Vol.63
売主情報の確認編③
暴力団事務所の所在による心理的瑕疵対策!


不動産取引の中で、心理的瑕疵といわれる分野のうち、「暴力団の所在による不動産の契約内容不適合」に対するリスク回避対策は、とても難解な分野かもしれません。本稿では、その状況およびリスク回避対策等について述べます。

️向かいの暴力団の存在で20%を損害金と認定

こんな事件がありました。

取引対象の土地は、「JR常磐線綾瀬駅前から派生する飲食店街の裏街区に位置し、小売り・物販等の一般商業用途にはなじまない場所にあること、本件暴力団事務所(甲野会)のある建物は木造2階建て店舗兼共同住宅であり、少なくとも本件契約時には、建物には何ら暴力団事務所としての存在を示すような代紋等の印は掲げられておらず、建物は暴力団事務所であることを示すような外観を何ら呈していなかったことが認められる。通常の人が本件土地の買主となった場合には、現場を検分しても事務所の存在を容易に覚知し得なかったものというべきであり、通常の人が暴力団事務所の所在を容易に調査し得る方法の存在を認めるに足りる証拠はないから、本件暴力団事務所の存在は本件土地の隠れた瑕疵に該当するものというべきである」とし、「本件土地の交差点を隔てた対角線の位置に甲野会系の暴力団事務所が存在することが、宅地としての用途に支障を来し、その価値を減ずるであろうことは社会通念に照らし容易に推測される」として、平成7年8月29日、東京地裁 塚原朋一裁判長は、3名の不動産鑑定士の評議で20%を損害額と認定しました。

最近の暴力団情勢

警察庁組織犯罪対策部の「2023年 暴力団情勢と対策」によると、令和4年度末の主要団体等の暴力団構成員等の総数は16,100人で、寡占化が進んでいるとして、暴力団の最近の特徴について、次のように報告しています。

①凶悪化:暴力団は、自己の意に沿わない事業者に対して、拳銃の発砲、手りゅう弾の投てき、放火等といった報復、見せしめとみられる襲撃事件を敢行したり、組織内部の争いから、銃器を用いた対立抗争事件を引き起こしたりするなど、凶悪事件を敢行している。②不透明化:暴力団対策法が施行された後、暴力団は組事務所から代紋、看板等を撤収し、名簿等に構成員の氏名を記載せず、暴力団を示す名刺を使用しないなど、組織実態に関する事実を隠ぺいする傾向が強まっている。③活動の多様化:覚醒剤、賭博等の伝統的な資金獲得活動や民事介入暴力、行政対象暴力等に加え、その組織実態を隠ぺいしながら、建設業、金融・証券市場へ進出し、企業活動を仮装して、一般社会での資金獲得活動を活発化させている。

️主要団体の特徴

「2023年 暴力団情勢と対策」では、主要団体(ポイント参照)の状況を次のとおり分析しています。

[六代目山口組]令和4年2月に幹部の降格人事を行う一方、同年3月に死去した直系組長の跡目を継承した組員を直参(じきさん)に昇格させるなど、体制の維持を図っている。[神戸山口組]令和4年8月および10月に直系組長の絶縁・除籍を行ったが、昇格人事を行うことで体制の維持を図っている。[絆會(きずなかい)]執行部会やブロック会議等の会合を開催しているほか、本部長や若頭補佐への昇格人事を行い体制の維持を図っている。[池田組]令和4年12月、六代目山口組との間で「特定抗争指定暴力団等」に指定された。[住吉会]令和4年5月に死去した代表の葬儀が傘下組織事務所において行われるとともに、埼玉県内の住吉会関連施設において、会長以下約350人が出席し、四十九日法要が開催された。[稲川会]六代目山口組への時候挨拶を行うなど、その関係を維持している。

契約内容不適合に該当しないことの合意

このような暴力団の所在の有無について、「どのような事象が契約内容不適合であるか」といった定義づけは、民法において規定がないため、行うことはできません。無理に定義づけすれば、その先には「買主に不利な特約」という言葉が待っています。このため、「契約内容不適合の合意」をしないで、「契約内容不適合に該当しない事象の合意」をする方法があります。「宅地としての用途に支障を来し、社会通念に照らし容易に推測される事象」について、あらかじめ合意をすることがリスク回避対策の切り口になります。以下のような具体的な特約合意文書を活用するのも、リスク回避対策にいいかもしれません。

「指定暴力団および団体規制法に基づく観察処分中の団体・事務所の所在による生活不安感の契約内容不適合に該当しない事象は、日常生活において通常利用しない道路に接して所在するものおよび取引対象不動産の敷地が接する道路に面する街区内に所在しないものは、買主の特段の申出がない場合は、契約内容不適合には該当しない」(「契約内容不適合事象の確認合意書」)。

ポイント

「指定暴力団分布図」は、令和4年末時点のもので、一部に変更が生じている場合があります。組織が、代紋や看板を隠し、凶悪化・透明化していることが特徴です。

指定暴力団の状況

注1:本表の「名称」、「主たる事務所の所在地」、「代表する者」、「勢力範囲」及び「構成員数」は、令和4年末現在のものを示しています。
ただし、五代目工藤會の「勢力範囲」については、令和5年2月28日現在のものを示しています。

注2:令和4年末における全暴力団構成員数(約1万1,400人)に占める指定暴力団構成員数(約1万1000人)の比率は96.5%となっています。

出典:「2023年 暴力団情勢と対策」警察庁組織犯罪対策部より抜粋


津村 重行

不動産コンサルタント

津村 重行

三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。