Vol.77
従業員が知りたい不動産調査基礎編⑭
個人情報保護法と不動産売買の関係!
不動産売買における重要事項調査においては、個人情報保護法が障壁となり、消費者にとって重要な情報を取得できずに、安全な取引を遂行できない場合があります。本章では、この個人情報の障壁について述べたいと思います。
売主の不動産情報告知書の情報漏えいはプライバシー侵害!
「売主の不動産情報告知書」には、売主しか知りえない多くの個人情報が含まれています。当該不動産の購入者は、この書面を受け取り、取引を完了した後、将来において、当該不動産を再販する場合、この書面に記載された個人情報を第三者に話したとき、不動産情報告知書を第三者に公開することについての合意がなかったとして、トラブルとなる場合があります。個人情報取扱事業者の宅建業者ではない個人間では、個人情報保護法の適用がないとしても、プライバシー侵害に基づく精神的損害として、不法行為による損害賠償を請求される可能性があります。
個人情報とは
「個人情報」とは、「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日、その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの、個人識別符号が含まれるもの」とされ、「要配慮個人情報」とは、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他(個人情報保護法第2条)とされています。また、「個人情報取扱事業者」とは、個人情報データベース等を事業の用に供している者をいう(同法第16条)ため、宅地建物取引業者は、個人情報取扱事業者として、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない(同法第23条)。このため、同法違反者に対しては、個人情報保護委員会は、「当該違反行為の中止その他違反を是正するために必要な措置をとるべき旨を勧告し」さらに、「その勧告に係る措置をとるべきことを命ずる」ことができるとし、さらに、「その命令に違反したときは、その旨を公表する」とされています。
個人情報の漏えいは精神的損害!・最高裁
こんな事件がありました。
通信教育、模擬試験の実施を目的とする株式会社において、自社のシステムの開発・運用を行っている業務委託先の従業員が、会社のデータベースから2億1,639万件の顧客等の個人情報を不正に持ち出し、これらの全部または一部を名簿業者2社に売却しました。生徒の保護者は、「個人情報を過失により漏えいしたとして、不法行為に基づき、損害賠償金10万円などの支払いを求め」訴訟を提起しました。
本事件で流出した個人情報は、「氏名、性別、生年月日、郵便番号、住所、電話番号、保護者名」。第1審では、「原告の氏名の情報が漏えいしたのが被告の過失行為によるものであることについて、これを基礎づけるに足りる証拠がない」として、請求は棄却されました(平成27年12月2日、神戸地方裁判所)。
生徒の保護者は、控訴しました。第2審では、「自己の氏名、郵便番号、住所、電話番号およびその家族である者の氏名、性別、生年月日が名簿業者に売却され漏えいすると、通常人の一般的な感覚に照らして、不快感のみならず不安を抱くことがあるものと認められる。しかし、本件漏えいによって、迷惑行為を受けているとか、財産的な被害を被ったなど、上記の不快感や不安を超える損害を被ったことについての主張、立証がない。したがって、損害賠償を請求することはできない」として、請求は棄却されました(平成28年6月29日、大阪高等裁判所)。
生徒の保護者は、最高裁に上告しました。「本件個人情報は、上告人のプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきであるところ、事実関係によれば、本件漏えいによって、上告人はプライバシーを侵害されたといえる。しかるに、原審は、上記のプライバシーの侵害による上告人の精神的損害の有無およびその程度について十分に審理することなく、不快感等を超える損害の発生についての主張、立証がされていないということのみから直ちに上告人の請求を棄却すべきものとしたものである。本件の漏えいについての被上告人の過失の有無及び上告人の精神的損害の有無及びその程度についてさらに審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする※」と、精神的損害による損害賠償請求を認めました(平成29年10月23日、最高裁・裁判長 小貫芳信)<ポイント参照>。
ポイント
個人情報保護法は、個人情報取扱事業者等のデータの漏えいなどに対して適用されます。一方、個人間では、「プライバシーの侵害に基づく精神的損害について、不法行為による損害賠償請求が認められている」(最高裁)ため、顧客データの管理のほか、宅地建物取引業者が売買に利用している売主の不動産情報告知書の交付の際は、「売主は、本書を第三者に開示することに同意する」という文言を明記しておくことが大切です。

個人情報保護法が消費者の知る権利を奪う!
不動産の重要事項調査においては、① 固定資産評価額の確認、② 敷地内の給水装置の埋設状況設計図の取得、③ 固定資産税額の納税状況、④ 消防署における火災事故の記録、⑤警察署における自殺、他殺、事件等の記録など、消費者が不動産を購入しようとする際の購入の判断に影響する不動産情報は、個人情報保護法が壁となり知ることができません。「消費者の知る権利」がないため、売主からの聞き取り情報に頼るのが現実ですが、不動産は動かずとも、不動産の所有者は、年月とともに移り変わるため、売主ですら、過去の正確な情報を保有していません。これは、不動産関連法令の重大な欠陥と言えるかもしれません。
売主の不動産情報告知書の交付対策!
これまで述べたように、買主の「知る権利を保証する」ためにも、個人情報が多く含まれた売主の不動産情報告知書の交付対策として、この告知書の末尾に、次のような文言を付け加えることが大切です。
「売主は本書に個人情報を記載しているため、本書受領者は善管注意義務をもって管理することとします。ただし、売主は、買主に対して、本物件の売買取引完了後、買主による本物件の実際または予定される売却に関連して、個人もしくは団体に本書の写しを提供する権限を与えます」。
この文言がなく、この書類を売却目的で第三者に開示した場合は、「プライバシー侵害による精神的苦痛を被った」として、不法行為責任による損害賠償請求を求められることになるかもしれません。
※差し戻し審では、「一般人の感受性を基準にしても、その私生活上の平穏を害する態様の侵害行為」として、「控訴人の被った精神的損害を認めるのが相当である」とした(令和元年11月20日大阪高裁)。

不動産コンサルタント
津村 重行
三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。