まちの紹介
2020.05.13

外国人にやさしいまち Vol.3 白馬村[長野県北安曇郡]

外国人にやさしいまち Vol.3 白馬村[長野県北安曇郡]

「外国人との共生」と
「世界水準の観光地」を目指して

白馬村地図

明治後期に伝わった登山と、大正の初めのスキーの普及から始まった観光地・白馬の歴史。以降、国内のスキーブームや冬季五輪を経て、白馬村は「HAKUBA」として世界有数のリゾート地へと変貌しています。しかしその裏には、国際化の流れに柔軟に対応する地域の人々の存在がありました。

JR 白馬駅に隣接されている足湯
JR 白馬駅に隣接されている足湯

民宿発祥の地として 繁栄していった白馬村

白馬村の観光の歴史は古く、明治40 年に白馬岳山中に山小屋が建てられたことが発端とされています。その数年後、白馬村にスキーが伝わると、スキー講習や大会が開催され、大正初期にはスキー小屋が建設されます。すると白馬村に多くの人々が訪れ、昭和12年に16の施設が宿泊許可を申請し、日本初となる「民宿」をスタートさせました。やがて昭和30年代に入るとスキー場の開発が始まり、同年代半ばを迎えるころには、宿泊施設の数が235軒まで増加。昭和40年代の登山ブーム、昭和50年代のペンションブームの到来を経て、平成初期にはスキーと山岳観光は全盛期を迎えることになります。しかしそれ以降、スキー客の数は減少。詳細を白馬村役場観光課長の太田雄介氏に聞くと「平成6年は全体で380万人超の観光客が訪れていましたが、スキー客に関していえば平成3年の280万人をピークに下降線をたどっています。直近の平成31年を見ると全体の利用客は240万人、スキー客は100万人を割るようになりました」とのこと(図表1)。

図表1 目的別観光客数推計

図表1 目的別観光客数推計
出典:白馬村役場

しかし平成初期の観光客はスキー需要が多く、その後観光客は減少するものの、平成16年を境にスキー需要以外の一般観光客が増加しています。この現象に太田氏は「冬季だけに頼らない通年型の観光地として皆がプロモーションに力を入れてきた結果では」と語り、要因のひとつに「通年の外国人観光客の増加」を挙げています。

冬季五輪の開催を契機に外国人観光客誘致活動へ

白馬村を訪れる外国人観光客は毎年増加傾向にあり、宿泊者数を見ると平成30年には16万4,377人を記録し、平成17年の2万1,216人と比較すると8倍近く増加しています。また、世界各国、特にオーストラリアからの観光客が多く訪れていることも白馬村の特徴です(図表2)。

図表2 平成30年 外国人宿泊者数調査

1.調査概要
(1)期 間:平成30年1月1日~平成30年12月31日(2018年)
(2)項 目:村内の宿泊施設を利用した外国人客の延べ宿泊者数(国別、月別)
(3)対 象:村内の宿泊施設

図表2 平成30年 外国人宿泊者数調査
出典:白馬村役場

その経緯を聞くと「平成10年に開催された冬季五輪の開催が大きなきっかけでした。翌年には日本政府観光局と連携してアメリカからのスキーツアー客の誘致や、地元の有志たちが白馬村インバウンド推進協議会を設立し、韓国からのスキー客誘致を行いました。平成12年には韓国のソウルで白馬村ソウル事務所を設立し、現地スタッフを雇用して、ホームページの作成、エージェント訪問などプロモーションを行いました。振り返ってみれば、これが外国人誘致活動の始まりです。その後、同じようにオーストラリア、北欧、北米へと誘致の場を 広めていったのです」(太田氏)。オーストラリア、北欧、北米への誘致活動は、平成16年に結成された行政と民間でできた組織の白馬村観光局が中心になって、平成25年ごろから本格的に始動。現地旅行博などのイベントへ出向いてのプロモーション活動や、旅行代理店を回って交渉してきたそうです。その結果、アジア圏のみならず、オセアニア地区からの観光客が増加。団体客よりも多くの個人客が訪れるようになったといいます。この成果に太田氏は、「民間と行政が一体となって誘致活動を行ったからです。海外の交渉は民間に任せ、われわれ行政はWiFi、多言語パンフレット、サイン(標識や案内地図)の設置など外国人観光客を受け入れる環境づくりに徹しました」と語っています。

