まちの紹介
2020.10.14

今、注目のまち Vol.5 宇都宮市[栃木県]


LRTによる好循環型社会で住み続けられるまちへ

北関東第一の都市である宇都宮市の人口は約50万人。これまで新幹線も停車するJR宇都宮駅の西口エリアを中心に発展してきましたが、近年は反対の東口エリアに大きな注目が集まっています。

宇都宮駅東口(2020年8月)

ネットワーク型コンパクトシティの形成

今回は、今年10月に開催予定だった全国不動産会議栃木県大会が新型コロナウイルス感染拡大で中止になったことで、来賓として挨拶いただく予定だった佐藤栄一宇都宮市長と、総合政策部駅東口整備室の手塚直毅室長、建設部矢野公久次長が取材に応じてくれました。

宇都宮市は、2018年3月に策定した第6次宇都宮市総合計画のもと、土地利用の適正化とにぎわいを創出する拠点の促進、拠点間における機能連携の強化に取り組んでいます。佐藤市長は「50年先を見据えた都市、これからの人口規模・構造や都市活動に見合った都市の姿として『ネットワーク型コンパクトシティ(連携・集約型都市)』の形成を目指している」とし、特に力を入れている宇都宮駅東口地区整備事業とLRT(次世代型路面電車)整備事業について話しました。

佐藤栄一宇都宮市長
手塚直毅総合政策部駅東口整備室長
矢野公久建設部次長

宇都宮駅東口地区整備事業の進捗状況

宇都宮駅東口地区整備事業においては、1995年度と1998年度に日本国有鉄道清算事業団から操車場跡地を取得し、2005年度から土地区画整理事業により現在の駅前広場などの基盤整備に取り組み、2008年度には、土地区画整理事業の換地処分が行われました。その後、2018年度には、野村不動産株式会社を代表企業とする「うつのみやシンフォニー」を事業者として、事業契約を締結し、現在は、公民連携(PPP)でコンベンション施設を核とする複合開発を進めています。

具体的には、宇都宮駅東口地区の市有地約2.3haにコンベンション施設や交流広場、自転車駐車場などの公共施設、ホテルや飲食店などが入る2つの複合施設、高度専門病院、分譲マンションなどの民間施設を整備する計画となっています(図表1・2)。2020年8月時点で完成しているのは自転車駐車場のみですが、今後は、各施設の工事が本格的に進められ、2022年度には、ほとんどの施設が供用開始となる予定です。佐藤市長は、「民間事業者からの借地料や固定資産税等を得ることで、市の財政に負担をかけない仕組みとなっている」と言います。

また、同時に整備が進められているLRTの開業は2022年を予定しています。

図表1 施設概要

出典:宇都宮市「宇都宮駅東口地区整備事業の概要について」

図表2 施設全体完成イメージ

出典:宇都宮市「宇都宮駅東口地区整備事業 施設全体概要」

LRTの開業で何が変わるのか

LRT導入による渋滞緩和への地元の期待はとても大きいものがあります。現在、JR宇都宮駅から鬼怒川を渡ったエリアには、国内最大級の内陸型工業団地である清原工業団地、その先の芳賀町には本田技研工業株式会社の拠点があり、朝夕はマイカー通勤による混雑が慢性化しているからです。LRTはこのルートを走るよう設計され、駅東口から複合商業施設「ベルモール」付近や、ニュータウンの「ゆいの杜」などを通過し、本田技研工業北門まで14.6km、19カ所の停留場が設けられます。

市が掲げているLRT導入の目的は「公共交通と車を上手に使い分けながら、便利に暮らせるまちを目指す」ことです。 LRTは現在駅東側に展開していますが、さらに駅西側方面に伸ばし、市内を南北に走る東武宇都宮線、JR線と連携させる形で東西方向の市内交通の軸とする方針です。そのため、要所となる一部の停留場は自転車駐車場、駐車場、バス・地域内交通乗降場などを有するトランジットセンター(乗り換え拠点)となることも検討しています。

LRT車両イメージ
ベルモール周辺の住宅街

(仮称)本田技研北門停留場イメージ

出典:宇都宮市

住宅街や学校の人気度も変化する!?

