Vol.34 売買重要事項の調査説明 ~ガイドライン編⑩~
役所における不動産調査のガイドラインとは?


役所調査において難解なことは、交付された過去の記録図面に記載された情報が、現況と相違する相違情報であっても、書類訂正をする責任所在が明確ではない、ということです。

売買重要事項説明書の記載説明方法とは

宅建業者が重要事項説明書に記載説明をする際、原則的な記載基準というものを重要事項説明書に明記して告知しておくことは、不動産トラブル防止の上で有効となります。例えば、以下のような文面があります。

「本書は、買主様の契約の内容に照らして、目視および簡易計測による現地調査の結果のほか本物件所轄の監督諸官庁に保存された諸記録の閲覧または諸証明書および聞き取り調査結果に基づき、重要な事項をありのまま忠実に記載したものです。添付書面のない項目は、聞き取り調査によるものです。詳しくは別紙添付資料をご参照されるほか、各監督諸官庁の担当者に直接ご確認してください」。

このように、役所調査においては、添付資料のある調査結果と添付資料がなく聞き取り調査のみで得られた不動産調査情報がある、ということを告知しておくことです。

役所の添付資料がある場合

許可申請書類の写しなどの市区町村役場が交付する書類には、現況と相違している情報や記載ミスなどが含まれている可能性がありますが、宅建業者は、「交付された書類を見て、ありのままを、忠実に、重要事項説明書に転記をしている」ということが原則となります。しかし、状況によっては、図面の記載事項が現況と相違しているために取引対象物件の品質性能にかかわる情報の場合、容易に判別できるような記載情報については、「宅建業者による調査説明義務違反」を問われる場合があります<ポイント1、2画像参照>。

ポイント1

下の平面図のように、市区町村役場が交付する下水道施設平面図において、現況(ポイント2)と相違する場合があります。平面図の下水道桝設置個所(赤丸位置)は、現況とは正反対の位置にあります。「公設桝の設置位置が現況と異なっているため、余分な費用を費やして、新築住宅の設計図を作成しなおさなければならなくなった」といった苦情が出る場合があります。

<下水道施設平面図>

<下水道施設平面図>

ポイント2

下図のように、下水道公設桝の設置位置(赤い点線位置)は、現況では、赤丸の位置にあります。「市区町村役場が交付する図面(ポイント1の図面)には、現況と相違する情報」があるとして、告知することが大切です。容易に判別できるような相違情報について、これを見落とすと、「宅建業者による重要事項の調査説明不足」を追及される場合があります。

<敷地現況図>

<敷地現況図>
現況調査方法の基準について

現況調査の調査方法基準とは、「歩行その他の通常の手段により移動できる位置において、少なくとも仕上げ材、移動が困難な家具、物置、工作物等により隠蔽されている部分を除き、当該位置の地上面、床面等からの高さが2m以内の部分における目視により認められた劣化事象等のほか、自重による床の沈み等を対象」(国土交通省告示第490号・評価方法基準より抜粋)を参考として行うものです。

添付資料に相違情報が存在する場合の対処法

宅建業者は、さまざまな方法によって得られた不動産情報を、単に、無条件に重要事項説明書に記載をするのではなく、記載内容を確認し、取引対象物件に大きな影響を与えるような現況と相違する情報が存在する場合は、誠実に、「この個所の表示は、現況と相違しています」という告知が必要です。もちろん、相違情報について、書類作成の資格がある場合を除いて、相違している情報のいずれが間違いかを検証する、というような調査説明義務まではありません。

聞き取りのみで調査終了の場合のトラブル

添付書類がなく聞き取り調査だけで終わった場合には、担当者の対応が、質問をした事項に対して、明快な回答の場合とやや不明瞭な回答の場合とがあります。いずれの場合においても、聞き取り調査の場合は、調査を実施したという証拠になる記録や書面がありません。

このため、後日、調査説明不足による損害賠償請求訴訟が発生した場合、担当の不動産会社は、この対応に苦慮することになります。不動産情報を取得する際、聞き取り調査で終了する際は、「聞き取り調査保存用シート」などを活用して、後日の不動産トラブル防止のために、担当者名を記録に残しておきます。

担当者の「あいまい回答」の場合の対処法

所轄の担当者の回答が、「あいまいな回答」や「どちらともいえない回答」の場合、そのままの状態で、売買契約を締結した際、「あいまいな回答であったにもかかわらず、確認調査を怠った」と、これをもとにして、損害賠償請求が起きることがあります。この対策としては、聞き取りの際の担当者名を告知して、「担当者の回答があいまいなため、監督諸官庁の担当者に直接ご確認ください」とする方法があります。つまり、担当課での「あいまい回答」の場合は、「お客様と一緒に担当部署で聞き取りの再調査をする」ということが大切です。


津村 重行

不動産コンサルタント

津村 重行

三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。