Vol.25 売買重要事項の調査説明 ~ガイドライン編~
売買重要事項説明における宅建業者の立場


宅建業法にはグレーゾーンがあり、宅建業者の業務の方法、責任の範囲は、法令上は原則論のみしか語られておらず、具体的なこととなると曖昧なままに放置されてしまっているのが現状です。

そのため、何かトラブルが起きた場合には、即、宅建業者の責任とされてしまう風潮があります。このような状況下で、「宅建業者が消費者を保護すべき」ということになっても、業務の方法や責任の範囲が明確ではないため、適切に対応できず、宅建業者が不利な立場になってしまうことが多いのではないでしょうか。

これは、宅建業者が売買重要事項の調査説明をする際のガイドラインが存在しないためです。さらに、2020年4月1日に民法が改正・施行され、従来まで“瑕疵”といわれてきたものが“契約の内容不適合”という言葉に変更されるなど、宅建業者のガイドラインの問題の複雑化に、さらに拍車がかかっています。

このガイドラインについて、皆さんとともに構築していけたらという思いで、説明していきたいと思います。

売買重要事項説明は、誰がしなければならないか?

この問題は、「売主個人ではなく、宅建業者である」といった、一見当たり前のような答えが待っているように見えますが、本当にそうでしょうか?

こんな事件がありました。

「買主は本件土地を自己の永住する居宅の敷地として使用する目的で、そのことを表示して売主から買い受けたのであるが、本件土地の約8割が東京都市計画街路として施行される道路敷地に該当し、同地上に建物を建築しても、早晩その実施により建物の全部または一部を撤去しなければならない事情があるため、契約の目的を達することができないのである。また、都市計画事業の一環として都市計画街路が公示されたとしても、それが告示の形式でなされ、しかも、右告示が売買成立の十数年以前になされたという事情をも考慮するときは、買主が、本件土地の大部分が都市計画街路の境域内にあることを知らなかった一事により過失があるとはいえないから、本件土地の瑕疵は民法570条(改正前)にいう隠れた瑕疵に当る」(最高裁裁判長・長部謹吾)。

この判例からわかることは、売主が法律上の説明を満足にできる知識がない個人であったとしても、法律上の瑕疵がある場合は、買主からの損害賠償請求が認められるということです。法令上の瑕疵がある場合、売主は、公示されているからといって逃れられません。このような形で損害賠償請求に応じなければならないことを未然に防ぐために、土地の売買に際しては、不動産の専門家である宅建業者に調査説明を依頼することが安全です。しかし、売買重要事項説明をしなければならない主体はあくまで売主個人である、ということを覚えておかなければなりません。

宅建業者の調査説明義務違反は、業者だけの責任ですか?

それでは、宅建業者が犯した調査説明義務違反は宅建業者だけの責任でしょうか?

こんな事件がありました。

1997(平成9)年当時、東京都中野区の宅地細分化防止に関する指導要綱があり、本件土地の属する用途地域では宅地分割計画による敷地最低面積が60㎡以上必要だったところ、その事実を仲介業者が買主に説明をせずに売却したため、買主は建て替えができない、ということが起きました。

これについては、「売主個人は不動産売買については素人であるから、説明義務はない旨主張するが、仲介業者に本件売買契約の成約に向けて委任している以上、仲介業者は売主の履行補助者であるから、仲介業者の不履行の責めは売主も負うこととなる。右説明義務は、売買契約における信義則から導かれる契約上の付随義務の一種(この解釈は最高裁も採用)と考えられるところ、売主は、右契約上の義務を履行しなかったものであるから、買主は売主に対し、右不履行を理由として契約の解除をすることができる」(東京地裁裁判長・玉越義雄)という判決でした。

したがって、「仲介業者は、説明義務を有する売主のための履行補助者」という立場にすぎず、主体はあくまで売主ということが、重要事項説明の基本ということになります。

ポイント

下記のように「都市計画街路」が敷地上の大半に計画されている場合、十数年前に公示されているからといって「売主には説明義務がない」などと言い逃れをすることはできません。この場合は、契約解除が認められます(最高裁)。


津村 重行

不動産コンサルタント

津村 重行

三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラ社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産調査入門 実務編』(住宅新報社)、『不動産調査入門 取引直前編』(住宅新報社)、など。