Vol.23 不動産物件調査技術の基礎 ~設備調査編~
建築台帳記載事項証明書の調査の仕方
役所調査における建築確認に関する調査では、重大な不動産トラブルを発見できる事例があります。今回は、建築台帳記載事項証明書(従来は「建築確認証明書」と呼ばれていた。「建築確認や検査済証交付の有無」を確認できる書面。以下「台帳記載事項証明書」という)に関する調査の仕方を述べます。
台帳記載事項証明書の調査の仕方
役所の建築確認担当課に行き、建物の登記事項証明書を提示して、台帳記載事項証明書の申請をします。その際「建築計画概要書があれば、一緒にください」と言います。自治体により異なりますが、1通数百円で入手することができます。なお「台帳記載事項証明書はあるが、概要書はない」場合や、反対に「台帳記載事項証明書はないが、概要書はある」といった場合もあります。
台帳記載事項証明書には、建築確認を取得したときの所在地が記載されていますが、現地と一致していない場合があります。また、検査済証交付の有無を確認します。検査済証交付年月日に、日付の記載がない場合は、検査済証交付がないことになります(ポイント1・2)。
ポイント1
下記の台帳記載事項証明書では、「建築確認済証番号」「確認済証交付年月日」「建築主氏名」などを確認することができます(1〜4)。
ポイント2
下記では、「建築場所」「新築・増築等の工事種別」「専用住宅等の主要用途」「確認申請した建築面積」「延べ面積」「検査済交付年月日」などを確認することができます(5〜8)。下記の事例では、検査済証交付はないということがわかります(7)。
概要書の調査の仕方
こんな事件がありました。ある不動産コンサルタント会社が、土地所有者に対し、「北側の建物がある敷地の80坪部分を売却すれば3億円の自己資金ができるので、残りの南側敷地に共同住宅を建築して収益事業ができる」と説得をし、約160坪の敷地の北側半分の売買契約をしたところ、残りの南側部分は、北側建物の建築敷地として確認申請されており、容積率も一杯だったため、南側敷地には目的の建築物の建築ができないことがわかりました。土地所有者は不動産コンサルタント会社に対して、説明義務違反による損害賠償請求訴訟を提起しました。平成18年6月12日、最高裁は『不動産コンサルタントが確認申請の二重敷地による価格低下についての説明を怠り、説明義務違反により損害が生じた』と判決しました。このようなことは「建築計画概要書」に記載された「建物の配置図」「敷地面積」「建蔽率・容積率」等の記載事項を確認することにより、敷地売却後の残された土地に建築物の建築ができるか否かを確かめることができます(ポイント3)。
ポイント3
下記の「建築計画概要書・配置図」では、「建物の配置」「建築確認の対象敷地」などを確認することができます。この空き地部分に建築物の建築を予定すると、既存建物の影響で、容積率オーバーとなってしまう場合があります。
増築の有無の調査の仕方
建物の配置図に記載された建物の形状を現地と比較照合します。確認取得時は四角い建物であるのに、現在の建物の形状はL形である場合、建物に増築部分があるということがわかります。台帳記載事項証明書に記載の工事種別(ポイント2の2))が、「新築」ではなく「増築」と記載されている場合があります。その場合は、建築計画概要書に記載の確認申請建物の箇所を見て、増築箇所はどこかを確認します。万一、登記もなく増築が判明した場合は、「増築部分は未登記です」等の説明が必要です。
工作物の確認の有無の調査の仕方
建築確認の対象物は、通常の建築物だけではありません。崖対策のために設置した擁壁などの工作物、また、屋上などにある大きな広告看板などの工作物、小型エレベーターなどは、建築確認が必要です。実は、既存の擁壁は、建築確認があるのに検査済証が交付されていないということがありました。この場合は、その崖には擁壁が存在しないとされ、敷地の一定範囲は建築規制を受けることになります。建築確認があるだけで安心するのではなく、検査済証交付の有無は、必ず確認します。特に、擁壁などの工作物の確認を慎重にしないと大きなトラブルになります。
不動産コンサルタント
津村 重行
昭和55年三井のリハウス入社。昭和59年に不動産物件調査業(デューデリジェンス業)に注目し、消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とする有限会社津村事務所を設立。研修セミナーや執筆活動等を行っている。著書に『不動産調査入門基礎の基礎4訂版』(住宅新報出版)などがある。