まちの紹介
2021.04.14

今、注目のまち Vol.8 西条市[愛媛県]


移住政策をはじめ「チャレンジを応援する」精神で皆が住みたいまちをめざす

話題の雑誌『田舎暮らしの本』(宝島社)で発表された「住みたい田舎ベストランキング」において、全国1位の座を獲得した愛媛県西条市。数年前まで、田舎まちのひとつだった西条市は今、人気の移住先として注目を集めています。

好評を博す西条流の移住体験ツアー

愛媛県西条市は、西日本最高峰の石鎚山がもたらす名水百選「うちぬき」が各所で湧く「水の都」として有名な地です。瀬戸内海に面し、海、山、人気のアウトドアアクティビティが充実しているほか、四国屈指の農業・工業都市としても知られています。そのほか、四国第1位の合計特殊出生率(1.75)、ICT教育など、就労・子育て環境が整っているのも特徴です。また、市全体が「チャレンジを応援するまち」として、人のつながりを重視したサポートも行っているため、都会から子育て世代を中心とした若い移住者が急増しています。

西条市が移住施策に乗り出したのは、2018年。すでに全国の自治体が移住体験ツアー、単独イベント、お試し住宅などさまざまな施策を打ち出し、周辺エリアでも、移住施策が充実している地域があったなか、西条市は「後発組」でした。では、なぜ人気の移住先となったのでしょうか。それは行政自らが先頭に立って、大胆な移住支援策を行ったことが、真っ先に挙げられる理由でした。この件に関して、西条市は「ネームバリューがある地域でもないので、インパクトのあることをやろうという話があがったんです。当時、現地集合・現地解散の無料移住体験ツアーはよくありましたが、都心からの交通費も含めて全て無料で実施しますというツアーはありませんでした。であるなら1回挑戦してみようと。もしこの施策がうまくいかなかったら、違う施策を模索すればいいという気持ちで、思い切って開始したのが始まりでした」と話します。そして発案されたのが、西条市までの交通費や、宿泊費、食事代など、すべての費用を市が負担する無料の「移住体験ツアー」でした。加えて、特筆すべき魅力が参加者ひと組ごとのリクエストに応えて内容をカスタマイズする完全オーダーメイド型のツアーであるということです。例えば、まず職員が参加者を空港へ迎えに行き、西条市を案内。地元の人との食事や児童クラブを見学したり、先輩移住者が営業しているカフェにお邪魔して、交流を図るなどします。参加者に就職を希望する人がいれば、事前にヒアリングをして、市内の会社を訪問することも可能です。重要なのは市内の名所を案内するのではなく、参加者が地元の人とのつながりをつくることだといいます。この「移住体験ツアー」の効果もあり、西条市への移住者は毎年増加しています(図表1)。

図表1 西条市 移住者の推移

西条市 移住者の推移

※ 40歳代以下(50再未満)の若い世代が7割以上を占める

移住したツアー参加家族
移住したツアー参加家族
至るところで見られる「うちぬき」
至るところで見られる「うちぬき」

ツアー中止もオンライン相談は増加

西条市の移住体験ツアーに込められたコンセプトは「人をつなぐ」こと。そこで大切になってくるのが、参加者と地元の人をつなぐために、地元の人たちにその受け皿となってもらうことでした。そのためのネットワークづくりの作業に労を費やしたと、後に西条市は話しています。では、どのように地元の人たちとの関係を築いていったのでしょうか。それは担当者たちが、常日頃ごろから住民のところに行き、何回も顔を合わせて、ツアーの内容を説明。この施策を市全体で行えば、最終的に人口維持や子どもたちを守ることにつながることを伝え、理解を得ていったといいます。最初は半信半疑の人も多かったのですが、実際にツアーに参加した人たちが移住してくると、自分のことのように喜ぶ人が増えていったそうです。コロナ禍により、移住相談会や体験ツアーなど対面式のイベントが制限される状況にあっても、オンラインによる説明会を開催することで相談件数は昨年度の5倍に増加したといいます。また、数多くのメディアが西条市を人気の移住先として報じていることもあり、その噂を聞きつけた移住希望者が、市内の不動産事業者に相談するといったケースも増えているようです。どうやら西条市の勢いは、しばらくの間止まりそうにありません。

