まちの紹介
2022.05.13

「農業DX構想」を具現化した津南町のスマート農業実証プロジェクト
〜新潟県中魚沼郡津南町〜


数年ほど前からあらゆる産業でDXが推奨されています。
これは農業・食品関連産業も然りで、 農林水産省は令和3年に農業改革を起こすべく「農業DX構想」を公表しています。
ただ、農業におけるDXとは何を指すのでしょうか。
そこで先行して「スマート農業実証プロジェクト」に取り組んだ新潟県津南町の町長・桑原 悠氏に詳細を伺いました。

※DX デジタルトランスフォーメーションの略。「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」といった概念

米どころ新潟で畑作も盛んな農業のまち

―まずは、津南町の概要についてお話しください。

津南町は昭和30年に、外丸、上郷、芦ケ崎、秋成、中深見、下船渡の6か村が合併して誕生した町です。当初から町是に「農を以て立町の基と為す」を掲げ、農業を基幹産業に成長してきました。新潟と聞くと、米どころをイメージする人も多いと思いますが、津南町は畑作も盛んで、特産品に雪下にんじん、アスパラガス、スイートコーン、キャベツ等があります。養豚や園芸にも強く、ユリの最高品種・カサブランカは日本一の産地として名を馳せています。

戦後に先人たちが開拓してきた農地、整備された田畑を継承していることもあり、津南町は新潟県内でも専業農家が多く、比較的若い世代が就農しているのも大きな特徴です。

―どの世代に多く見られますか。

30~40代です。最近はその世代の方たちが法人化を試みて、規模を大きくするといった動きも見られます。また、町外の人で「津南で農業を始めたい」と希望する方も多く、希望者の受け入れも行っています。これまで30人ほどの希望者が移り住んでいますが、住居を希望する方には、津南町農業公社が管理する「ファームハイツ」を紹介するなど手厚い支援を行っています。

桑原 悠(くわばらはるか) 津南町長

桑原 悠(くわばらはるか) 津南町長
新潟県中魚沼郡津南町出身。津南町議員を経て平成30年7月より津南町長に就任。当時、全国最年少町長として注目を集める。現在1期目。

スマート農業を経験し予想以上の成果を手に

―津南町は国の補助事業「スマート農業実証プロジェクト」を行いました。話を聞くと農業は活性化している印象を受けますが、課題等はあったのでしょうか。

やはり高齢化の波に逆らうことはできませんでした。これまで農業の中軸を担ってきた方々が75歳前後の年齢に達していることもあり、以前から農作物の出荷量低下、省力化や労働力確保の課題等が明るみになっていたのです。その解決策のひとつとして着目したのがスマート農業でした。そこで国の補助事業「スマート農業実証プロジェクト」に新潟県と連携して応募。144地区の中から採択され、令和2年度から開始したのです。

まず、新潟県や津南町農業協同組合、関係企業でコンソーシアムを立ち上げ、ロボットトラクターやラジコン除草機、自動走行操舵システムを国の補助で導入し、県の補助を活用して播種機(はしゅき)一式、畝立施肥(うねたてしひ)機一式、定植(ていしょく)機、キャベツ収穫機も導入しました。実証実験は雪下にんじんと加工用キャベツの2品目で行い、省力化の進展と生産性の向上を見極めました。

―どのような結果が得られましたか。

スマート農業機械等を利用することによって、労働時間が非常に削減されました。これは同時に、削減された時間が生じたことで別の作業に取り組めるといったことも指しています。そしてもうひとつ大きな収穫は「軽労化」を図ることができたことです。真夏の炎天下で長時間作業するとことは大変な重労働でした。しかし、スマート農業機械等を利用することで「軽労化」を果たすことができたのです。例えば、ラジコン除草機を利用すれば、作業する人は日陰や冷房の効いた車中で涼みながら同様の作業ができる。体力、労力的にも特定の農作業が厳しいと感じていた高齢者の方も継続して作業できることがわかったのです。そのほか町独自で「スマート農業加速補助金」「農業用ドローン操作免許取得費補助」等の補助事業を展開。今ではドローンの免許取得者は38人ほどにのぼっています。プロジェクトを通して若い人々の関心が高まったことも大きな収穫でした。

