Vol.27 売買重要事項の調査説明 ~ガイドライン編③~
“契約の内容不適合”とされた“契約の内容”とは何でしょうか?


昨年4月に施行された民法(債権法)改正により、“瑕疵担保責任”が“契約不適合責任”に改められました。これにより、実際に何がどのように変わったのでしょうか。事例をもとに、契約不適合責任について紹介します。

“契約不適合責任”の争点

令和2年4月1日の改正民法において“契約の内容不適合”という言葉が導入されました。これにより、従来の“隠れた瑕疵”という考え方から範囲が広がり、今後は、消費者からの民事訴訟が多発すると考えられています。そして、その紛争の争点として、“契約の内容とは何か?”“その契約の内容は、互いに合意したか?”という2点が挙げられます。しかし、この“契約の内容”という言葉について、不動産業界における売買契約書の標準書式においては説明がないため、抽象的かつ一般的です。今回は、売主と買主との間で売買契約を締結する際に、この“契約の内容”を、より具体的に特定しやすいように整理して述べたいと思います。

契約の内容とは、大きく整理すると、1つは“買主の購入動機”であり、もう1つは“主な契約の目的”を意味していると考えられます。

買主の購入動機は、契約内容の一部

買主の購入動機をめぐって、こんな事件がありました。

買主の1歳9カ月の長女がぜんそくと診断された。医師の勧めもあり、長女のために空気の良い場所への転居を考えて不動産仲介業者の店舗に行き、仲介業者に「長女がぜんそくなので、空気が良く、緑がある所の物件を希望する」旨を伝えた。その後、平成10年12月に2,750万円で戸建ての売買契約を締結。本件売買契約当時、本件不動産の南東側は約4mの水路敷地に接し、さらにその先には高さ約10mほどの竹や雑木が繁茂する小高い丘が続いていた。

平成11年2月4日、本件不動産に転居したが、同月15日、佐倉市井野西土地区画整理組合から工事を請け負った工事担当者が来訪し、擁壁の設置の話を初めて聞いた。この擁壁は隣接する公園のために造られるものであり、本件不動産の南東側約4mの場所に位置し、高さ約5mの垂直のもので、同年4月頃、約100mにわたって建設され始め、同年11月頃完成した(区画整理事業により、小高い丘は公園になった)。

買主が問題にするのは、これに伴う周辺環境であり、これが買主の期待と予想に反して本件売買の前後で大きく変動し、買主の購入動機と相容れず、その目的を達成できなくなったことです。

判決では、売主については、「売主業者は、本件売買において、買主の有する本件不動産の購入動機・目的を誰からも知らされず、結局、これを知らなかったものと認められるから、買主と売主業者との間において、買主の本件不動産の購入動機・目的を前提として周辺環境について何らかの保証等がされた事実も認めることができない」として、売主の責任は認めませんでした。しかし、仲介業者に対しては、「不動産購入の動機・目的は、不動産購入を決定する際の重要な要素であることは明らかであるから、仲介業者としては、それが売買の目的物に直接関係することではないとしても、これを知った以上はその動機・目的に反する結果を生じることがないように注意を払う仲介契約上の義務があるというべきである」として、300万円の支払いを命じました(平成14年1月10日千葉地裁伊藤敏孝)。

契約の内容における主な目的とは

“契約の内容”における主なものとは、目的に関することです。これを分類整理すると、①利用の方法、②利用の用途、③利用の計画の3種類に分けられます。

①利用の方法については、(1)居住用、(2)事業用、(3)投資用に分類できます。
②利用の用途については、(1)一般住宅用、(2)低層共同住宅用(10m以下)、(3)中高層共同住宅用(31m以下)、(4)高層共同住宅用(31mを超える)、(5)テナントビル用、(6)店舗事務所用、(7)複合商業ビル用、(8)立体駐車場用、(9)平置き駐車場用等に分類できます。
③利用の計画については、(1)主に現況利用計画、(2)主に新築計画、(3)主に増築計画、(4)主に用途変更計画などに分類できます。

以上の契約の内容については、いずれも達せられない場合や障害が存在する場合は、“契約内容に不適合がある”ということになります。

買主の主な契約の目的を聞き出して、売主がそれに合意していることを、売買契約書の書面において明記されていることが、今後、紛争防止の上で、必須の作業になるでしょう。

ポイント1

擁壁設置前

仲介業者の担当者は、佐倉市役所等で本件不動産について調査をし、本件不動産の隣接地で区画整理事業がされており、公園ができることを確認したが、本件擁壁の設置については聴取できなかった(平成14年1月10日千葉地裁)。

区画整理施工前の現地周辺の空中写真
区画整理施工前の現地周辺の空中写真

ポイント2

擁壁設置後

本件擁壁は、佐倉市井野西土地区画整理組合により、土地区画整理事業の一環として、調整池および調整池兼用公園の築造に伴って設置されることになっていたものであり、その長さは約103.8m、高さは4.5または5m、鉄筋コンクリート造りであった(平成14年1月10日千葉地裁)。

区画整理施工後の現地周辺の空中写真
区画整理施工後の現地周辺の空中写真
長い擁壁が見えます

津村 重行

不動産コンサルタント

津村 重行

三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。