を使って1人で計測する際に、反射板を自立させます。
⑧スコップ
家庭菜園用のスコップで、百均で販売されているもので十分です。境界標を探す際に、表面の土を除去するために使います。境界標を発見できないときは、土を除去した穴にスコップを入れて写真を撮れば、後日、その穴は30cm弱の穴であるということがわかります。
⑨赤白ポール
境界標を発見したら、その上に立てて撮影します。赤い部分と白い部分がそれぞれ5cm間隔で描かれているため、計測もできます。
⑩剪定(せんてい)バサミ
境界標の周りに絡みついた木の根を取り除く際に使います。せっかく見つけた境界標の印が判明できず、矢印杭なのか、マイナス杭なのか、十字杭なのか、種別が不明なときに役立ちます。
⑪掃除ブラシ
境界標の表面の土砂を除去するために必要です。
⑫0.5mm芯のシャープペンシル
建物外壁や基礎に亀裂がある場合、シャープペンシルの芯を20mmほど出して、亀裂に差し込みます。芯が楽に入る場合は、その建物は“構造的な欠陥のある建物”です。建物価格をゼロ円として売買することが賢明です。幅0.5mm、深さ20mmの亀裂は、構造的欠陥の値です。
⑬黄色マーカーペン
さまざまな色のマーカーペンが発売されていますが、測量図に黄色のマーカーペンで記載した図形は、コピー機を通したあときれいに消えます。その他の色では、図面が汚れてしまい、文字が見えなくなります。
⑭三角スケール
ボールペンほどの大きさのもので十分です。100分の1、200分の1、250分の1、300分の1、500分の1、600分の1の表示があります。公図や測量図などを観察する際に、寸法の確認に必要です。
あると便利な調査道具
以下に述べる調査は、宅建業者が通常行っていない検査業務ですが、事前に“特別依頼調査”として価格表などを提示して、依頼を受けることができます。
⑮デジタル水平器
建物の床や柱の傾斜などを計測する機器で、デジタル数値で表示されます。宅建業者には検査義務がないため、通常の業務ではありません。事前に、「特別依頼調査」として依頼を受けることができます。建物の傾きは、1,000分の6を超える場合は、構造的な欠陥とされます。4,000~5,000円で販売されています。
⑯LEDライト
床下や天井裏の状態を検査する際に、LEDライトで照射しながらデジカメで撮影をすると、暗闇にある雨のシミやシロアリ被害などを撮影することができます。床下や屋根裏の検査は、宅建業者の通常の業務範囲ではないため、依頼を受ける際は、事前に“特別依頼調査”として受けます。
不動産コンサルタント
津村 重行
三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。