津波町で実施された「スマート農業実証プロジェクト」
1年の約3分の1は雪におおわれるという津南町。令和4年2月下旬には観測史上最高の積雪を記録
1年の約3分の1は雪におおわれるという津南町。令和4年2月下旬には観測史上最高の積雪を記録
積雪下で熟成される「雪下にんじん」。特有の臭みが少なく、甘味と栄養化も高いと評判
積雪下で熟成される「雪下にんじん」。特有の臭みが少なく、甘味と栄養化も高いと評判
津南町農業公社が管理する就農者用の「ファームハイツ」。単身用1棟、世帯用1棟を設けている
津南町農業公社が管理する就農者用の「ファームハイツ」。単身用1棟、世帯用1棟を設けている

持続可能な社会形成にDXは不可欠な要素

―農業と同様に「移住定住施策」にも力を入れていると聞きます。

人口減少に関しては、どこの自治体も抱えている大きな問題です。津南町でもお試し住宅施策等は既に行っており、力を入れ始めた明確な時期は不明ですが、全庁で人口減少対策の一環として「移住定住施策」にもっと力を入れるべきだという話になったのが昨年です。その際、津南の未来を担う若手職員を中心に「移住定住プロジェクトチーム」を結成し、どのような施策を設ければ、移住定住者が増えるかといったことを徹底的に話し合いました。結果、全30項目のうち今年度は10項目を実行しようという話になったのです(令和4年度移住施策概要参照)。

令和4年度 移住施策概

提⾔全30項⽬のうち、以下の10項⽬について実⾏予定

  • ①起業⽀援補助制度の新設
  • ②企業情報の発信強化
  • ③不動産鑑定料・住宅瑕疵調査料補助制度の新設
  • ④住まいに関する情報の発信強化
  • ⑤お試し体験住宅の料⾦体系⾒直し
  • ⑥空き家に付随する農地の譲渡条件を緩和
  • ⑦移住体験ツアー
  • ⑧移住コーディネーターの設置
  • ⑨移住webサイトのリニューアル
  • ⑩既存の補助制度の⾒直し

移住コーディネーターの設置

令和4年度より観光地域づくり課内に1名の移住コーディネーターを配置。移住コーディネーターは、相談応対などの実務を担うプレイヤーとなり、⾏政担当者は政策⽴案やKPIの管理などを担う戦略担当として動く

―拝見すると興味深いものがあります。どのような経緯で「不動産鑑定料・住宅瑕疵調査料補助制度を新設」は組み込まれたのでしょうか。

これまで中古物件、特に空き家の売却価格が所有者の希望額そのままになっていることが多く、それが思いのほか高額のため成約に結びつかないといった課題がありました。また、津南町は日本でも有数の豪雪地帯ですから空き家を放置しておくと積雪によって住居が傷む恐れがあります。そのため、放置されている物件の中には専門家による調査が行われていないものも含まれていると考えました。そこで導き出されたのが妥当な住まいの価格と健全な住まいの引渡し。今後は、町で不動産鑑定料・住宅瑕疵調査料補助制度を設け、不動産の流動化を図ろうという考えに至ったのです。

加えて「住まいに関する情報の発信強化」に関しては、不動産事業者や建築業者のホームページはあるものの、移住者がそのページにたどり着いておらず、情報が行き届いていないといったこともありました。今後は不動産事業者と連携して住まいの情報を発信したいと考えています。ぜひ、不動産事業者にも移住サポーターに登録してもらい、営業活動の一環として、移住者の呼び込みにご協力いただきたいと思っています。

―途上ではありますが、不動産業界もDXが推進されています。最後にスマート農業実証プロジェクトを通して感じたDXの重要性について聞かせていただけますか。

現在の子どもはデジタル技術を活用することに慣れています。そういった子どもたちが近い未来、日本社会を支えていくわけです。ですから少しでも働きやすい、作業しやすい環境を整備することが私たち大人の責任だと思っています。持続可能な社会を創り上げていくためには、デジタル技術の活用は外せないとも感じています。現に「スマート農業実証プロジェクト」を通して、若い人たちが農業に興味を持ち始めていますし、彼ら彼女らが挑戦することで次世代にバトンを渡すことができるわけです。国が推奨するDXの動きは、持続可能な社会形成に紐づいていると私は感じています。

