まちの紹介
2023.05.12

空き家活用で活気が生まれた恵み多き宝の島
広島の島しょ部探訪記①
~江田島市~


依然、深刻化を極める空き家問題。
加えて人口減少、過疎化など、私たちが抱える問題はゆゆしき状況に変わりません。
そのような中、「空き家を住居として活用する」といった概念を取り払い、その幅を広げた活動をしているのが広島県・江田島市です。
さらにこの活動は現在、希薄となったといわれている人と人とのつながりも生み出しているといいます。
詳細を担当者に伺いました。

産業の偏りで生じた若者の転出現象

瀬戸内に浮かぶ江田島、能美島とその周辺の島々で構成される江田島市。この地域は、古くから日本有数のカキの産地、造船業が盛んな地として知られ、菊やカーネーション、みかん、ネーブル等、柑橘類の産地としても名を馳せています。平成28年からは、温暖で降水量の少ない瀬戸内特有の気候を活かしたオリーブ栽培にも力を入れ、現在では生産高も全国上位を誇ります。

恵まれた自然環境から様々な産業が生まれた江田島市ですが、近年は若者の転出が続き、ある問題に頭を悩ませていると江田島市企画部政策推進課の川上建司氏(以降:川上氏)は話します。「人口は年間500人ペースで減少しているのが現状で、今後もこの傾向は続くといわれています。理由は仕事です。仕事が第一次産業に偏っていたこともあり、若者たちが仕事を求めて都市部に転出する傾向が続いています。また、近年の転出超過は空き家の増加にもつながっています。その率は県内でも高く、現時点で1800戸ほどの空き家があります」。

ただ、“完全な空き家”が少ないのも江田島市の特徴で、企画部企画振興課の吉田大輔氏は「市民の転出先は広島市が多いのですが、広島市には車で1時間もあれば行き来できます。そのため、夏季休暇、年末年始は江田島の実家で過ごすという方が多くいます。今年も空き家の所有者向けに、空き家バンクの登録を促す通知をしていますが、登録の意向を示してくれる方は1/4ほどしかいません。残りの3/4は現状のままで、利用するから登録しないという回答がほとんどです」。

江田島市で生まれ育った川上氏は、親戚などが集まる拠り所として、実家を残す気持ちも理解できるとしながら「放置すれば老朽化が進んで、住めなくなってしまいます。空き家の数は数字だけ見ていればどんどん増えています。だからこそ、利活用を推進するために企業誘致に力を入れたのです」と話します。

江田島市と広島市、呉市とを結ぶフェリー
江田島市と広島市、呉市とを結ぶフェリーは頻繁に運行しているため、都市部に勤務する人が多い。

図表1 江田島市の人口増減(令和5年4月1日)

江田島市の人口増減(令和5年4月1日)
江田島市の人口は20,955人(うち外国人市民765人)。外国人市民はコロナ禍により大幅に減少したが、入国緩和により再び増加傾向にある。

空き家活用で生まれた人と人とのつながり

江田島市は数年前から、広島県と連携して企業のオフィス誘致をしています。市はオフィス開設のための候補地の選定や、場所の提供、空き家の確保等を行い、現在では広告運用、アプリ開発、WebデザインといったIT関連企業のほか、クラフトビール製造など様々な業種の企業が進出しています。川上氏は「企業誘致といえば、工場の建設などをイメージしがちですが、市には広大な土地もなく、流通面でも厳しい現状がありました。そのため、目を向けたのが空き家でした。空き家を企業に活用してもらうことで、移住も促進できる。また、これまで江田島市になかった業種の企業が進出することで、産業を起こす可能性も生まれます。ただ、企業誘致が、新たな人と人とのつながりをもたらしたことには正直、驚いています」。

ことの詳細を伺うと、江田島市に進出した企業の人たちが、地元農家にブランディングの提案や島の特産品のラベルデザイン提案など、自分たちの持つスキルを存分に広めているといいます。これは大人に限らず、子供に対しても行われ、パソコンに興味のある子供たちを対象にプログラミング教室を開催する等、老若男女問わず、新たな交流が生まれているそうです。

この動きは、市が運営するプロジェクト・地域おこし協力隊からも派生しています。それが蛇草孝介氏(以降:蛇草氏)の手掛けた「KirikushiCoastal Village」です。「ただ住むだけではなく、遊ぶ部屋やお店等、いろいろな活用ができる空間を目指しました。これが江田島市の空き家活用のひとつの事例になればうれしいですね」と蛇草氏は話します。その言葉が示すように「Kirikushi CoastalVillage」には、多種多様な業態の店舗が入居するほか、1階イベントスペースは、様々な人たちが集まる憩いの場として利用されています。蛇草氏が開催するイベント時には子供たちも企画出しやディスカッションに参加しているそうです。「少しでも多くの職に触れて、イベント開催を通して皆で話し合うことで、子供の将来にプラスになればいい、そう思っています」と話します。

取材冒頭で「江田島市にはどこか閉塞的な雰囲気が漂っていた」と話していた川上氏。ただ、この数年間の江田島市の取り組みによって、島の雰囲気は確実に変わりつつあると最後に語っています。また、空き家活用がもたらした、人と人との新たなつながりは、未来を担う子供たちの夢の醸成にもひと役買っているといえます。

図表2 江田島市への移住者の推移

江田島市への移住者の推移
江田島市の取り組みとともに、リモートワークの普及などによって、若者の移住も増えているという。

初の複合施設 「Kirikushi Coastal Village」

老朽化の進む古民家が人々の集うハブに

広島市や呉市への通勤者が多く住む、江田島町切串エリアの空き家をリノベーションして完成した「Kirikushi CoastalVillage」(令和4年8月21日オープン)。カフェやシェアキッチン、テナントスペースを備える複合施設で、テナントスペースは6部屋。現在サイクルショップやエステサロンのほか、5店舗の出店が決まっている。運営する蛇草氏は「宿泊スペースも完成し、敷地内の畑の活用にも取り組みたい」と話す。オープン初日のイベントには多くの人が来場し、にぎわった。

古民家の改修にはクラウドファンディングで資金を集めた。
古民家の改修にはクラウドファンディングで資金を集めた。
近隣の小学校の子供たちが描いた複合施設の看板。
近隣の小学校の子供たちが描いた複合施設の看板。
人々の憩いのスペースだけでなく、子供を対象としたプログラミング教室等の場としても活用。
人々の憩いのスペースだけでなく、子供を対象としたプログラミング教室等の場としても活用。