Vol.16 不動産物件調査技術の基礎 ~役所調査編~
接道義務および建築可否の調査と説明義務


もしも、「建築基準法第42条各項の記載説明は宅建業法の説明義務項目ですか?」と問われたら、「あれ?」と、考え込む方も多いと思います。今回は、いつも使用されている「売買重要事項説明書の様式に、なぜ『敷地等と道路との関係』項目があるのか」について述べたいと思います。

位置指定道路の所有者全員の承諾がなくても瑕疵(契約不適合)ではない

こんな事例があります。

平成8年に、一般売主と買主が仲介業者を通して、6,480万円で、住宅の新築を目的に土地建物の売買契約を締結しました。ところが、「本件土地の接面道路は、私道であり、建築基準法上の道路ではないから、本件土地を建築物の敷地とするには、道路位置指定を受けるために道路となる敷地の所有者全員の承諾に基づく通路協定が必要であるのに、現実にはそのような通路協定は成立していなかったのであるから、被告仲介業者としては、この点について正確な事実を調査してその結果を買主に対して説明する義務があるのにこれを怠った。右債務不履行により、本件仲介手数料相当の金100万円及び買主が本件売買契約において支払った本件手付金相当金600万円の合計金700万円の損害を被った」と、買主は訴訟を起こしました。

しかし判決では、「仲介業者は、重要事項説明書に記載のとおり、平成8年9月付で建築基準法43条ただし書きの適用により本件土地上に一戸建ての住宅を新築するための建築確認を得たことが認められる。したがって、本件土地の接面道路について、道路となる敷地の所有者全員の承諾に基づく通路協定が成立していなかったとしても、そのことが(旧)民法570条所定の“隠れたる瑕疵”に当たるということはできないし、また、売主において、本件売買契約に付随する義務として、本件土地の接面道路について通路協定が成立していなかったことを買主に対して告知する義務があるということもできない」としてすべての請求を棄却しました(東京地裁平成9年12月25日)。

これは「接面道路が建築基準法第42条に該当するか」ではなく、「建築物の敷地が建築基準法上の道路に接しているかどうか」と「無事に再建築できるか」が問われた事件です。

売買の重要事項の説明義務項目に建築基準法第42条各項はない

ところで、宅建業法では重要事項の説明義務項目として、建築基準法に関するものは37項目(令和2年5月1日現在)あります。

その最も若い条項は、建築基準法第39条第2項「災害危険区域」であり、その次は、第43条「敷地等と道路との関係」…そして、第45条第1項「私道の変更又は廃止の制限」へと続きます。そこに、第42条の項目はありません(ポイント1)。

また、国土交通省は「宅地建物取引業の解釈・運用の考え方」において、「売買重要事項説明書の様式」を一般公開しており、その様式には、法第42条などの記載箇所(接面道路の種類、方向、幅員、長さ、セットバック部分の面積等)は、ありません(ポイント2)。

つまり、宅建業法で定める売買重要事項説明書の記載説明項目に、建築基準法第42条第1項第1号から第5項、同法42条第2項などについての記載説明義務項目がないのです。

しかし、不動産業界団体の書式には、記載説明項目を設けています(ポイント3)。このことが、とても大切です。

建築基準法第43条の「敷地等と道路との関係」では、「建築物の敷地は、道路に2m以上接しなければならない」としています。この道路とは、建築基準法上の道路のことで、「敷地は基準法上の道路に2m以上接しているか否か」を重要事項として説明せよ、ということです。この条件を満たされなければ、原則的に目的の建築物の建築はできません。そうすると、「建築基準法第42条第1項第1号(道路法による道路)の該当の有無」など自体が、調査の目的ではなく、「敷地は基準法上の道路に2m以上接しているか否か」「目的の建築物が無事に建築できるか否か」などの目的のための調査として、初めて意味を持つということです。先ほど述べた裁判事例は、「建築物が建築できるか否か」を考えずに、「法42条第1項第5号(位置の指定を受けたもの)に接していないこと」を問題としたことで起きた事例といえます。

ポイント1

下記の表のように、宅建業法施行令第3条の売買重要事項説明の義務項目のうち「建築基準法に関する事項」は、37項目ありますが、建築基準法第42条第1項第1号などの記載説明項目はありません。大切なことは、法第43条であり、敷地は建築物が建築できる道路(建築基準法上の道路)に接しているか否かということです。

「売買重要事項説明義務項目141」より

ポイント2

下記の国土交通省の売買重要事項説明書様式には、建築基準法第42条の該当道路の記載項目はありません。法第43条「敷地等と道路との関係」、法第45条「私道の変更又は廃止の制限」の記載項目のみです。大切なことは、「その敷地は建築物が建築できる道路(建築基準法上の道路)に接しているか否か」です。これを勘違いすると、裁判事例のような事件となります。

国土交通省の重要事項説明の様式例(売買・交換)

出典:国土交通省「『宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方』について」より抜粋

ポイント3

全日本不動産協会の重要事項説明書(売買一般仲介用)の「敷地等と道路との関係」項目には、建築基準法第42条の記載項目がありますが、これらを調査すること自体が目的ではなく、大切なことは、無事に建築物の建築ができる敷地であるかどうかを調査説明することです。

全日本不動産協会の重要事項説明書(一般仲介用/土地建物/売買代金清算/測量)


不動産コンサルタント

津村 重行

昭和55年三井のリハウス入社。昭和59年に不動産物件調査業(デューデリジェンス業)に注目し、消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とする有限会社津村事務所を設立。研修セミナーや執筆活動等を行っている。著書に『不動産調査入門基礎の基礎4訂版』(住宅新報出版)などがある。