秋成集落のお試し体験住宅。2週間の滞在から利用でき、7日間単位で最長3カ月まで利用可
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首都圏から新潟県内有数の豪雪地帯・津南町に移住した家族の生活を動画で伝える「つなすみチャンネル」。津南の魅力が発信されていることもあり再生回数、登録者は上昇を続ける
首都圏から新潟県内有数の豪雪地帯・津南町に移住した家族の生活を動画で伝える「つなすみチャンネル」。津南の魅力が発信されていることもあり再生回数、登録者は上昇を続ける
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世相を反映する業界で考える事業展開のあり方

人口減少、少子高齢化…。
長年、日本が抱える諸問題の中で、地方の不動産事業者は工夫を凝らして事業を展開しているといいます。
そこで新潟県十日町市で事業を営むサンライフ株式会社代表の樋口陽介氏に話を聞きました。

3Dデザインのスキルは独学で習得したと語る樋口氏
3Dデザインのスキルは独学で習得したと語る樋口氏

3Dデザインの提案でイメージ通りの住居を提供

―まずは事業内容・種目等について教えてください。

主な事業は建設・建築業になります。注文住宅やデザイン建築、設計からインテリアのプロデュース、メンテナンス等、お客様に対して「快適で安心できる空間を提供する」ことを心掛け、事業を展開しています。

―不動産業を始めたのはいつ頃ですか。

起業から10年ほど経ちますが、法人化したのが数年前です。そのタイミングで宅建免許を取得しました。宅建免許の取得を目指したのは、建築関係すべての元受けになれると考えたからです。住まいに関する相談に対して、当社は様々な選択肢を提示することができます。また、このエリア周辺は人口の割に建設・設備メーカーが多く存在します。宅建免許の取得は、差別化を図るといった点でも理にかなっていると感じています。もうひとつ当社が大きな差別化を図っていることといえば、家づくりの際に使用している3Dデザインの提案です。

―やはり、3Dデザインを活用してお客様に提案すると満足度は違いますか。

はい。3Dパースを元に、家のデザイン、色、空間など完成イメージをお客様と共有しながら進めることができるわけですから「こんなはずではなかった」等のトラブルもなく、お客様の満足度は相当高いです。ただ、打ち合わせには長期間、時間をかけます。半年くらいは通常で、着工するまで1年かけて打ち合わせしたこともあります。

完成後は見学会等のイベントも開催していますが、その際はお客様の許可も必要です。ただ、首を横に振るお客様は皆無に等しいですね。その反応を見て「満足していただけたんだ」といつも達成感を感じています。

また、当社の営業活動の場としても使わせていただいているので、大変ありがたいです。

空き家に対する地域特有の考え方

―十日町市の不動産事情はいかがですか。

正直、これからは不動産業単独で売り上げを立てることは、難しくなると思っています。既に人口減少は始まっていますし、何より子どもの数が減少しています。小学校ひとクラスの人数も20人弱と聞いていますし、将来、地元に残る子どもたちの人数は見通しがつきません。そうなると必然的に不動産の動きは悪くなります。

この地域に限った話をすれば、今後、新築等の需要は伸びしろはないと感じています。むしろ伸びてくるのは空き家の解体需要だと思います。

―それはどういうことですか。

ご存じの通り、十日町市周辺は新潟県内有数の豪雪地帯です。いま全国では多くの空き家が問題になっていますが、このエリアで空き家を放置していると、積雪で家が倒壊する恐れがあります。その問題意識の方が高いです。だから高齢者の多くは、「負の遺産にならないように」と解体費用を子供たちに残している家庭が多いと聞きます。実際、いまも解体の相談件数が増えています。また、現存する多くの空き家は耐震基準が変更される前の物件が多いこともあり、その点も不動産の流動化にブレーキをかけていると感じます。

このような状況の中で、私が常々考えているのが中古物件の扱いです。今後は、中古物件を多く仕入れて、リフォーム等を施して次のお客様の手に渡すことができればと考えています。当社は、住まいに関して様々な強みを持っているので、その強みを活かしながら周辺エリアの住まい環境づくりに少しでも貢献していきたい。そう考えています。


サンライフ株式会社

住所:新潟県十日町市新座甲409-1(本町7丁目)
電話:025-761-7630
FAX:025-761-7690
[ホームページ]
https://www.e-house.co.jp/thank-life/

サンライフ株式会社
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