まちの紹介
2020.04.13

今、注目のまち – Vol.3 那覇市(なはし)[沖縄県]


「なはで暮らし、働き、育てる」
住みたい人が住める
当たり前の地域を目指して

日本有数のリゾート地として国内外問わず多くの観光客が訪れる那覇市。同市は2021年に「市制施行100周年」を控え、より住みやすい都市を目指して、大きく生まれ変わろうとしています。

玄関口となるゆいレールの「那覇空港」駅
玄関口となるゆいレールの「那覇空港」駅

迅速な環境整備が外国人観光客の増加に

那覇市を訪れる外国人観光客の数は2018年に約237万人を記録し、10年前と比較すると約10倍になっています。その背景には2014年の那覇クルーズターミナルの開港があり、空と海に玄関口を有する都市となり海外からのアクセスがよくなったことが挙げられますが、どうやらそれだけではないようです。

那覇市ではインバウンドの風潮が強まる中、「外国人観光客に快適に過ごしてもらいたい」との気持ちで、2012年度より公衆無線LANの整備を進め、市内主要観光地において無料でWi-Fiを利用できる環境を提供しています。観光に関しては、英語、中国語、韓国語に対応可能な人材を観光協会が運営する観光案内所に配置し、市内の観光案内板や各種パンフレットなどの多言語対応にいち早く取り組んできました。また那覇市では、観光客だけにとどまらず、外国人居住者の数も年々増加していることから(図表1)、市庁舎を訪れた外国人居住希望者がいつでも相談できるように、庁舎内の総合案内に多言語(英語、中国語、韓国語等)を話せる人員を配置しています。市の担当職員は「文化の違いがあるので当然問題も発生しています。ただ、多くの外国人観光客が訪れていることで官民ともに受け入れの環境整備が進み、本市に居住する外国人の方々にとっても過ごしやすい環境が整えられてきていると思います」と話しています。そして今後も増加が見込まれることから、これまで担当部署、関係機関および関係団体が連携して行っていた取組みを2020年度からは専門部署を設けて対応する予定です。

図表1 那覇市の外国人居住者数の推移

図表1 那覇市の外国人居住者数の推移
出典:総務省「【外国人住民】平成28~31年住民基本台帳人口(市区町村別)」
市民、特徴的な外観の那覇市役所
特徴的な外観の那覇市役所
観光客の交通を支えるゆいレール
観光客の交通を支えるゆいレール

他市への転出により那覇市の人口が減少

報道により沖縄県の人口増加が顕著であることは知られていますが、那覇市に関しては例外のようです。市の職員によると「沖縄県の本土復帰(1972年)前から那覇市の人口は増加しており、1990年ごろに一度ピークを迎えた後、減少局面を迎えました。しかしその後、米軍の住宅地区が返還され、新都心と呼ばれる地域が整備されたことにより、2005年ごろから再び増加しています。ただ今後は人口減少の加速が予想され、その傾向は推計よりも早いと考えています」(図表2)。理由は「那覇市から他市への転出数は若干の上下はあるものの、本市への転入数は逓減傾向にあるからです」とのこと。人口減少については市の職員だけではなく、市民も問題視しており、地元で不動産業を営む有限会社スタプランニング代表の赤嶺剛氏は「確かに沖縄県の人口自体は増えていますが、那覇市の人口は徐々に減少してい るのが現状。それは那覇市に住んでいる人たちが他の市に流出しているからではないか」と言います。なぜこのような現象が起こるかというと、近年見られる那覇市の地価と家賃(図表3)が、周辺の市と比べて上昇していることが原因のようです。

図表2 地区別人口推移と本市独自推計による将来人口

図表2 地区別人口推移と本市独自推計による将来人口
出典:「那覇市まち・ひと・しごと創生総合戦略」平成28年3月

図表3 那覇市各エリアと他市の家賃相場の比較

 図表3 那覇市各エリアと他市の家賃相場の比較
出典:「おきぎん賃料動向ネットワーク調査(2016年、2018年)」を基に那覇市で作成。

公示地価と家賃が高騰する理由とは

那覇市は2013年から7年連続で公示地価が上昇し、最新の基準地価上昇率によると全国で2位となっています。市民と観光客の足を支えるゆいレール沿線のエリアは、多くの商業施設や高層マンションの建設によって都市化が進み、地価や家賃が高く跳ね上がるのも当然といえます。しかしこの現状に苦言を呈しているのが赤嶺氏です。それは、那覇市に住みたい と思っている人、特に30代のファミリー層にとって、家賃が高いため、住むことを断念せざるを得ない状況にあるそうです。その背景を伺うと「市内に家を建てる土地がないからです。これは第一種低層住居専用地域が多くを占めていることが関係しています。また密集しているエリアが多くあるので開発がなかなか進みません。だから新しい住宅、特に戸建てを建てることができないのです。観光の力で那覇市は繁栄し、地価や家賃の高騰という現象は起きていますが、一方で、新たに家を建てる土地がないのです。今後は空中権の考え方を踏まえて、上に居住エリアを作っていくしかないので、いま那覇市では高層マンションの数が増えているのです。人口流出を防ぐためにはワンルームではなく、ファミリーが住める2LDK、3LDKクラスの住居が必要です」(赤嶺氏)。

また、第一種低層住居専用地域が多く残ることで独居老人が増加し、結果的には空き家問題にもつながっていくと言います。那覇市が抱える住宅課題に、赤嶺氏は都市開発の見直しを目的に県や市、不動産コンベンション協議会等、多くの場に足を運んで問題提起しています。

