Vol.31 売買重要事項の調査説明 ~ガイドライン編⑦~
宅建業者が通常行っていない調査業務の告知とは?


一般消費者と宅建業者の間にある不動産取引に関する認識が互いにかけ離れていることから、不動産トラブルが起きることがあります。「宅建業者ならば、それくらい調べるのは当然だ!」などといった、苦情トラブルやクレームが発生しているのです。

その原因は、宅建業者が「どのような方法や手段で不動産調査を実施しているのか」ということが、一般消費者に周知されていないからだと考えられます。この認識の違いをなくし、互いの共通認識にすることがトラブル防止に役立ちます。

宅建業者が通常行っている“目視と簡易計測”とは

宅建業者が行う現地調査の原則は、“目視”と“簡易計測”です。しかし、この原則的な現地調査方法について、一般消費者には知らされていないのが現状です。では、原則的な現地の調査方法とは、どのようなことでしょうか。

通常、建築士等は、検査業務を伴う「既存住宅の評価方法基準」(平成30年国土交通省告示第490号)に基づいて現況検査を行います。宅建業者に検査義務はないため、「土地や既存住宅の現況調査」を行う場合は、検査業務を除いた下記の「調査方法基準」により現況調査を実施します。

(1)目視調査

少なくとも歩行その他の通常の手段により移動できる位置において、評価の対象となる部位等のうち、仕上げ材や、移動が困難な家具等により隠蔽されている部分以外の部分について、認められた劣化事象等を対象として、現況調査をします。

(2)簡易計測

調査の対象となる部位等のうち、少なくとも歩行その他の通常の手段により移動できる位置において、少なくとも当該位置の地上面、床面等からの高さが2m以内の部分における目視により認められた劣化事象等を対象として、現況調査をします。

このような現地の調査方法は、一般顧客に提示して説明をする「敷地現況図」などに付記記載をして顧客に説明することにより、一般消費者との間に共通認識が生まれます。

宅建業者が、通常、行っていない“現況調査”とは

宅建業者が通常行っている現況調査が、このような“目視と簡易計測”が原則的な調査方法である限り、以下のような通常行われていない現況調査が存在します。

(1)敷地境界標の探索調査

宅建業者は、通常の目視と簡易計測で境界標を発見できないときは、土地家屋調査士を紹介します。土地掘削用の大型のスコップなどを使用して行う、「敷地や道路の境界標の存在の有無を確認するための掘削調査」があります。

(2)越境物の有無の確認調査

宅建業者は、通常の目視調査では判別できない高さの場合、土地家屋調査士を紹介します。「庇などの隣地への越境の存在の有無」を確認するための調査があります。

(3)道路幅員の簡易計測調査

前面道路の自動車交通量が多い場合、巻き尺等による道路幅員の簡易計測では、交通事故の発生等の危険性があります。簡易計測ができない場合は、法務局や市区町村役場が発行する既存の資料により、道路幅員等の告知をします。

(4)敷地周囲の簡易計測調査

敷地周囲の簡易計測の際、植栽が繁茂している場合や敷地利用者が使用する機材・工作物の残置により、巻き尺等による敷地周囲の簡易計測ができない場合があります。このような調査不能の場合は、測量士を紹介することがあります。

(5)宅地地盤下の諸設備の掘削調査

地中に埋設されている電気・ガス・上下水道の配管位置の掘削調査は、通常、行っていません。依頼があれば、専門業者を紹介します。

(6)時間を問わない住宅環境調査

深夜などの時間を問わない騒音・振動・臭気・排気ガス等の周辺環境の現況調査の場合は、周辺環境への個人的満足度が人それぞれ異なるため、特別依頼がない場合は行いません。そのため、買主自身の五感で実地に確認をするか、または、売主への聞き取りを参考にするように説明します。

専門検査のほかにも、このような「宅建業者が通常行っていない業務」を小冊子にして説明をすることは、一般消費者との間の不動産取引に関する認識のずれをなくすことになり、クレームや苦情相談トラブル防止に役立つと考えられます。

ポイント

建物と境界線との間に隙間がなく、人が立ち入りできない場合は、“簡易計測不能”となります。ただし、全体の状況により、建物の寸法を簡易計測することにより、簡易計測不能箇所の寸法に置き替えることができる場合があります。

人が立ち入りできない場合

ポイント

深夜の住宅地など、時間を問わない周辺環境の現況調査は、周辺環境への個人的な満足度が人それぞれ異なるため、特別依頼がない場合は行っていない、ということを消費者に告知しておくことが大切です。

深夜の住宅地

津村 重行

不動産コンサルタント

津村 重行

三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。