いよいよ2023年竣工!大型再開発
国際的な磁力ある東京を目指し都市をつくり、都市を育む
「虎ノ門・麻布台プロジェクト」~東京都港区~
1989年(平成元年)に「街づくり協議会」が設立されてから30年余り。
東京都港区の「虎ノ門・麻布台プロジェクト」が2023年ついに竣工します。
参加組合員として参画し、虎ノ門・麻布台地区市街地再開発組合事務局長を務める、森ビル株式会社都市開発本部開発事業部の村田佳之氏に詳細をうかがいました。
都心の真ん中に理想的なコンパクトシティ誕生
東京都では今、新宿、渋谷などのターミナル駅を始め、各エリアで大規模再開発事業が相次いでいます。中でも注目を集めているのが港区の大規模市街地再開発事業「虎ノ門・麻布台プロジェクト」です。麻布通り、外苑東通り、桜田通りといった幹線道路に囲まれた区域でアークヒルズエリアに隣接し、文化都心・六本木ヒルズとグローバルビジネスセンター・虎ノ門ヒルズの中間にあり、文化とビジネスの両方を備えたエリアに位置します。
総面積約8.1haとなる広大な敷地の真ん中に約6000㎡の中央広場を設け、オフィス、住宅、ホテル、インターナショナルスクール、商業施設、文化施設など多様な都市機能が集積。A街区(下記 立面図、平面図参照)の建物の高さは約330m、オフィス貸室面積約21万3900㎡、住戸数約1400戸、就業者数約2万人、居住者数約3500人、年間来街者数約2500万~3000万人を想定。東京のど真ん中に今までにない、全く新しいタイプの街――コンパクトシティ――が誕生します。
30年の月日をかけて推進したプロジェクト
本プロジェクトの計画地は東西に細長く、高台と谷地が入り組んだ高低差の大きい地形です。江戸時代からの区画で細分化された土地に老朽化した木造住宅が密集し、道路も狭く未整備な部分が多いため、都市インフラの整備や防災上の課題を抱えていました。そんな中、1986年、赤坂・アークヒルズが誕生した頃から、森ビルは隣接する虎ノ門、六本木周辺の街づくりを考え始めていたといいます。
「特に個々の開発が無秩序に進んでしまうと、歴史的要素、住環境、景観等に問題が生じるのではないかという懸念がありました。そこで地域全体を一体的に整備するため、該当エリアの町会に呼びかけ、1989年に『街づくり協議会』を結成しました。それが再開発の始まりでした」と語る村田氏。
1988年に港区は六本木・虎ノ門地区更新基本計画を策定。1993年には「虎ノ門・麻布台地区市街地再開発準備組合」が設立され、2014年には第1回東京圏国家戦略特別区域会議において都市計画法の特例を活用するプロジェクトに選定されます。
2017年に麻布郵便局を含む虎ノ門・麻布台地区が国家戦略特別区域法に基づく区域計画に認定されたことによって都市計画が決定します。そして翌年には「虎ノ門・麻布台地区市街地再開発組合」が設立され、2019年8月に本体工事の着工となります。
「港区の六本木・虎ノ門地区まちづくりガイドラインに沿って、時代のニーズに合わせながらプロジェクトの内容を変更したり、北側や西側エリアへ開発区域を変更・拡大しながら、市街地環境の整備や都市機能の検討を進めました。2019年2月には権利変換計画認定を受け、300人超の権利者との合意形成も進め、30年という年月がかかりましたが、より良い街づくりの実現に向けて進めてこれたと思っています」(村田氏)
ヴァーティカル・ガーデンシティという発想
本プロジェクトでは都市基盤の整備として、土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新を図るため、インフラを強化しています。
「東西と南北を貫通する道路を整備することで、このエリアの悲願だった道路ネットワークを実現しました。アクセス性を向上させ、自動車交通の円滑化を図っています。また、歩行者の回遊性と利便性を考え、地下鉄神谷町駅と六本木一丁目駅を結ぶ地下歩行者通路も整備しています」と村田氏。加えて、高低差のある地形を生かした緑化空間の整備も行ったといいます。
「隣接するアークヒルズ仙石山森タワーとの緑の連続性を考慮しています。
また、超高層タワーを建てることで足元に圧倒的な緑に囲まれたオープンスペースを生み出すようにしています。森ビルが長年提唱してきた“ヴァーティカル・ガーデンシティ”という都市づくりの手法によって、人の流れや集まる場所を考え、中心に広場を据えて緑の空間を生み出し、水と緑がつながるシームレスなランドスケープにしています」(村田氏)
環境や省エネにもとことんこだわっているのも大きな特徴です。街全体で「RE100」(RenewableEnergy100%)に対応する再生可能エネルギーの電力を100%供給。世界最大規模の登録面積となる「WELL認証」「LEED-ND」(Neighborhood Development)認証の予備認証も取得しています。
さらに安全・安心を支えるべくハード面の強化にも力を入れています。万が一の災害時には地元住民はもちろん、近隣の人々も「逃げ込める街」となるべく、防災性能の高い建物や自立・分散型かつ効率的なエネルギーシステムを導入。電力供給もできるようにしています。帰宅困難者の避難も想定し、備蓄も用意しているそうです。
