Vol.28 売買重要事項の調査説明 ~ガイドライン編④~
“宅地もしくは建物の通常有する品質性能”とは何でしょうか?
2021年4月1日に施行された宅建業法第35条は、担保すべき責任の履行に関して、「当該宅地又は建物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合」と、重要事項説明の条文が改正されました。その際の、「当該宅地もしくは建物の種類もしくは品質」とは何でしょうか?
土地の通常有する品質性能とは何か
宅地の三大性能における“土地の通常有する品質性能”は、法曹界で次のように定義されています。
(1)宅地地盤について
「売買の目的物に隠れたる瑕疵がある場合、売主は瑕疵担保責任に基づく損害賠償責任を負う。ここにいう暇疵とは、当該目的物を売買した趣旨に照らし、目的物が通常有すべき品質、性能を有するか否かの観点から判断されるべきである。そして本件のような居住用建物の敷地の売買の場合は、その土地が通常有すべき品質、性能とは、基本的には、建物の敷地として、その存立を維持すること、すなわち、崩落、陥没等のおそれがなく、地盤として安定した支持機能を有することにあると解される」(2002年9月26日 東京高裁)。
(2)地中埋設物について
「民法570条にいう瑕疵とは、売買の目的物が、その種類のものとして取引通念上、通常有すべき性状を欠いていることをいう。そして、宅地の売買において、地中に土以外の異物が存在することが即土地の瑕疵に当たるとはいえないのは当然であるが、その土地上に建物を建築するについて支障となる質,量の異物が地中に存在するために、その土地の外見から通常予測され得る地盤の整備、改良の程度を超える特別の異物除去工事等を必要とする場合は、宅地として通常有すべき性状を備えないものとして、土地の瑕疵に当たるというべきである」(2002年9月27日 東京地裁)。
(3)土壌汚染について
「居住その他の土地の通常の利用を目的として締結される売買契約の目的物である土地の土壌に、人の健康を損なう危険のある有害物質の危険がないと認められる限度を超えて含まれていないことは、土地が通常備えるべき品質、性能に当たるというべきである」(2008年9月25日 東京高裁)。
そして最高裁は、「売買契約の当事者間において、目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては、売買契約締結当時の取引観念を斟酌(考慮)して判断すべき」(2010年6月1日 最高裁)とし、売買契約締結当時の取引観念は、取引当事者による合意であったかを瑕疵の判断基準の重要な要素としました。
中古住宅の土地の通常有する品質性能とは何か
一方、取引現場では、引渡しが終わった中古住宅で「植栽を植樹しようとしたところ、土中から建築部材のガラやガラス破片、錆びた生活用品の一部などが大量に出てきた。これらの異物の除去と新しい土壌の入れ替えに数十万円の想定外の出費があった。これを弁償してほしい」といった苦情相談トラブルが絶えません。
これは、一般消費者と宅建業者との間にある、中古住宅の土地に関する「取引観念」の認識の違いが、最大の原因と考えられます。このトラブルを防止するためには、「売買契約書特約」において、以下のような「品質性能に関する共通認識の合意文書」が必要と考えられます。
売主および買主の「土地の品質性能に関する共通認識」は以下の通り確認した。
売買対象物における過去に建築物があった土地もしくは中古建物の敷地に利用されている土地の品質性能は、建物解体時における建築部材の破片、断片、敷地利用者が使用した小石・レンガ等の類似品、生活用品の一部等の異物が土壌に含まれており、均一な粒子の土質ではないことを、売主および買主は互いに認識した。
ポイント1
敷地内の観察をした際、目視により瓦の破片や建築部材の一部などを確認することができるときは、少なくとも、地中にも数多くの異物が混入していると容易に推察することができます。重要事項説明書には、(別紙「敷地現況写真」参照)と記します。
ポイント2
この写真のように、建築設備の部材の一部が見えているときは、売買契約書において、「本物件売買対象物に、一切の残置物を含みます。」と明記しておくことで、引き渡し時のトラブル防止に役立ちます。
不動産コンサルタント
津村 重行
三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。