Vol.70
従業員が知りたい不動産調査基礎編 ⑦
給水装置所有者変更の確約書面は必要!


厚生労働省は、令和5年3月末時点の水道普及率が98.3%であるとしながらも、給水人口は2065年にはピーク時より約4割減少し、約3分の1の水道事業者は原価割れをする、と将来の水道事業に警鐘を鳴らしています。本節では、給水装置について述べます。

新築住宅を購入した買主

こんな事件がありました。

「平成6年12月27日、買主らは、千葉県東金市において、売主業者から本件新築不動産を購入した。平成7年5月25日、買主夫婦の共有名義で、土地につき所有権移転登記、建物につき所有権保存登記がなされた。売主業者は、本件不動産について、平成6年3月24日付けで山武郡市広域水道企業団(以下「水道企業団」)に対して、給水装置の工事を申し込み、同年7月28日、給水加入金として15万5,000円、手数料として1万円を支払った。給水装置の施設工事は、同年8月1日に行われ、同日、量水器も取り付けられた。その後、買主らは、平成7年5月25日、売主業者に対し、本件不動産における上水道の負担金として、16万5,000円を支払った。買主は、そこに居住をしていたが、妻と離婚後も、子どもと本件不動産に居住していた。本件不動産は、抵当権者により、千葉地方裁判所八日市場支部に不動産競売の申立てがされ、同裁判所により、平成18年1月4日、競売開始決定がなされた」。

給水装置所有者変更届出で救われた宅建業者

「競売落札業者(以下「落札業者」)は、平成18年1月23日、競売手続きにより本件不動産の所有権を取得したが、この競売手続きにおける本件不動産の評価書には、本件不動産の概況として、『供給処理施設』欄に『上水道有』と記載されていた。そして、落札業者は、同年8月21日、水道企業団に対し、給水装置所有者変更届を提出し、同日受理された。

一方、買主は、同年9月19日、本件不動産について、引渡命令の執行を受けたが、同日、妻との連名で、水道企業団に対して位置替えを理由とする給水装置廃止届を提出した。しかし、すでに落札業者からの給水装置所有者変更届出が受理されていたため、買主らの給水装置廃止届は受理されなかった」。

買主が起こした給水申込金返還訴訟

水道使用のために水道企業団に対して納付した「給水申込加入金(以下『給水加入金』)につき、買主らが、本件不動産を競落した落札業者に対し、落札業者が買主らに対して給水加入金相当額を支払わないまま、本件不動産に設置された給水装置ないし量水器の使用を続けているのは不当であるなどと主張して、不当利得に基づき、買主らは、落札業者に対し、金16万5,000円およびこれに対する平成18年10月6日から支払い済みまで5年分の割合による金員を支払え」と訴訟を提起しました。原審の東金簡易裁判所は、買主らの請求を棄却しましたが、買主らがこれを不服として控訴。しかし、千葉地方裁判所も同じく原審の判決どおり、買主らの控訴をすべて棄却しました。

事件の経緯

事件の経緯

給水装置の所有者とは

「買主らは、給水装置とは量水器を指し、量水器を使用する権利ないし所有権は、落札業者には移転していない旨主張する。買主らから給水装置廃止届が提出されたのは、競売後の引渡命令の執行を受けた日であること、本件不動産についての競売手続きにおける評価書には、本件不動産の概況として『上水道有り』とされており、給水装置が使用可能であることが本件不動産の評価額に反映されていると考えられることが認められる。給水装置は、配水管から分岐して設けられた給水管ならびにこれに直結する分水栓、止水栓および給水栓をもって構成されており、量水器とは、給水装置に備えられる付属用具の一つにすぎない。一般的に、給水管は、建物内部にあっては床下や壁の間に設置されるものであり、建物を損傷することなく容易に取り外すことはできず、物理的に建物と一体となっていること、また、建物および敷地内の給水栓に上水を供給するための必須の設備であり、機能的にも建物と一体となっているものであって、本件建物の場合も同様であると認められることからすると、給水管およびこれと一体となっている分水栓、止水栓および給水栓は、本件建物に付合しており、本件建物の所有者に属していると認めるのが相当である。したがって、給水装置とは量水器を指し、量水器を使用する権利ないし所有権は、落札業者には移転していないとの買主らの主張を採用することはできない」(以上の引用は裁判所web、平成19年9月28日、千葉地方裁判所・裁判長菅原 崇)。

給水装置は従物

改正民法における「主物及び従物」では、「物の所有者が、その物の常用に供するため、自己の所有に属する他の物をこれに附属させたときは、その附属させた物を従物とする。従物は、主物の処分に従う」(民法第87条第1項、第2項)とされています。

以上のことから、給水装置所有者変更について、「売主は、買主に対する給水装置所有者変更に同意する」確約を、書面にしておくことが大切です

ポイント

「給水申込み加入金」「給水申込納付金」などの費用は、行政機関によって異なりますが、赤字の団体が多い水道事業者が事業を継続するための重要な資金源であり、下記のような給水申込加入金に基づく「給水装置の所有者変更手続き」は、トラブルになりやすいため忘れてはならない手続きの一つです。

山武郡市広域水道企業団(R1.10.1)

<山武郡市広域水道企業団(R1.10.1)>

津村 重行

不動産コンサルタント

津村 重行

三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。