Vol.19 不動産物件調査技術の基礎 ~役所調査編~
位置指定道路の特徴と性質


建築基準法第42条第1項第5号(以下「位置指定道路」という)に該当する道路では、再建築の際に、重大なトラブルに発展することが多いので、位置指定道路の特徴や性質を理解することが大切です。

位置指定道路の通行紛争

こんな事件がありました。土地周辺が大規模な分譲住宅団地として開発された際、各分譲地に至る通路として開設された幅員4mの道路は、昭和33年に川崎市長から道路位置指定を受け、30年以上にわたり、近隣住民の徒歩および自動車による通行に利用されていました。昭和61年に贈与で所有権を取得した被告は、近隣住民の自動車通行をやめさせる意図の下に、位置指定道路に簡易ゲート等を設置したため、自動車で本件土地を通行するたびに、いったん下車してその簡易ゲートを取り除かなければならなくなりました。さらに、平成4年に、近隣住民の所属する自治会に対し、「同年12月末日をもって本件土地の通行を不可能にする工事を施工することがある」旨を通知したため、訴訟になりました。判決は、「近隣住民は、位置指定道路を長年にわたり自動車で通行してきたもので、自動車の通行が可能な公道に通じる道路は外に存在しないというのであるから、本件土地を自動車で通行することについて日常生活上不可欠の利益を有しているものということができる。また、本件土地の所有者である被告は、近隣住民が本件土地を通行することを妨害し、かつ、将来もこれを妨害するおそれがあるものと解される。他方、被告が近隣住民の右通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情があるということはできない。したがって、近隣住民は、被告に対して、位置指定道路の通行妨害行為の排除及び将来の通行妨害行為の禁止を求めることができる」(平成9年12月18日最高裁)と判決しました。

※特定行政庁が私道の位置を指定することを「道路位置指定」と呼び、道路位置指定を受けることによって、私道は「建築基準法上の道路」となることができる。私道のみに接する土地で建築をしようとする場合、私道の道路位置指定を受けることが必要となる。

位置指定道路とは

国土交通省の指針解説によると、位置指定道路とは、「私人等が土地を建築物の敷地として利用するため、道路法、都市計画法等によらないで築造する政令で定める基準に適合する幅員4m以上の道で、これを築造しようとする者が特定行政庁からその位置の指定を受けたもの」(平成21年1月改訂)としています。

このように、私人等の負担により指定される道路であるため、歩行者や自動車による通行、ガス・上下水道の工事の際に私道所有者による同意が必要となるなど、利用トラブルを想定した対策が必要となります(ポイント1)。

「災害時にも対応する私道の利用協定書」(念書)

私道の念書を作成する場合、「私は騙されたくないので、不動産業者に協力したくない」などと言う地主もおり、困難がつきまといます。しかし、次のような文書を作成すると、念書を取得しやすくなります。

「地震等の自然災害により、給水タンク車の出動、ガス漏れ緊急自動車の出動、下水道管の破損等による水浸し事故等が発生した際、『災害時にも対応する私道の利用協定書』が締結されていないため、災害復旧が遅れることがあります。このため、私道の所有者(以下「甲」という)と私道を利用されている関係者全員(以下「乙」という)との間で、下記のとおり、『災害時にも対応する私道の利用協定書』を作成し、その全員がその1通を保有することにより、地域防災対策の一助とします」と記載し、私道の念書には、「本協定に係る者で井戸を利用する者は、緊急時の際には地域防災に貢献するため、地域住民のために、その井戸水を飲料水等として提供することにあらかじめ同意します」といった条項を追加するといいでしょう(ポイント2)。

ポイント1

下のように位置指定道路がある場合、これを廃止してすべての土地を地主が自由に利用するには、中央に位置する住民や、その他この道路を利用する左側の関係地権者の全員の同意が必要となる場合があります。

ポイント2

通常の「私道の同意書」を作成するには多くの困難がありますが、下のような「災害時にも対応する私道の利用協定書」の形にすると、地主からの同意を得やすくなります。末尾には、「本協定に係る者で井戸を利用する者は、緊急時の際には地域防災に貢献するため、地域住民のために、その井戸水を飲料水等として提供することにあらかじめ同意します」と付け加えます。


不動産コンサルタント

津村 重行

昭和55年三井のリハウス入社。昭和59年に不動産物件調査業(デューデリジェンス業)に注目し、消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とする有限会社津村事務所を設立。研修セミナーや執筆活動等を行っている。著書に『不動産調査入門基礎の基礎4訂版』(住宅新報出版)などがある。