個人が居住の用に供していた自宅とその敷地を譲渡(以下「従前住宅の譲渡」)し、所得税の居住用財産の譲渡に係る3,000万円控除(以下「3,000万円控除」)の適用を受けた後、その翌年に新築または取得をした家屋(以下「新規住宅」)を居住の用に供した場合における、所得税の住宅ローン特別控除の適用の可否について教えてください。
Answer
個人が、新規住宅を居住の用に供した日の属する年の前年または前々年分の所得税につき、3,000万円控除等の居住用財産の譲渡に係る特例の適用を受けている場合、その居住の用に供した日の属する年以後10年間(原則)の各年分のその個人の所得税については、住宅ローン特別控除の適用を受けることができません。
1.住宅ローン特別控除の概要
個人が2021(令和3)年12月31日までに国内で住宅の用に供する家屋で床面積が50㎡以上等の要件を満たすものの新築または取得をし、その家屋をその個人の居住の用に供した場合において、その個人がその家屋の新築等に係る借入金(住宅借入金)の額を有するときは、一定の要件を満たすことにより、その居住の用に供した日の属する年(居住年)以後10年間(原則)の各年分のその個人の所得税額から、住宅借入金の年末残高に基づく一定額が控除されます(租税特別措置法41条)。
2. 居住用財産譲渡に係る特例の適用を受けた場合の、住宅ローン特別控除の不適用
個人が、新規家屋の居住年の前年または前々年分の所得税につき、3,000万円控除または、居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の軽減税率の特例(租税特別措置法31条の3)等の居住用財産の譲渡に係る特例の適用を受けている場合、その個人の新規住宅の居住年以後10年間(原則)の各年分の所得税については、住宅ローン特別控除の適用を受けることができません(同法41条20項)(図表参照)。
3. 設例に基づく 3,000万円控除から住宅ローン特別控除への特例選択の変更の可否の解説
前述2.より、新規住宅への居住年の前年または前々年分の所得税につき、3,000万円控除の適用を受けている場合は、その居住年以降の所得税につき住宅ローン特別控除の適用を受けることができません。では、既に適用を受けた3,000万円控除の適用を撤回することで住宅ローン特別控除の適用を受けることは可能でしょうか。この疑問点について、次頁の設例に基づいて検討したいと思います。
【質問】
Bさんは、令和元年12月末にそれまで居住していた東京都練馬区内の戸建住宅とその敷地を譲渡し、同月末に購入した新宿区内の分譲マンション(購入資金は銀行借入金により調達)に令和2年1月に引越し、居住を開始しました。
Bさんは、譲渡した戸建て住宅とその敷地について譲渡益が生じ、かつ適用要件を満たしていることから、令和元年分の所得税の確定申告書を提出し、譲渡所得の計算上3,000万円控除の適用を受けました(確定申告書は適法に提出され、そこに記載された税額に不足はありません)。ところが、Bさんが確定申告書の提出後に検討したところ、令和元年の戸建住宅の譲渡につき3,000万円控除の適用を受けず、令和2年以後の各年分について新宿区のマンションに係る住宅ローン特別控除の適用を受けたほうが、所得税の総額の負担が少なくなることがわかりました。
Bさんは、令和元年分の所得税の修正申告をすることで3,000万円控除の適用を撤回し、令和2年以後の年分について、新宿区のマンションに係る住宅ローン特別控除の適用を受けたいと考えていますが、可能でしょうか。
【回答】
納税申告書を提出した者は、先の納税申告書の提出により納付すべきものとしてこれに記載した税額に不足額がある場合は、その申告につき更正があるまでは、その申告に係る課税標準等または税額等を修正する納税申告書を税務署長に提出できます(国税通則法19条1項1号)。
Bさんが住宅ローン特別控除の適用を受けるため、令和元年分の所得税について修正申告書の提出により3,000万円控除の適用を撤回できるかどうかについては、Bさんがいったん3,000万円控除の適用を受けることを選択して令和元年分の確定申告書を提出した以上、その適用を撤回することはできません(参考:国税庁HP質疑応答事例「居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例の適用の撤回の可否」)。また、令和元年分の確定申告書に記載された税額に不足がないことから、Bさんは、そもそも上記の事由による修正申告書を提出することもできません。
以上により、Bさんは令和2年分以後の年分の所得税について、住宅ローン特別控除の適用を受けることができません。
今回のポイント
- 上記3の設例のように、3,000万円控除の適用を受けるよりも住宅ローン特別控除の適用を受けたほうが所得税の総額の負担が少なくなる場合であっても、既にその前年において3,000万円控除の適用を受けてしまうと、これを撤回して住宅ローン特別控除の適用を受けることができない。年をまたいで従前住宅の譲渡と住宅の新築または取得を行う場合には、3,000万円控除と住宅ローン特別控除のどちらの適用を受けるほうが所得税の負担が少なくなるかのシミュレーションが不可欠。
税理士法人タクトコンサルティング
情報企画部部長 税理士
山崎 信義
1993年税理士試験合格。2001年タクトコンサルティング入社。相続、譲渡、事業承継から企業組織再編まで、資産税を機軸にコンサルティングを行う。東京商工会議所「事業承継の実態に関する調査研究会」委員(2014年)等歴任。著書に『ポイント整理 不動産組替えの税務Q&A』(2016年1月、大蔵財務協会)など多数。