Vol.24 不動産物件調査技術の基礎 ~設備調査編~
設備調査をめぐる紛争
設備調査では、思わぬトラブルが発生したという事例がたくさんあります。そこで、今回は設備調査について述べます。
給水装置所有者変更をめぐる紛争
こんな事件がありました。競売で売却処分された住宅の前所有者は、「給水装置の所有権は移転していない」として、競落人を相手に、「給水加入金相当額の165,000円を支払え」と訴訟を起こしました。平成19年9月28日、千葉地方裁判所は、「給水装置は、配水管から分岐して設けられた給水管並びにこれに直結する分水栓、止水栓及び給水栓をもって構成されており、量水器と、給水装置に備えられる付属用具の一つにすぎない。給水管及びこれと一体となっている分水栓、止水栓及び給水栓は、本件建物に付合しており、本件建物の所有者に属していると認めるのが相当である(ポイント1)。本件不動産についての競売手続における評価書には、本件不動産の概況として『上水道有』とされており、給水装置が使用可能であることが本件不動産の評価額に反映されていると考えられることが認められる」として、前所有者の訴えを棄却しました。
ポイント1
下記の「給水装置」とは、水道の本管から各家庭の蛇口までの給水管などを指しています。水道メータの所有者は水道局で、定期的に、交換されます。
区分所有マンションの場合は、給水装置をめぐる紛争は聞かれませんが、一戸建ての場合は、売主が引っ越し先の住宅に量水器を移転してしまい、買主が引っ越したときには、「量水器がなく、水も出ない」といったトラブルがありました。この給水装置の設置工事の際、給水加入金(地域により、「局納金」ともいわれる)を納めさせる水道局は多くあります。このようなトラブル防止のため、不動産の所有権移転の後、新しい名義人の登記事項証明書を持参し、「給水装置所有者変更届」の提出を勧めることが大切です(ポイント2・3)。
ポイント2
写真は量水器で、ふたの裏に水栓番号が書かれています。所有者が変わったときには変更届が必要です。
ポイント3
新登記名義人の名前の登記事項証明書とともに、水道局に下記の「給水装置所有者変更届」の名義変更手続きを勧めることが大切です(下記の届出書は千葉県水道局の場合)。
取出し口径が小さいことは契約不適合
水道局調査では、調査対象地の「前面道路内の水道本管の敷設状況と敷地内への引込状況」を調べることは基本です。しかし、今回の民法改正で、買主の契約内容によってはトラブルが発生します。例えば、買主が共同住宅建築を計画する契約内容で、解体予定の既存建物が一戸建て住宅の場合、「現在の水道メータは直径20㎜であり、共同住宅の建築には直径45㎜のメータが必要。しかし、水道本管からの取出し口径は直径20㎜しかないため、新たに、本管からの取出し口径を大きくする工事が必要になった。想定外の費用が発生したので、これは契約不適合」といった苦情が出るかもしれません。したがって、水道引込メータは直径20㎜という調査だけではなく、必ず、「本管からの取出し口径」の聞き取りをすることが大切です。
電柱・電気配線の移設撤去の調査
敷地内に電柱が建っていることや黄色いカバーのついた電線が電柱から引っ張られて、敷地内に敷設されていることがあります。これは電柱を支えるための支線柱というもので、建築工事の際に障害物となる場合があります。しかし、近隣の同意が得られないなどの理由で、簡単に移設撤去ができない場合は、管轄の電柱担当課に現地調査を依頼して、移設撤去が可能か否かの回答をもらうことが大切です。万一、移設撤去ができないときは、重要事項説明の際、「移設撤去はできません。○○電力・○○氏」との説明が必要になります(ポイント4)。
ポイント4
敷地内に、黄色いカバーのついた電柱を支える支線柱が敷設されていることがあります。簡単に移設撤去ができるとは限らないため、管轄の電柱担当課に連絡をして、事前に、移設撤去の可否について現地調査を依頼しておくことが大切です。
不動産コンサルタント
津村 重行
昭和55年三井のリハウス入社。昭和59年に不動産物件調査業(デューデリジェンス業)に注目し、消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とする有限会社津村事務所を設立。研修セミナーや執筆活動等を行っている。著書に『不動産調査入門基礎の基礎4訂版』(住宅新報出版)などがある。