Vol.20 不動産物件調査技術の基礎 ~役所調査編~
水害情報に関する不動産調査の重説義務化


不動産取引時において、水害リスクに係る情報が契約締結の意思決定を行う上で重要な要素となっていることから、今般、宅建業法施行規則が改正・施行され、水害情報に関する不動産調査が重要事項となりました。

周辺一帯の冠水被害は瑕疵ではない

こんな事件がありました。

埼玉県大井町において、平成10年に宅建業者が建売住宅3棟を売却し、そのうち1棟を買主が3,600万円で購入したところ、平成11年に総雨量205ミリの降雨があり、大雨洪水警報が発令され、大井町は災害対策本部を設置していたところ、本物件土地の駐車場部分が冠水し、駐車していた車両は、後部ナンバープレートの下付近まで水に浸かった。その水位は床下浸水の危険があるようなものではなかったが、買主は「本件土地は、大雨の時など容易に冠水し、宅地として使用することができず、これは売買の目的物の隠れたる瑕疵に当たる。売買契約の際、売主、仲介業者がその点についての説明をしなかったことは説明義務違反に当たる」などと主張して1,000万円の損害賠償請求をしました。

判決では、「本件土地に冠水被害が周辺一帯に生じていた事実は認められるが、冠水被害があることは、価格評価の中で吸収されているのであり、これをもって直ちに本件土地に瑕疵があるとして、売主の瑕疵担保責任を認めることは困難である。このような土地の場所的・環境的要因に基づく性状について、具体的事実を認識していた場合はともかく、宅建業者を含む販売業者に説明義務があることを基礎づけるような法令上の根拠や業界の慣行等があるとも認め難い」と棄却しました(東京高判平成15年9月25日、浅生重樹裁判長)。なお、平成14年の雨水浸水対策事業後は、冠水被害は軽減したとのことです。

8月28日に宅建業法改正施行

しかし、今回は、水防法改正とともに、令和2年8月28日、宅建業法施行規則が改正施行されました。改正箇所は、「事業を営む場合以外の場合において宅地又は建物を買い、又は借りようとする個人である宅地建物取引業者の相手方等の利益の保護に資する事項」(宅建業法施行規則第16条の4の3)において、「水害ハザードマップの有無」の追加です。

その内容は、「浸水想定区域に当該宅地又は建物が所在する市町村の長が提供する図面に当該宅地又は建物の位置が表示されているときは、当該図面(ハザードマップ)を添付し、所在位置を説明せよ」というものです。説明すべき図面とは、以下の3種類です。

(1)洪水浸水想定区域:①指定の区域、②浸水した場合に想定される水深

想定最大規模降雨(想定し得る最大規模の降雨。地域により異なるが、1年間に発生する確率が概ね1/1,000程度)により河川が氾濫した場合に、想定される浸水区域および水深を表示しています(ポイント1)。

(2)内水(雨水出水)浸水想定区域:①指定の区域、②浸水した場合に想定される水深

想定最大規模降雨(地域差があるが、1年間に発生する確率が概ね1/1,000程度)により、既存の排水施設で処理しきれない内水が氾濫した場合に、想定される浸水区域および水深を表示しています(ポイント2)。

※堤防の内側(市街地内を流れる側溝や排水路、下水道など)から水があふれる水害を内水と呼ぶ。

(3)高潮浸水想定区域:①指定の区域、②浸水した場合に想定される水深

地域差があるが、1/1000~1/5000程度の確率で起こりうる台風に伴う高潮により氾濫した場合に、想定される浸水区域および水深を表示しています(ポイント3)。

行政によっては、ハザードマップ作成が未定の場合があります。その際は、「当該市町村に照会し、その照会をもって調査義務を果たしたことになる。なお、本説明義務については、水害ハザードマップに記載されている内容の説明まで宅建業者に義務付けるものではない」(宅建業法の解釈・運用の考え方)とされています。

千葉市地震・風水害ハザードマップ(WEB版)風水害

ポイント1

下記のように「洪水浸水想定区域図」がある場合、所在地にマークを入れ、この洪水想定区域との位置関係を示す必要があります(事例地は千葉市役所付近)

ハザードマップ画像
ハザードマップ画像

ポイント2

下記のように「内水(雨水出水)浸水想定区域図」がある場合、所在地にマークを入れ、この内水想定区域との位置関係を示す必要があります(事例地は千葉市役所付近)。

ハザードマップ画像

ポイント3

下記のように「高潮浸水想定区域図」がある場合、所在地にマークを入れ、この高潮想定区域との位置関係を示す必要があります(事例地は千葉市役所付近)。

ハザードマップ画像
ハザードマップ画像
ハザードマップ画像

不動産コンサルタント

津村 重行

昭和55年三井のリハウス入社。昭和59年に不動産物件調査業(デューデリジェンス業)に注目し、消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とする有限会社津村事務所を設立。研修セミナーや執筆活動等を行っている。著書に『不動産調査入門基礎の基礎4訂版』(住宅新報出版)などがある。