Vol.41 売買重要事項の調査説明 ~現地照合確認調査編①~
現地照合確認調査の必要性について


近々に売買契約の締結ができるという段階において、必ずしなければならないのが“現地照合確認調査”です。しかし、このジャンルは、不動産流通業界において十分に研究開発が行われているわけではありません。本節では、この現地照合確認調査というものを徹底的に掘り下げて解説したいと思います。

現地照合確認調査の必要性とは

こんな事件がありました。法務局にあった地積測量図には、道路と敷地が接する距離は10.00mと記載されていたので、そのまま販売図面を作成し公開していたところ、契約が決まり、売買契約を締結しました。営業担当者は、法務局が交付する地積測量図を信用していたので、そのまま買主に交付しました。引き渡し後、数年が経過して、買主が建設会社に住宅の建築工事を依頼したところ、工事会社からは、「道路側の間口が9.00mしかないので、目的のプレハブ住宅が敷地に入らない」と言われ、もらった地積測量図が現況と異なっていることに気づきました。すぐに、仲介をした不動産会社に苦情を申し立て、話し合いが行われましたが、最終的に、損害賠償の訴えを起こし、業者の説明義務違反を問うという事件に発展しました。

一般的に、顧客から売却依頼を受けた場合、できるだけ早く販売をしたいことから、法務局や役所から集めた書類を元に販売図面を作成し、販売活動をしています。この事件は、「法務局が交付した地積測量図は正しいもの」と宅建業者が信じて疑わず、現地照合確認調査をしていなかったために、トラブルが発生してしまったのです。このような不動産トラブルを防止するためには、取得した多くの不動産関連書類を、現地において“現地照合確認”することであり、不動産取引では必須の作業であるといえます。

道路の現地照合確認調査に必要な書類とは

道路の現地照合確認調査に必要な書類には次のようなものがあります。

①不動産登記法14条(旧法17条)地図、②道路台帳平面図、③道路地積測量図、④道路境界確定図、⑤建築計画概要書の配置図、⑥換地図などを手元に用意して、現地で照合確認をします。

現地照合確認調査の際は、あらかじめ、敷地現況図を公図や地積測量図を参考にして作成して、現地に赴きます。この敷地現況図には、現地で気づいたことをすべて記載していきます。道路の図面では、道路境界確定図面が最も信頼できる書類です。確定図面ではなくとも、道路測量図はとても参考になります。現地では、最初に道路境界標を確認し、道路反対側の境界標との間の距離を簡易計測し、道路測量図と照合します。この幅員が4m未満で、役所における道路の説明が建築基準法第42条第2項であれば、道路中心線から2mの敷地後退をした線が道路境界線となります。そして、その位置を現地で特定できるように、棒上のものを敷地後退線上において、写真撮影します(ポイント1)。

ポイント1

役所における道路の説明が建築基準法第42条第2項であれば、道路中心線から2mの敷地後退をした線が道路境界線となりますので、その位置を現地で特定できるように、棒上のものを敷地後退線上において、写真撮影します。

位置を現地で特定できるように、棒上のものを敷地後退線上において、写真撮影します。

○○㎝の敷地後退とわかれば、道路側の間口の簡易計測寸法と掛け合わせて、敷地後退面積を算出します。ここがポイントです。単に、敷地後退距離を算出するのではなく、敷地後退面積まで算出することが大切です。

建築計画概要書の現地照合確認調査

建築確認時に添付される建築計画概要書がある場合、道路幅員や道路の名称などが記載されていますが、現況と異なる事例がありました。

前面通路は、市では、道路法の法定外道路条例に基づく条例指定道路・加曽利町18号線とされ、通路査定幅員は3.00mとなっており、現況幅員も3.00mでした。そして、建築基準法上の道路に該当していない、と役所での説明があります。しかし、確認申請時の概要書に記載された配置図を観察すると、0.5mの敷地後退をする必要があるのにその記載はなく、市道に認定されていない法定外道路なのに、市道と記載をし、建築基準法上の道路に該当しないのに、建築基準法43条第2項第2号(旧第43条ただし書き)の許可に関する記載もありませんでした(ポイント2)。

ポイント2

建築確認申請時に添付される建築計画概要書を現地照合確認調査をした際に、現況と相違している場合は、必ず、その相違している個所を具体的に告知することが求められます。本書は、一級建築士事務所が作成した概要書です。

建築確認申請時に添付される建築計画概要書

よく見ると、作成者は、1級建築士でした(ポイント3)。

ポイント3

下図は、前掲(ポイント2)の建築確認申請時の建築計画概要書の配置図ですが、市道ではないのに市道と記載し、道路中心線から2mの敷地後退が必要なのにその記載はなく、建築基準法第43条第2項第2号(旧43条ただし書き)の許可が必要なのに許可に関する記載がありません。このような状況は、重要事項として告知をする必要があります。

建築確認申請時の建築計画概要書の配置図
[注意]
1.附近見取り図に明示すべき事項
方位、道路及び目標となる地物
2.配置図に明示すべき事項
縮尺、方位、敷地の境界線、敷地内における建築物の位置、申請にかかわる建築物と他の建築物との別、並びに敷地の接する道路の位置及び幅員

このような明らかな間違いがある場合、「概要書に記載された事項には誤りがある」ということが、現地照合確認で判断できますので、重要事項として告知が必要な事項となります。

建築基準法42条
第1項第1号とされた道路の現地照合確認調査

現況幅員が4m程度の道路の場合、役所から、「前面道路は建築基準法第42条第1項第1号該当道路」と言われた際は、必ず、道路幅員の現地照合確認が必要です。道路境界標の有無にかかわらず、現況の道路幅員を簡易計測して、3.90m などの場合は、再度、役所に戻り、「現況の道路幅員の寸法を簡易計測したところ、約3.90mですが、建築基準法上の該当規定はどうなりますか?」と、質問をする必要があります。そうすると、「4m未満であれば、建築基準法第42条第2項です」と回答される可能性があります。

このように、役所で調査したものを、現地で照合確認することを「現地照合確認調査」といいます。


津村 重行

不動産コンサルタント

津村 重行

三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。