ウィンタースポーツを安全に楽しむために作成された公式の白馬ルール(英語版)
ウィンタースポーツを安全に楽しむために作成された公式の白馬ルール(英語版)
 ゲレンデに向かう外国人観光客
ゲレンデに向かう外国人観光客
シャトルバスのバスターミナルは大勢の外国人観光客でにぎわう
シャトルバスのバスターミナルは大勢の外国人観光客でにぎわう
村に点在する神社仏閣に興味を示す
村に点在する神社仏閣に興味を示す

外国人観光客誘致成功もさまざまなトラブルが増加

冬季五輪の開催は、外国人観光客誘致以外に村の形成にも変化をもたらしました。白馬村の住宅事情は冬季五輪以降、不景気のあおりも受けて、日本人オーナーが経営していたホテルや店舗、住宅は軒並み閉鎖や廃屋となる状況に。そこで放置されたホテルや店舗、住宅をリノベーションし、維持したのが外国人だったといいます。そのような背景もあり、白馬に居住する外国人が増え、スキー場周辺の和田野地区や山麓地区には多くの外国人居住者がいるといいます。その数は「令和元年12月27日時点、住民基本台帳の登録者数で見ると、白馬村全体で9,464人、そのうち外国籍が1,100人。村の人口の11.6%が外国人居住者になります。12月は736人の人口増加があり、そのうちの715人が外国人です。基本的に12月末に増加のピークを迎え、3月に転出する、そのような傾向が数年前から続いています」(白馬村役場総務課課長補佐兼総務係長の下川浩毅氏)。

以前から白馬村に居住する外国人と地元住民との関係は、地域で多少差があるものの良好だといいます。しかし、外国人観光客に関していえば事情は変わってくるようです。その状況を下川氏にたずねると「外国人観光客誘致に力を入れたこともあり、多くの外国人が来てくれるようになりました。ただ、平成26年くらいでしょうか。一部の外国人観光客による迷惑行為が増えてしまったのです。その要因となったのがお酒でした。日本は、24時間コンビニエンスストアでお酒を購入できますし、パスポートを見せる必要もない。店舗の方も購入者が日本人であれば制限はできたかもしれませんが、外国人となると言葉の問題もあり、そうはいきません。多量の飲酒によるけんかや、花火を使用した深夜のどんちゃん騒ぎなどさまざまなトラブルが多発しました。そこで村の住民から、規制することはできないかとの相談を受け、平成27年12月に『美しい村と快適な環境を守る条例(通称:マナー条例)』を制定したのです。条例には、たばこのポイ捨て、路上でのスキー・スノーボード、歩行中の飲酒の禁止、そして酒類提供店の午前2時以降の営業禁止などが盛り込まれています」。

しかし条例を制定して、すぐに迷惑行為がゼロになったわけではありません。毎年、マナー条例検証会議を開き、集まった関係者と一緒に対策を講じているそうです。そのメンバーには、外国人経営者によって結成されたHIBA(Hakuba International Business Association)も含まれています。HIBAは、ポスターやチラシを自主的に制作したり、SNSで注意を拡散したりするなど、マナー遵守の呼び掛けに協力的だといいます。

 スキー場付近には西洋風のホテルや飲食店が立ち並ぶ
スキー場付近には西洋風のホテルや飲食店が立ち並ぶ
 迷惑行為の防止を呼び掛けるポスターとチラシには 「HIBA」の名称も
迷惑行為の防止を呼び掛けるポスターとチラシには 「HIBA」の名称も

