Vol.35 売買重要事項の調査説明 ~ガイドライン編⑪~
添付書類の取り扱い方法のガイドラインとは?


売買重要事項説明書を交付する際には、重要事項説明のための添付書類がありますが、その種類はさまざまです。しかし、これらの添付書類の性質などにより、買主の契約内容不適合に直接影響するものもあり、取り扱いの方法によっては不動産トラブルに発展します。

売買重要事項説明書と売買契約書との性質の違い

重要事項説明をする上で、最も重要な添付書類とは「売買契約書(案)」です。書面のタイトルが「売買契約書」と記載されていても、重要事項説明の段階では、売買契約書の“(案)”であるということが大切です。売買契約書は、取引内容が約定条文として記載されており、取引によっては、「特約条項」として明記されることもあります。このため、売買重要事項説明をしている段階では、「売買契約書(案)は添付書類」という位置づけをして、売買契約書(案)の説明が終了した段階で、売買重要事項説明が終了する、という理解が必要です。

最近の取引現場では、この「特約条項に記載された文章」を、そのまま売買重要事項説明書にも重ねて記載している、といった書面が見受けられます。そうすると、それを読んで解説をするという作業が、重要事項説明書の説明時と売買契約書の説明時と、重複します。これは、いたずらに、一般消費者を長時間の重要事項説明に立ち会わせ、本当に重要な事項をあいまいな記憶にさせてしまいかねず、不動産トラブルの遠因ともなります。重要事項説明書は、「物件説明書」ともいい、例えば、重要事項説明書には、「本物件敷地の境界標は、1か所(別紙参照)が未確認です。」と記載し、「売買契約書(案)」には、「本物件敷地の境界標1個は未確認であるため、売主は本物件契約締結後、資格ある土地家屋調査士に本物件敷地の測量図を作成させ、隣接地主同意の上、境界標を敷設するものとする。万一、隣接地主の同意が得られない場合、売主が買主に現況測量図を交付することに、あらかじめ、買主は承諾することとする。」というように、重要事項説明書と売買契約書では、記載すべき内容が性質上、異なるということの理解が大切です。

ポイント1

下記のように、売買重要事項説明書には、取引対象物件の現況について、できるだけ詳しく説明をすることが大切です。取引の方法や手段等については、売買契約書(案)に記載するため、ここには記載いたしません。

売買重要事項説明書・特記事項

1. 本物件敷地の境界標4個のうち3個は確認済みですが、1個は未確認です。
(別紙、「敷地現況図」参照)

2. 本物件敷地の北側隣地建物の2階の庇の一部は、本物件側に出ています。
(別紙、「敷地現況写真」参照)

売買契約書・特約条項

1. 本物件敷地の境界標1個は未確認であるため、売主は本物件契約締結後、資格ある土地家屋調査士に本物件敷地の測量図を作成させ、隣接地主同意の上、境界標を敷設するものとする。万一、隣接地主の同意が得られない場合、売主が買主に現況測量図を交付することに、あらかじめ、買主は承諾することとする。
2. 本物件敷地の北側隣地建物の2階の庇の一部は、本物件側に出ているため、売主は自己の責任と負担により、将来、隣地所有者が再建築をする際は、越境部分を撤去する敷地越境合意書を作成することとする。万一、越境合意書を作成できない場合は、本契約を白紙解除とする。

付帯設備状況一覧表は売主の撤去物の意思表示

付帯設備一覧表は、明認法ともいい、「売買物件に付帯する設備一覧表」という性質ではなく、「売主が撤去の意思表示をする付帯設備一覧表」という性質があります。例えば、「物件に付帯する設備一覧表」という性質では、「敷地内の粗大ごみ」、「浄化槽内の汚物」などの項目は設けないでしょう。これとは反対に、「売主が撤去の意思表示をする設備一覧表」という性質では、「敷地内の粗大ごみ」、「浄化槽内の汚物」などは重要な項目となります。ここに記載されていないものがあれば、引き渡し時に、敷地内に残置しているものは、すべて従物として買主に所有権を移転します。また、建物がない更地の場合でも、「量水器、井戸、浄化槽、庭石、樹木、池、錦鯉、外灯、門塀」などの記載項目の説明は大切です。また、設備のうち、新品同様でメーカー保証期間内のものと、メーカーの保証期間が切れているものとは、明確に区別をして表示をします。保証期間が切れているものは、引き渡し後には故障が発覚する場合があります。一方、確実に故障しているものは、備考欄で説明が必要です。最後に、火災等の原因ともなりえる「特定保守製品」が設備に含まれているときは、買主が製造メーカーに対して、所有者変更手続きをする必要がある、という説明が必要です。

ポイント2

売買付帯設備一覧表にある特定保守製品とは、屋内瞬間湯沸し器・屋内式ガスバーナー式風呂釜・石油給湯器・石油風呂釜・FF式石油温風暖房機・ビルトイン式電気食器洗機・浴室用電気乾燥機の7機種のことです。該当する場合は、下記給湯器のように、明記されているため、取引完了後、買主に所有者変更届出をするように、説明をする必要があります(消費生活用製品安全法第32条の8より)。

売買付帯設備一覧表にある特定保守製品の例

売主の不動産情報告知書は聞き取り調査実施の証拠

宅建業者による不動産物件調査では、どうしても調べきれないものがあり、売主にしか知りえない不動産情報がたくさんあります。これらを書面にした書類が、「売主の不動産情報告知書」です。売主による記載事項は、「敷地及び敷地に付属する設備(擁壁など)」、「建物および建物に付属する設備(井戸など)」、「権利・法令に関する事項(差し押さえ予告通知など)」、「心理的な契約内容不適合事項(自殺など)」について、書面で説明をしてもらいます。この中の、心理的な契約内容不適合事項については、「売主の説明方法基準」を説明して、「書面に提示されている期間(20年間)」については、売主が同意をする範囲内で、買主が自由にその「説明すべき期間の変更」を申し出ることができる旨を、説明する必要があります。この書面は、宅建業者が仲介業者として、“売主への聞き取り調査を実施した証拠”ともなる重要事項説明書の添付書類ともいえる大切なものです。


津村 重行

不動産コンサルタント

津村 重行

三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。