まちの紹介
2021.09.14

リニア開業を機に持続的に発展するまちを目指して
―岐阜県中津川市


リニア中央新幹線の岐阜県駅が整備される地域・中津川市千旦林。
リニア中央新幹線の岐阜県駅が整備される地域・中津川市千旦林。

リニア中央新幹線の開業は、東京-名古屋-大阪という3大都市圏を短時間で結び、人、モノ、情報の活発な交流を生み出し、高度な巨大都市圏を誕生させ、経済活動の効率性が高まると期待されます。そこでこのページでは「リニア開業」を心待ちにしながらまちづくりに着手する、ある都市を紹介していきます。

交通の便向上と同時に産業の活性化にも期待

人口76,695人(2021年7月末現在)、岐阜県南東部に位置し、豊かな自然に囲まれた中核都市・中津川市(岐阜県)。同市はいま、「誰もが住み続けたい、住んでみたいと思うまちづくり」に官民一体となって邁進しています。そのきっかけとなったのが、リニア中央新幹線の中間駅の選定でした。駅が建設されることで首都圏や大阪都市圏と結ばれ、全国各地を短時間で往来できるようになります。これは単に交通の便が良くなるだけではなく、市民の暮らしの幅を広げるとともに、各地との交流を増大させることで、産業が活性化することも意味しています。また、同市は車両基地の建設が決定し、市の知名度アップ、企業・機関の立地促進や雇用の拡大など、期待は大きく膨らんでいるといえます。

そもそも中津川市がリニア中央新幹線の中間駅に選定されたのは、ちょうど10年前の2011年。誘致活動に関して市職員に話を聞くと「市議会が特別委員会を設置し、他の市町村議会や経済団体などとの連携を図りつつ、関係機関への陳情要望活動や懇談会開催など積極的な活動を推進してきました。また、2000年には、市民レベルでの停車駅誘致に取り組む『リニア中央新幹線建設促進中津川市民の会』(現在は『リニア中央新幹線まちづくり推進中津川市民の会』)が設立され、経済界、行政と連携した取り組みが進められてきました」とのこと。加えて「経済界の取り組みとしては、リニア中央新幹線の早期建設と東濃東部への停車駅設置の促進を目的に『東濃東部リニア停車駅誘致期成同盟会』や、『リニア中央新幹線岐阜東濃駅設置促進協議会』が設置され、東濃地域全体が一体となり、リニアの早期建設と東濃地域に停車駅の設置を促進する運動が進められました」と話します。ちなみに東濃地域とは、岐阜県南東部の地域を指し、一般に多治見市、土岐市、瑞浪市、恵那市、中津川市がある地域をいいます。中間駅に選定された時のことを聞くと「1県1駅の方針により、県内では当市がその候補地として選定されたことは光栄であり、岐阜県の新たな東の玄関口として、リニアの効果を活かした広域の拠点づくりに取り組んでいきます」と意気込みを語っています。

東山道、中山道、飛騨街道など交通の要衝として栄えた歴史を持つ。
東山道、中山道、飛騨街道など交通の要衝として栄えた歴史を持つ。

市民とイメージを共有しリニア開通後の姿を描く

「リニアのまちづくりを成功させるには、関係団体や地域・地権者の皆様をはじめ、市民一人ひとりのご理解とご協力が不可欠」と話す中津川市。その言葉を裏付けるかのように、広報誌や市のホームページで「夢の実現へリニア中央新幹線」の連載をスタートさせています。これは、リニア中央新幹線の計画概要やリニアを活用したまちづくりの取り組みなどの情報を市民に伝えるために作られたもので、中間駅に中津川市が選定されるより前の2010年2月に、記念すべき1回目が掲載されています(2021年7月13日時点で、101回)。その中には、「魅力ある駅周辺整備を探る」といった記事を企画し、九州新幹線「筑後船小屋駅」「新鳥栖駅」、北陸新幹線「糸魚川駅」、上越新幹線「本庄早稲田駅」、北陸新幹線「飯山駅」のまちづくり記事を掲載。理由を聞くと、「リニア岐阜県駅(仮称)周辺のまちづくりをどのように進めていくか検討していく中で、市民の皆様にも駅や駅周辺整備についてイメージしていただくために、各地の新幹線駅を活用したまちづくりを紹介させていただきました」と答えています。

長期的ビジョンを掲げ市民とつくる魅力あるまち

2013年には、「中津川市リニアのまちづくりビジョン」を策定。この件に関して同市は、人口減少、少子高齢化という厳しい時代を迎えるなか、千載一遇のチャンスであるリニア開業をまちづくりに活かし、持続的に発展する中津川市をつくっていかなくてはならない。また、『1県1駅』の方針のもと、駅が立地するまちとして、リニアの波及効果を県全域はもとより県境を越えた周辺地域に行き渡らせる広域的な役割がある」と答えています。そのため、リニア時代を見据えたまちづくりの考え方や施策の方向性を示し、官民一体となった取り組みを進めることを目的に市民、経済界、国・県などの各界各層の参画を得て、本ビジョンを策定したといいます。そして、リニアの波及効果をいかすための取組みは多岐にわたりますが、効果を高めるには個々の政策を単独で展開するのではなく、戦略的に結びつけることが大切であると。そのため、先行的、優先的に進める施策をパッケージ化し、「市民みんなで取り組む重点プロジェクト」【図1】と位置づけ、市民一丸となって取組みを進めています。

【図1】 中津川市が掲げる「市民みんなで取り組む重点プロジェクト」

「市民みんなで取り組む重点プロジェクト」
※「中津川市リニアのまちづくりビジョン」を元に作成

プロジェクト①~③では交流の促進により地域活性化の観点から「体験・滞在型観光の推進」「多様な機能の誘致」「移住・定住、二拠点生活の促進」を、④では新たな地域資源を活用するという観点から「車両基地の活用」、⑤ではシンボルとなる駅を作るという観点から豊かな自然や景観に恵まれた「癒しの駅前づくり」がプロジェクトの指針となっています。

すでに進められている取組みは、開業効果などを見極めながら段階的に進めるとともに、将来にわたって中津川市の魅力や暮らしやすさを高めていけるよう50年、100年と長期的に取り組んでいくそうです。東京と大阪のほぼ中間に位置する中津川市。壮大なビジョンのもとつくられるまちづくりによって、どのような姿に中津川市は生まれ変わるのか。今から楽しみが尽きません。