Vol.71
従業員が知りたい不動産調査基礎編 ⑧
宅建業者が行うべき現地調査方法基準とは!
国土交通省は、令和6年7月5日、住宅の品質の確保の促進に関する法律(以下「品確法」)第3条第1項に基づき、「評価方法基準」を、国土交通省告示第1000号により改訂しました。原則的な点は変更がないので、ポイントを述べたいと思います。
宅建業者には、現地調査の方法基準がない!
現在、宅建業者が現地調査を行おうとする際、原則的な現地調査の方法基準について、国土交通省からは、通知や指導は一切ありません。しかし、品確法に定める登録住宅性能評価機関が現況検査を行う際の「評価方法基準」が存在し、宅建業者はこれを参考として業務を行うことが可能です。検査機関は検査機器を使用しますが、「宅建業者に検査義務はない」ため、検査機器を使用しません。
検査機関による現況検査の方法基準とは?
今回、改正された評価基準の既存住宅に適用される「現況検査により認められる劣化等の状況に関すること」においては、一戸建て住宅では、壁または柱における6/1,000以上の傾斜、居室の6/1,000以上の傾斜、「腐朽等」とは、腐朽、菌糸および子実体をいい、「蟻害」とは、シロアリの蟻道および被害(複数のシロアリが認められることを含む)等の劣化事象を対象とします。
「目視」では、以下のような基準を定めています。
(1)少なくとも歩行その他の通常の手段により移動できる位置において行う。
(2)評価の対象となる部位等のうち、少なくとも仕上げ材、移動が困難な家具等により隠蔽(いんぺい)されている部分以外の部分について行う。
一方、「計測」では、以下のような基準を定めています。
(1)少なくとも歩行その他の通常の手段により移動できる位置において行う。
(2)評価の対象となる部位等のうち、少なくとも当該位置の地上面、床面等からの高さが2m以内の部分における目視により認められた劣化事象等の幅、深さその他の寸法について行う。
以上のような基準で現況検査を行う検査機関とは異なり、宅建業者の現地調査においては、検査機器を使用していないところが大きく違っています。
宅建業者が行う現地調査の方法基準とは?
今、述べました検査機関による現況検査の方法基準から、検査業務を削除した文面は次のようになります。
目視では、次のような方法基準で現地調査を行う。
(1)少なくとも歩行その他の通常の手段により移動できる位置において行う。
(2)評価の対象となる部位等のうち、少なくとも仕上げ材、移動が困難な家具等により隠蔽されている部分以外の部分について行う。
簡易計測では、次のような方法基準で現地調査を行う。
(1)少なくとも歩行その他の通常の手段により移動できる位置において行う。
(2)評価の対象となる部位等のうち、少なくとも当該位置の地上面、床面等からの高さが2m以内の部分における目視により認められた劣化事象等について行う。
宅建業者が行う現地調査の方法基準の具体的事例とは?
それでは、宅建業者が、どのように現地調査をすればいいのかについて、具体的に述べます。
敷地隣接地の調査では、敷地半分が山林のとき、遊歩道などがなく、雑木林や密林状態で、通常の歩行で奥に侵入できずに敷地調査ができない場合は、調査対象外となります。また、隣地との崖の高低差が約1mを超え、一度、下に降りたら登れないような場合、崖下の境界線の状況は、調査対象外となります。また、隣接地の建物が近接していて、境界線に隙間がなく身体が入らない場合は、敷地の奥にたどり着けないために、敷地奥の境界の調査ができないため、調査対象外となります。また、境界標は、小さなスコップで探索しても、地中深く埋没して確認できないものは、調査対象外となります。また、地上高では、地盤面、床面からの高さが2mを超える建物の外壁の状況などは、調査対象外となります。また、移動が困難な家具の裏側の壁の状態、絨毯(じゅうたん)の下の床の状態、物置の後ろの境界標の状態、工作物の後ろの状況などは調査対象外となります。また、地中に埋設された、電気、ガス、水道、汚水管などの埋設物は、調査対象外となります。
「宅建業者による現地調査の方法基準」は社会に定着していない!
大切なことは、このような「宅建業者が通常行う現地調査の方法基準」が、世の中に告知されておらず定着していないことです。宅建業者がこの「現地調査方法基準」を知らないでいると、一般顧客も、この方法基準を知らないのですから、取引後に、契約不適合が見つかれば、「こんなことは宅建業者の仕事でしょう。調査しなかった宅建業者が悪い」と言って、買主は、宅建業者に対して、損害賠償請求をします。不動産取引の際、この「現地調査の方法基準」を書面等にし、顧客の案内時、購入申込み時に手渡すほか、媒介契約書に添付するなどして、説明をすることが大切です。自らを守るための「現地調査の方法基準」を顧客に対して告知しましょう。
ポイント
具体例としては、下水道施設平面図に、敷地内の汚水や雨水の公設桝(ます)の位置が記載されている場合は、現地で、桝の有無を確認する必要があります。「宅建業者が行うべき現地調査」では、小さなスコップで表面の土砂を除くようにして探します。発見できない場合(下記の現況写真)は、下水道維持管理の担当課に対して、桝の所在の有無を照会します。回答が売買契約日に間に合わない場合は、最悪のことを考慮して、「汚水桝の取出しなし」と重要事項説明をするといいでしょう。
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不動産コンサルタント
津村 重行
三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。