西条まつり(伊曽乃神社祭礼)
西条まつり(伊曽乃神社祭礼)
四国鉄道博物館
四国鉄道博物館

そのほかの主な移住支援

[住宅改修補助金]
・対象:愛媛県外からの移住者
・内容:空き家バンク物件の契約後、改修及び残っている家財道具搬出を行う場合の補助金
・補助金:60歳未満世帯 最大220万円(2/3補助) 中学生以下の子どもがいる世帯 最大420万円(2/3補助)
→6件の利用実績あり(2021年2月15日現在)

[移住支援金]
東京都23区内に5年以上在住及び通勤している者が、西条市へ移住し、一定の要件を満たす西条市内の中小企業に就職すれば、最大100万円の補助(対象者拡大予定)
単身者 60万円補助 家族世帯 100万円補助

[起業型地域おこし協力隊]
地域でのパートナーとなる住民や企業、行政との協働を図りながらプロジェクトに取組み、3年以内の起業実現と定住を目指す。最大200万円/年が報酬として支給され、さらに最大200万円/年が活動経費や起業支援に活用される(最長3年間)

Interview

今、注目のまち-愛媛県西条市で事業を営む会員に話を聞きました。

「これからも利益の追求より人のためになることを率先したい」

株式会社タイキハウジング 代表取締役
岡村 美鈴氏

家族、協会の後押しで開業することを決意

―会社を設立した経緯をお話しください。

昔から住まいに興味があったので、子育てが一段落した後に、ハウスメーカーでアドバイザーの仕事を始めたのです。それまで不動産業界の仕事とは無縁の生活を送っていたものですから、宅建の資格があることも職場で初めて知って(笑)。同僚から宅建の話を聞いていくうちに資格取得への意識も高まり、受験することにしたのです。そうしたら合格して。でも、そのときは、主人が経営している会社の手伝いもしていたので、何ら変わらない生活を送っていました。それから2年くらいたった頃だと思います。家族から「せっかく資格を取ったのだから仕事に活かした方がいい」と言われて、以前から仕事を通じて人の役に立ちたいと思っていたこともあり、平成29年5月に主人の会社に不動産事業部を立ち上げて開業しました。その後4年間、実務経験を積んで、経営も安定してきたので今後の企業拡大を見据えて、令和2年4月に分社化という形でタイキハウジングを設立したのです。事業種目は、土地・建物、賃貸物件、事業用物件の賃貸・売買の仲介をメインに、住宅ローンをはじめ税金や相続の相談などを行っています。

―手広く事業を展開していますね。

住宅ローンや相続、税金の相談に関しては、紹介という形でサポートしているといったほうが正しいかもしれません。当社のお客様は相続物件を抱えている人が多いため、相続や税金の相談を受けるケースが多く、最近では取引のあるお客様からの紹介で新規の方の相談を受けることも少なくありません。当然、私が専門的な内容に触れることはできませんから、話を聞いて、ある程度説明させていただいてから「専門家を紹介しましょうか」と導いていく流れで行っています。

ほかの人からしたら「そこに利益があるのか」と思うかもしれませんが、正直なところ利益追求よりも人の役に立ちたいという想いで開業した経緯があるのでその気持ちは持ち続けたいと思っています。名刺に書かせていただいているとおり「お客様の笑顔のために」という気持ちを第一にしたいです。

―岡村さんのそのスタンスが、新しいつながりを築いているのでしょうね。

そうだとうれしいです。でも地元の人とそのような関係を築けるようになったのも、家族、協会をはじめ、さまざまな人が私を支えてくれたからだと感じています。開業から2年くらいは、毎日が勉強の連続でした。接客時、頭では理解しているつもりなのに、それをお客様にうまく伝えることができず、予想しなかったことを質問されて躊躇したことも多々ありました。その都度、協会の人たちに相談に乗ってもらい、頭の中をクリアにして接客。その積み重ねを経て、今では多くのお客様から信頼を得られるようになりました。

