Vol.36 売買重要事項の調査説明 ~ガイドライン編⑫~
添付書類の説明の仕方のポイントとは?


売買重要事項説明書に添付する添付書類には数多くの種類がありますが、これらは重要事項説明をする際に説明の手助けとなり、後日、買主からの「よく説明が理解できなかった」などといった苦情を解消します。添付書類の説明を的確に行うことは、不動産トラブル防止のうえで、重要なビジネススキルになります。このような観点から、重要事項説明書の添付書類の説明ポイントについて述べます。

誤記のある登記事項証明書

こんな事件がありました。登記事項証明書の表題部には「地籍調査による訂正」と記載があり、敷地面積の訂正が行われていました。地積測量図を見ると、「国土調査による地積測量図」となっていますが、敷地面積は登記事項証明書の数値と相違していました。すぐに登記の表示係に尋ねると、「記載ミス」ということが判明し、登記事項証明書の訂正が行われたのです。このように容易にわかるような表示には注意が必要です。

登記事項証明書

最高裁は、不動産登記の公信力について次のように述べています。

「不動産登記には公信力はないけれども、不動産の取引には登記簿の記載を一応真正なものと信ずるのが通常であり、特に登記簿上の該当不動産の前所有者と記載されている者が登記書類の偽造により登記官吏を欺いて真実に反して前所有者として掲記されているようなときは、取引の相手方がその登記の記載を真正なものと信ずるのは当然である。なぜなら、不動産の取引をする者に登記簿の記載以外に登記簿上記載された該当不動産の所有名義人を順次、廻ってそれが真実の所有者であり所有者であつたことを調査することを要求することは通常至難なことと言わなければならないからである」(昭和43年6月27日、最高裁判決)。「不動産の取引には登記簿の記載を一応真正なものと信ずるのが通常」である、と説明することがポイントです。

土地上に建物の登記記録のないことを示す“返却された申請書”

「土地上に建物の登記記録がある場合に交付してください」と提出した申請書が、“底地上なし”として返却された場合、その申請用紙について、「登記官が調べた結果、土地上には登記された建物の登記記録がないと回答をした書類です」と説明することがポイントです。忘れずに重要事項説明書に添付します。

地積測量図

「当該地積測量図は確定地積測量図であるか」と考える場合、「隣接地主の境界立会協議書がある図面」、「法務局の処理印の押印のある図面」、「確定測量図と明記された図面」、「平成17年3月7日以降に作成保存された図面」、「地籍調査により作成された図面」などが該当するということがポイントです。

また、地積測量図の作成年月日を確認した際に、相当に古い作成年月の場合、「古い測量図ですので参考です」という説明をするのではなく、「昭和52年9月3日以前に作成された地積測量図は、法務省が信ぴょう性が低いとしている時期のものです。現況寸法と相違しています。」と説明することがポイントです。もちろん、現地照合において「おおむね照合一致」しているときは、相違しているという説明は不要です。

閉鎖登記建物図面

買主の契約内容が一般住宅の新築ではなく共同住宅の場合、重量物対策としてコンクリート基礎等を地中深くに使用する場合がありますので、「取引対象地に、地下室があるか否かの確認のための書類が、閉鎖建物登記簿謄本、閉鎖建物登記図面です」と説明することがポイントです。万一、このようなものがあった場合は、売主に、「地下室の撤去はどのようにされたか?」と聞き取りをします。

2,500分の1の都市図

この地図には、海抜が記載されており、入手ができた場合は、消費者にとってはとても親切です。「この付近の海抜は、-0.90mです」と、この地図で説明をすることがポイントです。クレーマー対策には必須です。

ポイント1

下記のように、2,500分の1の都市図には、海抜が記載されています。この場所付近は、海面より0.90m低い地勢のため、特に、洪水対策に対しては神経を使う地域です。このような場合は、過去の浸水被害履歴などの情報を集めて、買主に告知すると、不安を解消される場合があります。

<2,500分の1都市図>

2,500分の1都市図

公図

公図には、「地図」という場合と「地図に準ずる図面」という場合があります。地図は、「不動産登記法17条所定の登記所備付地図(いわゆる17条地図、現在は法14条地図)は、現地指示能力及び現地復元能力を有し、土地の所在、範囲を特定する際の重要な資料」(平成9年7月15日、最高裁判決)で、「証拠能力は高い」と説明します。一方、「地図に準ずる図面」の場合は、「証拠能力はなく、参考として交付されているもので、現況と相違していることが多くある」と説明することがポイントです。

旧紙公図

旧紙公図は、前面道路が公道で建築基準法第42条第2項道路に該当する場合、「元の公道の幅員を確認して、中心線から2mの敷地後退線を推定するための図面です」と説明することがポイントです。登記所ではカラーによる図面が交付され、法務局の証明印が押されます。ただし、区画整理事業などにより換地された物件の場合は、旧紙公図を入手できない場合があります。

隣接地の登記事項要約書

取引対象地の隣接地に嫌悪施設を建設する可能性のある企業等が存在しないことの確認のための書類です。例えば、ゴミ処理工場やガソリン給油メーカーなどではないかを確認します。この書類には、登記所の押印がありませんので、必ず、手書きでも構わないので、交付した登記所名と日付を上部の空欄に記載した上で、添付します。つまり、「調査を実施した時点で、隣設地には嫌悪施設がないことの確認をした書類です」と、説明することがポイントです。

ポイント2

下記のように、隣接地の登記事項要約書を取得した際、法務局の押印がないため、手書きでもいいので、必ず、交付をした法務局名と交付日を記載することがポイントです。「この日付の時点で、隣接地の調査においては、嫌悪施設を計画する企業の存在等の情報は知りえなかった」という証拠の書類となります。

<登記事項要約書>

登記事項要約書

津村 重行

不動産コンサルタント

津村 重行

三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。