Vol.37 売買重要事項の調査説明 ~ガイドライン編⑬~
誰も行っていない特別依頼業務とは?


宅建業者は、買主が計画している契約内容を十分に確認して、その契約内容に照らした売買の重要事項調査を行います。しかし、買主からの特別な依頼がない場合、宅建業者による重要事項調査において業務の範囲外となる事項が数多く存在します。本節では、この特別依頼業務の一部を紹介します。

誰にでもできる専門検査前のインスペクション業務

仲介業務における宅建業者には、検査義務はありません。このため、宅建業者が行う通常の不動産調査の範囲外には、インスペクション関連の業務が存在し、それらは、特別依頼業務として活用できる場合があります。建築士等による建物状況調査は別として、誰であっても、行える業務が<ポイント1>のように多数存在します。このような業務を「エスクロー調査業務」と表現しています。

ポイント1

下図のように、宅建業者は、通常の不動産調査義務はありますが、検査義務はないため、誰も行っていない調査範囲が存在し、これを特別依頼業務として受託し業務をすることができます。誰も行っていない調査業務であるため、仮に、「エスクロー調査」と表現しています。

エスクロー調査の図

境界標の特別探索作業

宅建業者は、境界標については、家庭菜園用の小さなスコップで、土砂を払うようにして境界標を探しますが、通常の不動産調査では、大型スコップや特殊掘削器具により、地面を掘削して探索するような検査業務はしていません。宅建業者が通常の調査で発見できない境界標がある場合、売主に対して、「境界標が見つからないので、費用がかかりますが土地家屋調査士に境界標の探索を依頼してください」と、専門検査機関を紹介する場合があります。また、一方で、「当社の特別依頼業務を申し込まれる場合は、有料になりますが、簡易の境界標の探索作業を行います。掘削の深さは、地面下約0.5mまで、1か所当たり11,000円です」などと、「特別依頼業務一覧表」を提示します。

敷地簡易計測の植栽障害物撤去

敷地周囲の簡易計測をする際、植栽が繁茂しているため、障害となっている植栽の撤去作業を特別依頼業務として、受託することができます。「有料となりますが、1辺当たりの撤去は11,000円です」などとした「特別依頼業務一覧表」を提示します。

屋根裏の雨漏りの点検

木造の一般住宅の屋根裏検査は、宅建業者の通常の不動産調査では行っていません。しかし、買主にこのような通常行っていない業務があることを告知していなかった場合、トラブルに巻き込まれやすくなります。屋根裏の柱が雨漏りにより腐食していたのに、契約締結前に、調査説明をしてもらえなかった、といった苦情になります。取引が終わってから、「宅建業者には検査義務がないので、屋根裏の検査を行っていません」と言っても、なかなか理解をしてもらえません。このようなトラブル防止には、「屋根裏の簡易検査は、特別依頼業務一覧表にあります。1回、33,000円です。有料ですがご利用ください」と、説明をしておくことが大切です。

床下土台の腐食の点検

木造の一般住宅では、シロアリ被害による土台の腐食などで、不動産トラブルに巻き込まれる場合があります。宅建業者には、検査義務がないため、仲介業務の場合、通常の不動産調査として調査をしていません。そこで、「有料となりますが、特別依頼業務一覧表に床下土台の調査項目があります。1回、33,000円です」と説明します。

深夜の住宅地周辺の環境調査

宅建業者は、住宅地の売買のための調査だからといって、夜中の12時に物件周辺にまで出かけて、「近隣の公園に暴走族が集まって騒いでいる人がいるか否か」といった調査をしてはいません。周辺環境は、通常の調査には含まれていません。しかし、買主の購入動機が特別に深夜の住宅地を問題にして、不動産を購入しようとしているときは、宅建業者には、周辺環境の調査義務が発生します。そのため、事前に、「有料ですが、特別調査一覧表に、深夜における住宅地の環境の調査は、1回、22,000円です」と説明しておきます。

隣接地主との越境物の合意書作成業務

宅建業者は、隣接地主に対して、越境物に関する合意書作成のための交渉業務を、売主から依頼される場合があります。特殊な業務ですが、特別依頼を受けて交渉に入ることができます。この作業も、「隣地との越境物の合意書作成業務、1件、55,000円です」などとした、特別依頼業務一覧表を提示して引き受けることができます。越境物の存在の場合は、「越境物あり」という現況有姿売買も可能です。

このようなインスペクション関連の業務は、ほかにも数多くありますので、新しい分野のビジネスとして開発することが期待されるでしょう。

ポイント2

下表のように、特別依頼業務の申込書を透明ファイルに入れ、受付カウンターに置き、来店者がいつでも見ることができるような場所に提示し、不動産の購入申し込み時は、このような特別依頼業務が存在することを告知します。将来、発生するかもしれないクレームにも対応しやすくなります(価格は、あくまでも参考としてください)。

特別依頼申込書

津村 重行

不動産コンサルタント

津村 重行

三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。