村を活性化させるために環境基本条例を改正

外国人観光客の増加も影響し、再び活気をとり戻しつつある白馬村ですが、平成初期のころの活況と比較すると、その様相は多少異なるといいます。その様子を白馬村役場総務課企画調整係長の田中洋介氏は「日本および外資の大手企業の開発参入が顕著になったことです。 村には大規模開発する際、基準となる『白馬村環境基本条例』を定めていますが、実は平成30年に基準変更した経緯があります。大規模開発基準について村環境審議会に諮問し、答申を得て改正しました。その影響もあって、大手企業の参入が増加した」と言います。ただ、外資の参入には警戒する意見も、村内ではあるそうです。田中氏は「外国企業が日本の土地を購入してはいけないという法律はありません。だから我々は法律と条令に基づき、企業と話し合いをしながらベストな手段を選んでいくしかないのです。例えば建物の高さは18m までと制限を設けています。これは村の財産でもある後立山連峰の自然を損ねないためです。開発は景観とのバランスが非常に重要ですので、白馬村は令和3年度に景観行政団体に移行する予定です」。

白馬村役場
白馬村役場
外資系のショップも白馬村に多く軒を連ねる
外資系のショップも白馬村に多く軒を連ねる

村の将来を見据えて外国人との共生を視野に

人口減少、少子高齢化など日本が抱える問題はますます深刻化し、地方都市に関しては若い世代の首都圏一極集中の影響もあり、過疎化も進んでいます。そのような状況の中、田中氏は「人口減少が続いているいま、外国人との共生が非常に重要だと思います。 現に、村内の学校のクラスでは、ハーフや外国人のお子さんが日本人のお子さんと一緒になって授業を受ける光景が昔に比べ、増えました。今の子どもたちが大人になるころは、“外国人だから”という感覚は減るのではないでしょうか」と将来について語ります。

また観光の面でも白馬村は世界と肩を並べる観光リゾート地を目指しているといいます。「白馬村観光局のほか、近隣の小谷 (おたり) 村、大町市と手を組んで『HAKUBA VALLEY』というエリアを形成しました。このエリアは良質な雪に恵まれた10のスキー場から成ります。スキー場だけでみれば、日本人観光客の数は減少傾向にありますが、今後その数を現状維持しながら、多くの外国人観光客を誘致して、スキー産業を基幹に盛り上げていきたいと考えています」(太田氏)。
 白馬村は、平成30年に大手IT企業と協定し、スマートフォンやタブレット端末を通してシャトルバスの位置情報やクーポン情報が配信される白馬村ガイドアプリを開発するなど、ICT技術を活用した取組みにも着手しています。地域にいる人が与えられた情報を平等に利用できる白馬村は、今後も恵まれた観光資源を元に、多文化が共生するエリア、そして世界水準の観光地へと発展を続けていきます。

白馬村観光局公式アプリ「HAKUBA VALLEY」
白馬村観光局公式アプリ「HAKUBA VALLEY」。観光情報やスキー場情報、クーポンやレストラン情報などをサイトから閲覧できる

Interview

安心して住みやすい 地域づくりを目指して

外国人観光客と居住者の増加に伴い、白馬村では平成20年度に総務省が制定した「集落支援制度」を数年前に導入し、外国人とのコミュニケーション強化に努めています。

田中 緑氏

白馬村集落支援員

田中 緑氏

※令和元年11月着任

私の業務は、習得した語学(英語、イタリア語)を生かして、白馬に暮らす外国人の方が抱えている悩みを少なくすることが主です。役場に来る外国人の方は、住民登録や国民健康保険、子どもの健康診断、保育園の入園手続きなど、言語が壁となって事が進まないで悩む人がほとんどです。そのようなときに通訳を介してサポートします。また、差別がないように、日本人に与えられている権利を白馬村に住む外国人も同等に利用できるように呼び掛けや発信も行っています。外国人観光客の方が村でトラブルを起こしたときもそうですね。いち早くその場所に駆けつけて、収束するように努めています。これからも白馬村に来られる方が、不便を感じることがないよう円滑なコミュニケーションを育んで、安心して、住みやすい地域形成に参画したいと思っています。

毎月発行される白馬村の広報誌も田中さんが翻訳して発行される
毎月発行される白馬村の広報誌も田中さんが翻訳して発行される