税務相談
2023.04.14
不動産お役立ちQ&A

Vol.49 所得税の譲渡所得の金額の計算上控除される譲渡費用の範囲


Question

個人が土地を譲渡する場合の譲渡所得の金額の計算上、控除する譲渡費用の範囲について教えてください。

Answer

譲渡費用とは土地を譲渡するために要した費用のことをいい、①土地の譲渡のために直接要した費用や、②土地の譲渡価額を増加させるための費用が当てはまります。

1. 譲渡費用の範囲

(1)所得税基本通達による譲渡費用の範囲

個人が行った土地の譲渡に係る譲渡所得の金額は、その譲渡代金(収入金額)から取得費とその譲渡に要した費用の額(以下「譲渡費用」)の合計額を控除して計算します。この場合の譲渡費用の範囲は、所得税基本通達33-7に次のとおり例示されています。

①土地の譲渡のために直接要した費用

具体例としては、仲介手数料、登記に要する費用等があります。

②土地の譲渡価額を増加させるための費用

譲渡所得の課税は、土地の保有期間中に発生している資産の値上がりによる価値の増加益に対するものではあるものの、課税の対象となる所得は実現した所得であり、多くの所得を得ることを実現するためには、譲渡者の努力や手腕が必要で、そのための費用の支出も生じます。より多くの所得を得るために寄与したと認められる費用は、譲渡所得に対応するものと考えられることから、次のイ~ニの費用については、取得費とされるものを除き、譲渡費用に含めることとされています。

  • イ.借家人等を立ち退かせるための立退料
  • ロ.土地を譲渡するためその土地の上にある建物等の取壊しに要した費用
  • ハ.すでに売買契約を締結している土地をさらに有利な条件で他に譲渡するため、その契約を解除したことに伴い支出する違約金
  • ニ.上記イ~ハ以外の費用で、その土地の譲渡価額を増加させるためその譲渡に際して支出したもの

(2)土地の維持または管理に要した費用の取扱い

譲渡した土地の固定資産税や修繕費、その他その土地の維持または管理に要した費用は、譲渡費用には含まれません。

譲渡した土地の管理に要した費用は、その土地の使用収益によって生ずる所得に対応する費用といえます。このため、土地の値上がりによる価値の増加益である譲渡所得に対応する譲渡費用には含めないこととされています。

2. 具体例に基づく譲渡費用の範囲

(1)土地の譲渡に際して建物を取壊し等した場合の建物の損失の取扱い

①譲渡費用とされる建物の取り壊し等による損失

土地の譲渡に際し、その土地の上にある古い建物を取壊して、その土地を更地として譲渡する場合があります。このような場合において、その建物の取壊しまたは除却が、土地の譲渡のために行われたものであることが明らかであるときは、その取壊しまたは除却の時において、その建物の取得費から一定の償却費等を控除した金額に相当する金額が、その土地の譲渡に係る譲渡費用とされます(所得税基本通達33-8)。

②建物の取壊し等による損失が譲渡費用とされる理由

土地の譲渡に際して行われる、その土地の上にある建物の取壊しは、その土地を譲渡するためのものであり、その土地の価値増加のために行われるものと考えられます。このため、その取壊しによる損失の金額は、土地の譲渡による収入金額に対応するその土地の譲渡費用として、譲渡所得の金額の計算上控除するのが、土地の取引実態に合うものといえます。よって、土地の譲渡の際に行われる、その土地の上の建物の取壊しによる損失の額については、上記①のとおりに譲渡費用として取り扱われます。

なお、土地の譲渡に関連しない建物の取壊しによる損失については、その建物が不動産所得、事業所得または山林所得を生ずべき業務の用に供されていた場合は、その損失の生じた日の属する年分の所得等の金額の計算上、必要経費に算入されます。また、その建物が自宅等の非業務用のものである場合には、その取壊しによる損失は、家事関連費に該当することから、所得税の計算上は特に考慮されません。

(2)媒介契約を解除したことに伴い支払う費用償還金

①譲渡費用とされる費用償還金

たとえば、個人Aが土地を譲渡するため仲介会社Bと専任媒介契約を締結したものの、その後A自身がこの媒介契約に定めた価額より高い金額で買い取りたいとするCを見つけたため、そのB社との専任媒介契約を解除し、契約条項に従いB社が媒介契約履行のために要した費用100万円をAが支払い、土地をCに譲渡した場合、その支払った費用(費用償還金)100万円は、Aの土地の譲渡に係る譲渡費用とされます。

②費用償還金が譲渡費用とされる理由

①の費用償還金は、結果としてB社の媒介により土地が譲渡されなかったとしても買主を捜すために要した費用と認められるため、Aの譲渡のために直接要した費用として、譲渡費用として取り扱われます(国税庁ホームページ「質疑応答事例」)。

(3)すでに売買契約を締結している土地をさらに有利な条件で他に譲渡するため、その契約を解除したことに伴い支出する違約金の取扱い

表題の場合、その契約を解除したことに伴い支出する違約金は、前記1.(1)②ハのとおり、譲渡費用に含まれます。

たとえば、土地の売買契約を締結した後、すでに売買契約を締結している土地をさらに有利な条件で他に譲渡するため、受領した手付金500万円の倍返し(手付金の返還部分500万円と違約部分500万円の計1,000万円)により当初の売買契約を解除し、その後、さらに有利な条件でその不動産を売却した場合、その譲渡所得の計算上、違約金部分の500万円は譲渡費用となります。なお手付金の返還部分500万円は、先に受領した金員の返還であるため、譲渡費用には該当しません。

(4)土地譲渡に係る抵当権抹消費用

土地を譲渡する際に抵当権扶消登記費用を出した場合は、抵当権を抹消することが土地を売却する前提として事実上必要であったとしても、売買を実現するために直接要した費用でないため、譲渡費用に含まれません(大阪国税局「資産課税関係誤りやすい事例」(土地等譲渡所得関係 令和4年分用5頁)。

今回のポイント

  • 譲渡費用の範囲は所得税基本通達33-7や33-8等に例示されているが、具体的に例示されている費用以外のものが譲渡費用に該当するかどうかについては、「譲渡のために直接要した費用」や「譲渡価額を増加させるための費用」に当てはまるかどうかを個別に検討する必要がある。

山崎 信義

税理士法人タクトコンサルティング
情報企画部部長 税理士

山崎 信義

2001年タクトコンサルティング入社。相続、譲渡、事業承継から企業組織再編まで、資産税を機軸にコンサルティングを行う。中小企業庁「『事業引継ぎガイドライン』改訂検討会」委員などを歴任。著書に『不動産組替えの税務Q&A』(大蔵財務協会)、『事業承継 実務全書』(日本法令)など。