LRTの計画は沿線の住宅事情にも大きく影響を与えています。清原工業団地近くに造成された「ゆいの杜」はよい例で、造成当初は空きが目立っていたといいますが、LRTの計画が決まると人気が上昇。若いファミリー層の入居で近くの小学校の児童数が急激に増え、市内でも屈指のマンモス校になりました。これに対応するため、来年度から新たな小学校が開校し、その新設校も近い将来1学年5クラスというマンモス校になるといいます。

同じく沿線にある県立宇都宮清陵高校も、LRTにより公共交通機関で通いやすい公立高校になるため、注目度が上がるのではないかという声もあるほどです。

ラッシュ時は6分間隔で運行予定

沿線住民やそこに通勤通学する人の大きな期待を担うLRTだけに、輸送能力と快適性も気になるところです。建設部の矢野次長によれば、「車両は軌道運転規則上最長となる全長約30mの3両1編成。これを17編成活用しながら、ピーク時は6分間隔、オフピーク時でも10分間隔で運行」とのこと。乗車運賃の支払いはJR東日本が提供しているSuicaの乗車券・電子マネー機能を備えた「地域連携ICカード」を利用することで、市内の各交通網を1枚のICカードで乗り降りできる体制も整えています(図表3)。

図表3 地域連携ICカード導入のイメージ

出典:宇都宮市

なお、停留場にはデジタルサイネージ(電子表示板)で地域の特徴や交通、飲食店情報の検索などにも対応させる予定。そこで得たデータを蓄積し、活用してもらうことで、市内商業活動の活性化につなげてほしいとの話もありました。

最後に、佐藤市長は宇都宮のまちづくりの展望についてこう述べました。「市の全域はLRTや鉄道などを使い、身近なところは地域内交通、少し離れたところにはバスを利用することで、どこに住んでいてもマイカーに頼らず、歩いて日常生活を送れるようにする。そうすると、健康寿命が延び、医療費も抑制され、より住みやすいまちになります。それで全国から人や企業が集まり、その人たちが家や土地を取得していつまでも住み続ければ税収が安定し、消費が生まれます。このような好循環型社会を作るためにもLRTを中心とする公共交通を整備し、ネットワーク型コンパクトシティを早急に作っていきます。宇都宮市はこれからの超高齢化、少子化社会においても持続的に発展できるまちを目指します」。

宇都宮市役所

取材協力:宇都宮市

Interview

地方本部長からひとこと

稲川 知法氏

栃木県本部長

稲川 知法氏

第56回全国不動産会議栃木県大会中止は、大変残念な結果であり、準備を進めてまいりました役員、また全国の皆様のご来場を心待ちしておりました県本部の会員一同に対しまして、この誌面にてお詫び申し上げます。

私たち「坂東武者(ばんどうむしゃ)」の末裔は、下野国(しもつけのくに)を400年にわたり凌駕してきた「宇都宮氏」を、尊敬の眼差しと、畏敬の念にて顧みております。全国の皆様に、その歴史ある姿の一端を知っていただき、新生「宇都宮市」をご散策いただけますと幸いです。これからも、「下野国、宇都宮氏」の末裔として恥じぬよう、心して新規開拓を進めてまいりますので、ぜひともご期待ください。

宇都宮市に詳しい方にうかがいました

東口開発を見据えた事業拠点に

菱沼 建之氏

ウィシュランド株式会社
代表取締役

菱沼 建之氏

ウィシュランド株式会社
栃木県宇都宮市宿郷5丁目15番12号
TEL:028-651-0555 FAX:028-651-0666
営業時間/9:00~18:00 定休日/無休

弊社は5年前に起業したまだ若い会社です。「B to B」の宅地分譲(土地売買)をメーンにしているため、一般のお客様と直接接する機会は少ないですが、私は宇都宮で生まれ育ち、会社も自宅も駅東口なので、まちの移り変わりを直接肌で感じています。そもそも、駅東口に拠点を構えたのも、東口整備事業やLRTなど、開発が進むと感じてのことでした。実際、この事業により東口周辺の土地はどんどん値上がりし、1坪200万円を超える売買事例も出てきました。

ただ、東口の物件、特に土地の分譲には限りがあります。他地域も含め、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、地主さんと会う機会が減っています。そんななか、弊社としては、古い木造建築の賃貸物件を買い、家賃収入で返済をしていき、そして大規模修繕のタイミングで更地にして再活用を目指すということも行っております。

ウィシュランド株式会社