Vol.32 売買重要事項の調査説明 ~ガイドライン編⑧~
登記所における不動産調査のガイドラインとは?


登記所には、土地及び建物の登記簿(登記記録)をはじめとして、登記に関する数多くの帳簿や図面が備え付けられていますが、はたして、どこからどこまでの書類を請求して不動産取引を行えばいいのでしょうか。これは大きな問題です。

登記所備え付け帳簿とは

登記所においては、①登記簿(登記記録)②流木登記簿 ③工場財団登記簿 ④船舶登記簿 ⑤建設機械登記簿 ⑥信託目録 ⑦共同担保目録 ⑧登記所備え付け地図 ⑨地図に準ずる図面 ⑩地積測量図 ⑪地役権図面 ⑫建物図面・各階平面図 ⑬登記事項要約書 ⑭筆界特定図面などの帳簿を、取引対象物件の種類や内容に応じて取得することが大切です。

例えば、平成18年から令和2年までに65,000件の立木登記が登記され、土地登記事項証明書の表題部に記載があれば、重要事項として流木登記簿の取得調査が必要となります。

宅建業法上の重要事項説明義務項目とは

宅建業法第35条第1項第1号には、「当該宅地又は建物の上に存する登記された権利の種類及び内容並びに登記名義人又は登記簿の表題部に記録された所有者の氏名(法人にあっては、その名称)」とあり、これだけでいいのであれば、「土地や建物の登記事項証明書」を取得すれば登記所での調査は終了することになります。しかし実際には、これで調査を終了した場合、少なからず、不動産トラブルを招きます。ここでは、調査すべき範囲をガイドラインとして明確にすることが問われています。

土地台帳は公正証書

「公正証書原本不実記載、同行使、土地家屋調査士法違反等被告事件」での最高裁判決で、熊本県の「1572番の2の開拓地の地積が21町8反歩であるにもかかわらず、4町6反5畝18歩であるがごとき虚偽の測量図を作成して虚偽の測量をした上、土地台帳及び不動産登記簿に山林が分筆されたごとく不実の記載をさせ、行使した」とされる事件があります。

権利義務に関する公正証書とは、公務員がその職務上作成する文書であって、権利義務に関するある事実を証明する効力を有するものをいい、公務員において申立に基づきその内容の如何を審査することなく記載するものである。もしくは、その内容を審査しこれを取捨選択して記載するものである。また、その目的が特に私法上の権利義務を証明するためであるか否かは問わず、土地台帳は、いわゆる権利義務に関する公正証書に該当するものである」としています。現在では、「土地台帳に該当するものは登記簿(登記記録)」であるため、「(登記簿)登記記録は公正証書」と判断されます。 

契約内容に影響する情報の調査

「登記記録を証明した登記事項証明書は公正証書の写し」であることから、登記所における調査範囲は、現に効力のある登記記録のほか、「地図」または「地図に準ずる図面」では、位置、地形、境界点が示され、「地積測量図」では、敷地面積、敷地周囲や道路の寸法が示され、「建物図面、各階平面図」では、現地照合による増築の有無が示され、「隣接地の登記事項要約書」では、嫌悪施設などの建設計画などが示され、契約内容に影響することになります。

過去の履歴調査は、原則的に、調査対象外

登記所においては、依頼者からの特別な注文がない場合は、原則的に、過去の登記記録は調査対象外ですが、買主の購入目的や利用方法、利用計画などの契約内容から、土地閉鎖登記簿謄本や建物閉鎖登記事項証明書などの調査が必要となる場合があるため、頭の片隅に置いた上での調査が必要です。

現地照合は通常の不動産調査

平成9年7月、最高裁判決で、「不動産競売により土地を取得した買主が、執行官が行った土地の現況調査の結果に誤りがあり、これを信じて土地を取得したために損害を被ったとして、国に対して損害賠償請求した」事件があります。

「同執行官が本件土地であると判断した土地は、実際には、本件土地の西側に隣接する土地であった。不動産登記法17条所定の登記所備付地図(現在は14条地図)は、現地指示能力及び現地復元能力を有し、土地の所在、範囲を特定する際の重要な資料であり、現況調査の目的となる土地につき登記所備付地図がある場合には、右地図と現地の状況を方位や道路、隣地との位置関係等から照合して土地の特定を行うのが通常の調査方法と考えられる。執行官が現況調査を行うに当たり、通常行うべき調査方法を採らず、誤った現況調査報告書の記載を信じたために損害を被った者に対し、国家賠償法に基づく損害賠償の責任を負うと解するのが相当である」。宅建業者のような不動産調査や取引の専門家ではない執行官でさえ、「現地照合調査は通常の不動産調査方法である」としています。宅建業者の場合、「地図」「地積測量図」などの数値が記載された書面がある場合の調査においては、“現地照合は通常の不動産調査”として調査を行うことが大切です。

以上のポイントが、概ね“登記所における調査ガイドライン”といえるでしょう。

ポイント

明治22年3月、土地台帳規則に基づく土地台帳は、昭和26年の不動産登記法の改正により、登記簿をバインダー式とするため、「登記簿と台帳の一元化作業」が進められました。さらに昭和35年の、不動産登記法改正により、土地台帳の移記が行われ、土地台帳は、最高裁で「公正証書」とされました。その後、「土地台帳」は「登記簿台帳から登記記録」へと移り変わり、登記記録が公正証書として取り扱われることになります。

土地台帳規則に基づく土地台帳
<旧土地台帳>

ポイント

登記所において、取得した土地の登記事項証明書を取得した際に、地目が山林のときは、立木登記の記録の有無を確認します。万一、立木登記の記載の記録がある場合は、立木登記簿謄本の申請をする必要があります。平成18年から令和2年の間に、約65,000件の登記件数があります。

取得した土地の登記事項証明書
<流木登記件数>

津村 重行

不動産コンサルタント

津村 重行

三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。