ボランティアでも実施したい高齢者のための終活

―西条市はいろいろなメディアから取り上げられ、注目を集めていますね。

一番驚いているのは地元の人たちだと思います(笑)。私もインターネットやさまざまなメディアで「移住したいまち西条」という文字を見るようになったのが1年ほど前のことでしたから。自治体が積極的に若者に対して、情報発信しているようですし、その中でも手厚い補助金制度があることも子育て世代をはじめとした田舎暮らしに憧れる人たちの背中を押しているのだと思います。西条には造船をはじめ多くの工場や農業地帯も広がっていますから、仕事の紹介なども行われているようです。移住しても仕事がなくては本末転倒ですからね。その結果、令和元年には346人の方が移住してきたと聞いています。また、自治体が行うこの移住施策には空き家対策も兼ねているようです。

―西条市も空き家の増加が目立ちますか。

西条市は県内でも空き家件数が比較的多い地域ではないかと思います。しかし、近年では市の知名度があがったこともあり、会社にも移住希望者からの問い合わせが増えるようになりました。残念ながら現状、私が移住希望者に直接関与することができないので、そのようなときは自治体が行っている移住体験ツアーなどを紹介して、斡旋のお手伝いをしています。

―今後、西条市で事業を営む不動産事業者として、地域との接し方について感じていることはありますか。

以前、市長とお話をする機会があり、西条市(特に旧東予地区)は、小学校25校地区の半数以上にあたる15区が消滅可能性地域であるという話を聞きました。加えて農業をする人たちの承継問題も大きな課題となっていると。ようやく「住みたい街」として注目を浴びるようになってきたのですから、人口減、少子高齢化が進行する状況でも、西条市が一体となって活動していく必要があると感じています。その中で私も不動産事業を通して多くのお手伝いができたらと考えています。

―特に力を入れていきたいこととは何でしょう。

空き家対策です。問い合わせや相談が増えているなか、今後は自治体の取組みを紹介するだけにとどまらず、直接関与できるような体制を作っていきたいと考えています。それと同時に、超高齢者社会といわれているいま、西条でもひとり暮らしの高齢者が増加傾向にあります。認知症対策や相続対策など終活へのアドバイスを、ボランティアでも構わないので身近な人たちから役に立てるよう、積極的に活動していきたいです。そして最後に、これは私の希望になりますが、最近、成人した子どもたちが日ごろの私の業務を見て、相続や税金に対して興味を持ち始め、それに関する資格取得を目指すようになったのです。現在、当社で、窓口相談レベルでとどまっている関連業務を、家族と一緒にひとつ屋根の下で行うことができたらどんなに素晴らしいことだろう。そんな夢を描いています。

女性スタッフだから何でも相談しやすいのではと語る岡村さん
女性スタッフだから何でも相談しやすいのではと語る岡村さん
心の支えにもなっているという相田みつを氏の言葉
心の支えにもなっているという相田みつを氏の言葉

株式会社タイキハウジング

愛媛県西条市喜多川625番地4
TEL/0897-47-0096
FAX/0897-56-6521
営業時間/10:00~18:00
定休日/毎週火曜、祝日、年末年始・夏季休暇

株式会社タイキハウジング

地方本部長からひとこと

上谷 進氏

愛媛県本部長

上谷 進氏

西条市は愛媛県内でも人気の高い街です。西日本最高峰、霊峰石鎚山に守られ、水もおいしく、町も美しく、市民も明るく、そしてなによりも石岡神社、伊曽乃神社例大祭に奉納される江戸時代から300年も続く、あの勇壮で80台あまりもの、豪華絢爛な西条まつりの「だんじり」(屋台ともいう)が有名です。2021年住みたい田舎ベストランキング(㈱宝島社主催)において全部門(総合・若者・子育て・シニア)全国1位を獲得しました。移住するならば西条市をお選びください。