Vol.40 売買重要事項の調査説明 ~ガイドライン編⑯~
周辺環境の心理的瑕疵の関係法令について


周辺環境の心理的瑕疵については、宅建業法のグレーゾーンに含まれるものが多く、不動産トラブルや消費者クレームが発生しやすいことから、契約準備段階での重要事項説明としての説明義務違反を求める紛争事例が多く存在します。周辺環境の心理的瑕疵は、環境基本法に基づくものも多いため、関係法令を一度整理しておく必要があります。

環境基本法における7大公害

環境基本法における7大公害とは、
①大気の汚染
②水質の汚濁
③土壌の汚染
④騒音
⑤振動
⑥地盤の沈下
⑦悪臭

であり、事業場等からの公害の基準を定めて、法令制限があります。

1.大気の汚染は、大気汚染防止法に基づき、アンモニア等の28種の特定物質を定め、特定施設からの排出基準があります。「近隣に、ごみ焼却施設があり、排気口が近い」といった紛争があります(ポイント1)。

ポイント1

ゴミ焼却施設等は、大気汚染防止法に基づき、ばい煙発生施設として、アンモニア等の28種の特定物質のばい煙量、ばい煙濃度の排出基準に適合しないばい煙の排出を規制しています。しかし、基準値未満であっても、心理的瑕疵の有無で紛争が起きます。あらかじめ、基準値未満については、法令上の許容範囲として合意しておくことがポイントです。

ゴミ焼却施設

2.水質の汚濁は、水質汚濁防止法により、カドミニウム等の28種の有害物質を定め、特定事業場から排出される水の排出および地下に浸透する水の浸透を規制するために、排出制限があります。「ドライクリーニング店からの有害物質(テトラクロロエチレン等)の排出で、地下水が汚染されていた」といった紛争があります。

3.土壌の汚染は、土壌汚染対策法により、カドミニウム等の26種の特定有害物質の、土壌含有量、土壌溶出量等の基準の定めがあります。平成 22年3月5日には、自然由来の砒素、鉛、ふっ素、ほう素により汚染された土壌についても、法の対象となりました。基準値未満でも、「微量ですが、土壌に砒素が含まれていた」と紛争があります。

4.騒音は、騒音規制法により、特定施設を設置する工場または事業場が発生する騒音が、敷地の境界線上の大きさの許容限度を規制しています。昼間、夜間その他の時間の区分および区域の区分ごとに基準があります。「隣地の工場騒音がうるさい」といった紛争があります。

5.振動は、振動規制法により、特定工場等が発生する振動が敷地境界線上における大きさの許容限度を規制しています。市区町村において条例で定めることができます。「道路交通振動」も規制対象です。「国道の自動車交通による振動がひどい」といった紛争があります。

6.地盤の沈下は、地盤の沈下の原因となる地下水、天然ガス、温泉水等の採取、事業者等の揚水量の規制があります。大量の採取や揚水により、過去に、年間20㎝の地盤沈下が発生した地域もあり、社会問題になった時代があります。

7.悪臭は、悪臭防止法により、アンモニア等の22種の特定悪臭物質が定められ、排気口または敷地境界線上において、品目ごとに規制があります。畜産農場等からのアンモニア等による悪臭の規制基準は、市区町村において条例により定めることができます。「季節により、遠方の畜産農場から出る糞尿の臭気は悪臭だ」といった紛争があります。

以上の7大公害については、以下のような説明・確認をしておくことが大切になります。

「周辺環境の心理的瑕疵の範囲は、法令等の基準値がある場合は、規制基準値未満のものは含まれないということを、互いに確認しました」(ポイント2)

ポイント2

都道府県知事は、悪臭防止法に基づき、畜産農場等から発生する硫化水素、アセトアルデヒド等の特定悪臭物質について、事業場敷地の境界線の地表における排出基準、当該施設の排出口における排出基準を定めなければならない、としています。しかし、基準値未満でも、「においがたまらない」といった苦情もあります。「法令基準値未満の際の心理的瑕疵の有無の当事者合意」は、必要になります。

悪臭の例

環境基本法以外の自然環境

環境基本法以外の自然環境では、おおむね、眺望・景観・日照・通風等があります。

1.眺望・景観は、法令による定めがある場合を除き、眺望権や景観権は、眺望利益や景観利益を超えて存在しません(最高裁)。これを権利とするためには、景観法に基づく景観条例等の法規制を定める必要があります。

2.日照・通風は、建築基準法の日影規制は「日影を規制するもの」ですが、「日照を確保する」ための「中高層建築物の建築に係わる紛争の予防と調整に関する条例」等を定めている市区町村は多数あります。この規制が条例ではなく単なる指導や要綱の場合は、法規制ではありません。この場合、現時点において享受している日照・通風は、「眺望・景観」の利益と同じく、取引開始時点で享受されている利益にとどまり、将来的に保証された権利ではありません。

そのため、当事者合意の書面には、以下のような説明をしておくことが大切になります。

「物件周辺の眺望・景観・日照・通風等の自然環境に対する個人的満足度は、人それぞれ異なるため、売主は、あえて特段の説明を致しません。買主ご自身の五感で、現地にて実地検分の上、ご確認してください」


津村 重行

不動産コンサルタント

津村 重行

三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。