Vol.67
従業員が知りたい不動産調査基礎編 ④
“雨漏り”と“雨の吹込み”の違いについて
中古住宅の不動産取引では、雨漏りのトラブルになると、200万~300万円の多額の賠償請求が生じます。最近の気象状況は、台風や大雨などの異常気象が後を絶ちません。本節では、“雨漏り”と“雨の吹込み”の違いの告知方法について述べます。
後を絶たない“雨漏り”トラブル
中古住宅を購入した消費者は、最近の異常気象のニュースもあって、専門家に屋根裏の検査を依頼することが増えつつあります。室内に雨漏りの事象がなくても、持ち家を取得したことで、「屋根裏は大丈夫だろうか?」と、検査を依頼することがあります。その際に、「屋根裏に雨が吹き込んだようなシミがある」「雨水が侵入して水がたまったような跡がある」といった報告を聞かされると、「雨漏りだ」と、トラブルになる場合もあります。この状態を「雨漏り」と考えるか「強風による雨の吹込み」と考えるかは、人それぞれ個人差があり「一様には語れない事象」かもしれません。
“雨漏り”の慰謝料で50万円!
こんな事件がありました。
建築会社と4階建ての事務所兼自宅を2,170万円で請負契約し、引渡しを受けました。2年経過後に、雨漏りなどの多数の施工ミスが発見され、訴訟となりました。買主は、「屋上のFRP防水の施工不良により、表面にひび割れが発生し、表面が膨張してガラスマットの繊維が露出する等しており、そのため、本来の防水機能が発揮されず、雨漏りが発生している」などとして、建築会社を訴えました。
判決では、「施工不良が原因で、4階クローゼット内をはじめとして雨漏りおよび屋内への湿気の浸透現象が生じていることが認められる」として、「請負人として通常の施工方法を遵守していれば生じなかったものと認められるから、民法709条の不法行為者としての損害賠償責任もあるものと認められる。これに悩まされてきた買主らが被った精神的苦痛は、大きなものがあるといわざるを得ず、その精神的苦痛に対する慰謝料は50万円の損害賠償を認めることが相当である。その他の損害は1,025万円とする」とされた(平成15年4月8日神戸地裁裁判官、上田昭典)。
“雨漏り”の具体的損害の発生事実がない場合
こんな事件がありました。
注文者が建築会社に、築20年の建物の改修工事を220万円で依頼しました。「建築会社が、断熱材であるグラスウールの外側に防水シートであるタイベックを貼り、その外側に合板であるOSBを貼った上で、胴縁を打ち、その外側に外壁材であるサイディングを貼るという手順で、本件工事を施工したところ、本件工事はタイベックと合板とを貼る順番を誤ったものであり、工事のやり直しが必要」として、建築会社に損害賠償請求をしました。
判決では、「本件工事に際し、本件手順が採られたことにより、工事の目的物には、断熱材の水蒸気の放出を妨げないように通気を確保する機能が十分に果たされないおそれや、合板に対し、サイディングの内側にある材料を漏水から保護する機能が果たされていないことから、合板等が劣化するおそれ、さらには、具体的損害が発生した場合に、建材メーカーによる10年間の保証を受けられないおそれが生じていることが認められる。しかし、これらはいずれも可能性の域を出るものではなく、雨漏り等の具体的損害が発生している事実を認めるに足りる証拠はない」として、注文者の訴えを退けました。
最高裁は、「比較的軽微な瑕疵があるが、その修補に著しく過分の費用を要する場合において、修補に代えて改造工事費用について損害賠償請求をすることは許されない」としている(昭和58年1月20日判決)。
“雨漏り”とは“具体的損害の発生の事実”が必要
このように、雨漏りの損害を訴えるためには、「室内のクローゼットが損傷した」などといった具体的な損害があって初めて“雨漏り”ということになります。一方、強風や異常気象などによる雨の吹込みによる“屋根裏における雨水のシミ”は、日常の生活をする上での損害はまだなく、将来、室内にまで雨水が来て損害が出るかもしれない、という可能性は、雨漏りの具体的損害がない、ということになります。
“雨漏り”の定義の合意文書
中古住宅の売買において、雨漏りに対する個人的な満足度は、人それぞれ違います。このような、「“雨の吹込み”があって、放置すれば、将来、雨漏りが発生するかもしれないという可能性」と“雨漏り”とを区別した「雨漏りの定義」を文書にして、下記のように、事前に、当事者間で確認合意をすることにより、不動産トラブルを減少させることができる場合があります。
「売買対象物件における経年変化のある中古建築物の品質性能とは、建築部材の一部に反りや剥離、扉、建具、窓、サッシ、屋根・外壁・床等の一部に劣化、きず、きしみのほか、クロスや内装の劣化、きず、電気配線・ガス配管・上下水道の配水管の劣化、詰まり、家電製品等のスイッチ、モーター類の不具合、その他、大型台風や異常気象等による居室にまで影響しない程度の屋根裏における雨水の浸水跡や吹込みによるシミ等が混在しており、新築時の状況をそのまま維持できていない状態の品質・性能を意味していますので、あらかじめご了承ください。そして、中古住宅の品質性能の不適合事象といえる“雨漏り”とは、居室・ダイニング・廊下等の天井や壁に雨水が浸入してできるシミやクロスの汚れが生じ、入居者や来客者を不快にさせる状況で、修繕を必要とする損害が現に生じている状況をいいます。」
ポイント
住宅の天井にできたシミ。雨水が浸入してできたもので、壁や柱にも及んでいる。中古住宅の品質性能の不適合事象といえる“雨漏り”に該当するといえます。
不動産コンサルタント
津村 重行
三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。