Vol.13 不動産物件調査技術の基礎 ~役所調査編~
下水道の公設桝の調査の仕方
こんな事例がありました。「敷地内に公設桝があったので、本下水であると重要事項説明をして取引をしたところ、その建物は個別浄化槽使用中だった」。その後、弁護士に依頼をして、宅建業者が浄化槽の汲み取り費用の20年分を買主に支払い、トラブルを処理しました。役所調査の中で、排水設備に関するトラブルがあるので、下水道について具体的に述べます。
<第一>現地に公設桝があるのに下水道施設平面図
に記載がない
市区町村のマークのある汚水桝は、通常、公設桝(市区町村管理の桝)ですが、汚水桝の蓋は誰でも入手が可能なため、そのマークだけでは確かな情報ではありません。市区町村が管理していない私設の場合があり、その場合は本管に接続していないため、使用ができないこともあります。図面と現地とが異なるときは、下水道維持管理担当課で、「下水道施設平面図には記載はありませんが、現地には市区町村のマークのある公設桝があります。使用できるものかどうかを教えてください」と聞きます。一定の日数を要しますが、役所側で現地調査をした回答がもらえます。しかしその際、売買契約締結日が近く、役所の現地調査の回答が間に合わないときは、最悪の事態を想定して、重要事項説明では「この桝は使用できない」と説明したほうがいいでしょう。都合のいいほうに解釈して説明すると、不動産トラブルになります(ポイント1・2)。
<第二>下水道施設平面図に記載があるのに現地にない
下水道施設平面図に公設桝が記載されているのに現地にない場合は、まず下水道の供用開始時期を調べます。供用開始日以後に新築された住宅であれば、下水道に接続されている可能性が高くなります。そして、この住所番地で、「下水道使用料が発生したことがありますか?」と聞きます。「使用料金が発生したことがあります」という回答であれば、現在、本下水使用中であることがわかります。その場合は、宅地内のどこかに公設桝があるはずなので、下水道維持管理担当課に行き「公設桝を発見できないので、確認をしてください」と頼んで探してもらいます(ポイント3・4)。
<第三>下水道施設平面図にも現地にも記載がない
下水道施設平面図に公設桝の記載はなく現地にも公設桝がない場合は、まず下水道維持管理担当課で下水道供用開始区域内であるか否かを確認します。区域内であれば、供用開始時期を聞きます。更地の場合、供用開始時期以前から分筆されずに現在の宅地のままであるときは、公費による公設桝設置工事をしてもらえる場合があります。また、供用開始時期には、市区町村は一宅地に公設桝を1個ずつ設置しますが、当時、何らかの事情で設置しなかった宅地があります。設置工事は、年間予算の関係で数カ月先になることもありますが、知っていると役に立ちます。
<第四>下水道の使用履歴の調査
下水道使用の有無がわからないときは、下水道料金課で、「下水道使用料は発生していますか」と聞きます。料金の内容等は個人情報ですが、「発生している」ときは、「下水道使用履歴」があるので、「下水道使用可能物件」となります。
<第五>受益者負担金の有無の調査
受益者負担金は、すでに、清算済みの宅地もあれば、未払いの宅地もあります。この負担金の額は、市区町村ごとに異なりますが、市街化区域は1㎡当たり160円、市街化調整区域は1㎡当たり230円などと金額が定められ、一筆の土地の面積に応じて賦課される地域が多いので、料金課で聞き取り調査をします。
<第六>宅地内か敷地入口付近に公設桝がある場合に本下水と思い込むトラブル
冒頭の事例の対策は、建物があれば建物の周囲を歩き、建物の外壁コンセントからコードで接続されている浄化槽ポンプの有無を調べます。浄化槽ポンプは電気で動いています。中のバクテリアが死なないようにポンプで空気をかくはんしています。手に触れて振動があれば、「現在、浄化槽使用中」「本下水は未接続」です。冒頭に述べた話は、「公設桝は設置されていても、未接続のまま個別浄化槽使用中だった」という事例です。
ポイント1
<第一の事例> 下記の赤く囲まれた宅地には、下水道本管からの取出しの記載はありません。しかし、ポイント2の写真のように、現地には公設桝が設置されていることがあります。
ポイント2
<第一の事例> ポイント1の下水道施設平面図には、宅内用の公設桝の記載はありませんが、現地には下の写真のように存在する場合、これが使用できる汚水桝か否かを下水道維持管理担当課に照会することが大切です。「市の公設桝です」「利用可能です」という市の回答があって、初めて買主に排水設備の説明ができます。
ポイント3
<第二の事例> 下の赤く囲まれた宅地には、下水道本管からの取出しの記載があります。しかし、ポイント4の写真のように、現地には公設桝が存在しないことがあります。
ポイント4
<第二の事例> ポイント3の下水道施設平面図には、宅内用の公設桝の記載がありますが、下の写真のように現地には存在しない場合、「実際に、使用できる汚水桝が現地に存在するか否か」を下水道維持管理担当課に照会することが大切です。「市の公設桝は撤去されています」「利用できません」という市の回答があって初めて、買主に排水設備の説明が可能となります。
不動産コンサルタント
津村 重行
昭和55年三井のリハウス入社。昭和59年に不動産物件調査業(デューデリジェンス業)に注目し、消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とする有限会社津村事務所を設立。研修セミナーや執筆活動等を行っている。著書に『不動産調査入門基礎の基礎4訂版』(住宅新報出版)などがある。