地価変動率+27.30%を記録した「国際通り」周辺
地価変動率+27.30%を記録した「国際通り」周辺
牧志駅エリアは高層マンションが立ち並ぶ
牧志駅エリアは高層マンションが立ち並ぶ
ビジネス街の久茂地エリアには、ホテルが密集
ビジネス街の久茂地エリアには、ホテルが密集
那覇新都心のおもろまち駅付近は商業ビルが並ぶ
那覇新都心のおもろまち駅付近は商業ビルが並ぶ

首里城の火災でより強く芽生えた気持ち

人口減少および那覇市が抱える住宅問題は、市と住民とが理解を深めながら解決していくことが不可欠といえます。那覇市は2018年に第5次那覇市総合計画を策定しました。基本構想におけるまちづくりの将来像「なはで暮らし、働き、育てよう!笑顔広がる元気なまち NAHA 〜みんなでつなごう市民力〜」を掲げています。市が抱える住宅問題や出産育児など、様々な課題に対し効果的な施策を実施することで、課題解消に努める考えです。また、2021年に「市制施行100周年」、そして次世代の100年を迎えるにあたって、那覇市は大きな転換期を迎えます。

そんな盛り上がりの最中、2019年10月31日、沖縄県のシンボルの首里城が火災に見舞われ、正殿と北殿、南殿などが焼失してしまいました。那覇市は「首里城は県民にとって沖縄の歴史文化の象徴であり、これらを失った喪失感は火災から半年ほどたった今でも埋まるものではありません」と苦しい胸のうちを語りながらも、火災当日に全国各地から電話やメール、電子相談システムによるお見舞いや励ましの言葉とともに、寄付を申し出る声に勇気をもらったと言います。この励ましを受けて、那覇市は募金箱の設置、翌11月1日には首里城再建プロジェクトとしてクラウドファンディングと口座振込による寄付の受付を開始しました。1月23日時点で約13億4,800万円もの寄付金が集まったそうです。このような皆さまの思いを受け、「県民の財産であり、心の拠りどころでもある首里城の一日も早い再建に向け、市としてもできることをしっかりと果たしていきたい」と言います。また、沖縄の歴史をなぞらえながら「激動の時代を歩んできた本市は、先人たちのたゆまぬ努力に想いを馳せ、これまで100年で築き上げた風格を大切にするとともに、これからの100年に向けて確実な一歩が踏み出せるよう、新たな礎を築いていかなければなりません」と力強く語っています。

恵まれた観光資源を糧にめざましい発展を遂げた那覇市。現在、抱えている住宅課題を解決して、徐々に多くの若い世代のファミリー層がより安心して住むことができる街になれば、那覇市が目指す「市民の笑顔が広がる“わったー自慢”のなは、那覇、NAHA」を築くことができる日もそう遠くはないかもしれません。

正殿をはじめ7棟を焼失した首里城
正殿をはじめ7棟を焼失した首里城
龍潭(りゅうたん)池越しに見える首里城の姿もいまはない
龍潭(りゅうたん)池越しに見える首里城の姿もいまはない

Interview

地方本部長からひとこと

土田 英明氏

沖縄県本部長

土田 英明氏

沖縄県は人口の増加率が全国で2番目に高く(2018年)、都市部では住宅の需要が堅調な状態が続いています。また2019年の入域観光客数が初めて1,000万人を超えるなど、国内・外国客ともに増加を続けています。受け皿としてのホテルや宿泊施設の建設も活発で、用途地域としての商業地の地価を飛躍的に押し上げることになりました。物流施設の需要は逼迫(ひっぱく)しており、工業地域の地価上昇に表れています。2020年は那覇空港の第2滑走路の供用が開始し、今後は社会インフラの整備とともに、「沖縄らしい」生活のできる県へと、バランスのとれた発展を願っています。

那覇市に詳しい方にうかがいました

地域ネットワークの活用で言語の壁も解決

赤嶺 剛氏

有限会社
スタプランニング
代表取締役兼営業本部長

赤嶺 剛氏

沖縄県那覇市与儀2丁目7-3
TEL:098‐833‐5519
営業時間 9:00-19:00 
定休日:日曜日、祝日

当社は店舗の設計・施行を行うデザイン事務所としてスタートした会社ですが、その後、建設業、不動産業と仕事の幅を大きく広げて、今では企画から建築物の施工までトータルに業務を行っています。

不動産事業に関していうと、昨年の11月ころから売上は少し下降気味ではありますが、そのような状況の中でも外国のお客様の需要はまだまだあります。特に中国の方が多く、4、5年前から多くの問い合わせをいただいています。現在は保証会社が充実しているので、保証会社が問題ないと判断すれば、躊躇せずに契約を進めます。今のところ特にトラブルは起こっていません。ポイントは、我々の役目である重要事項説明を外国の方にいかにしっかりと行えるかどうかではないでしょうか。当社では、WUB沖縄(WordwideUchinanchu Business Association OKINAWA)のネットワークや、よろず相談所を活用して、通訳・翻訳のできる方を紹介してもらうことで、言葉の壁といった問題をクリアしています。そのような支援や組織を活用することにより人脈も広がり、現在では毎年インターンシップとして2週間ほど海外の方の受け入れも行っています。外国のお客様の中には、言葉が障害となって、「部屋を借りることができなかった」という方も少なからずいます。当社のホームページは、英語、中国語、韓国語にも対応しているので、そのような方からの問い合わせもいただいています。

地元地域に根ざす不動産業者としては、いつまでも地元が活気づいていることを願っています。その一環として、地元の方とまちづくり協議会を立ち上げてお祭りを企画したり、ボランティアとして花壇造りや地域清掃などを行ったりしています。那覇市全体の問題も注視していますが、近くの地域の方と手を取り合って地元を元気にすることも大事なことだと思っています。

有限会社スタプランニング
有限会社スタプランニング