世界にも類を見ない全く新しい都市が誕生
本プロジェクトのコンセプトは“緑に包まれ、人と人をつなぐ広場のような街”、すなわちModern Urban Villageです。
「テクノロジーが進歩し、人々の働き方、暮らし方、生き方が大きく変わりつつある今、改めて都市の在り方をゼロから考え直しました。その結果、見出したのがこのコンセプトです。圧倒的な緑に囲まれ、自然と調和した環境の中で多様な人々が集い、人間らしく生きられる新たなコミュニティを形成できる街にしたいと考えました」(村田氏)
そのうえで、東京の国際的な磁力を高めるため、外国人にとっても暮らしやすい生活環境の整備に注力しています。
「特に国家戦略特区ということで世界中の人々が集まり、ここで生活できる街づくりを心掛けました。国際化を見据えた住環境、滞在、教育、生活支援、文化交流施設等が揃っています」(村田氏)
例えば、外国人子女等を対象とするインターナショナルスクールとして「ブリテイッシュ・スクール・イン東京」が開校予定。居住空間となる住宅としてA街区にはホテルブランデッドレジデンス「アマンレジデンス東京」を、B-1街区、B-2街区にはそれぞれのライフスタイルに合わせた住宅が選べるようになっています。
医療施設としては慶應義塾大学病院予防医療センターが東京新宿区から拡張移転してきます。「もちろん商業施設も充実しています。遊ぶ、働く、住むといった様々な要素に必要なものが複合的に備わった街になる予定です」(村田氏)
プロジェクトで大事にしたのは地域住民との信頼関係
森ビルの社員であり、虎ノ門・麻布台地区街地再開発組合事務局長を務める村田氏が、このプロジェクトを進めていくうえで最も大切にしたのは、地域住民とのコミュニケーションでした。
「街づくりの中心は人だからです。300人超の権利者一人一人が、この街づくり後の将来の生活設計までを考え、『再開発でできた街でどう暮らしていきたいか』、それぞれの想いに向き合い、戸建ての住まいや工場などの事業継続を希望し、別の場所を選択、移転する人の想いにも寄り添いながら、話し合いを重ねました。その結果、9割を超える人が権利変換という形でこの街に戻ってくることになりました。」と村田氏はいいます。
「私たちは単に建物をつくるだけの街づくりをしているわけではありません。東京にとっても、権利者にとってもより良い暮らしを実現するために事業を進めていく、それが弊社の開発理念です」。村田氏は地元住民の信頼を得ることがプロジェクトの成功のカギだと考えています。
また、街をつくったからといってそこで終わりではないといいます。
「竣工後はタウンマネジメントという観点で、いかに活気と賑わいのあるものにしていくか。どういう付加価値を高めていくかを考えていきます。街をつくって終わりではなく、つくってから先が街の始まりなのです」(村田氏)
キーワードは「街を育む」。運営管理まで担い、街として全体最適を目指し、タウンマネジメントしていくといいます。「様々な地区や、その住民が抱える課題に対してどう取り組むかというモデルの一つとして、全国の皆さまに提示できる街になるのではないかと思います」と村田氏。来年の竣工が待ち遠しいです。
東京都市大学 宇都正哲教授に聞く
「虎ノ門・麻布台プロジェクト」の魅力
この「虎ノ門・麻布台プロジェクト」を専門家はどう見ているのでしょうか。
東京都市大学大学院環境情報学研究科の教授、宇都正哲氏に話をうかがいました。
グローバル都市に必要な機能を集約
―専門家として本プロジェクトをどう評価されていますか。
世界のグローバル都市と十分競争ができうる、これまでの日本にはなかったプロジェクトだと思いました。
ここ数年、インド、インドネシア、中国などアジア諸国のグローバル化は勢いを増しています。今後、人口減少社会を迎えている日本は相対的に沈下していくと予想されています。そうした中、東京が国際都市として生き残っていくためには、グローバル企業の食指が伸びるファシリティだけでなく、ソフト面での都市機能の充実が求められます。その要件を満たしているのが「虎ノ門・麻布台プロジェクト」です。教育、医療、レジデンス、オフィス、生活など人の営みすべてがパッケージとして敷地内に揃っているからです。
外資系企業のリージョナルプレジデント層は、家族と一緒に転勤してくる場合が多く、職住接近のライフスタイルを好み、快適な居住空間を重視します。ところが今まで大手町や丸の内などのオフィス街に住宅を作ることはありませんでした。収益率が悪く、また管理が非常に手間という問題があるからです。それがこのプロジェクトには備わっています。
私が一番驚いたのは医療施設とインターナショナルスクールが併設されていること。特にインターナショナルスクールは許認可に時間がかかるうえ、必ず生徒が集まる保証がないため、新規開校が難しいという事情がありますが、それをクリアしています。さらにジャヌ東京がホテルとして併設されるとのこと。東京がグローバル都市として生き残るために非常に意義のある開発と捉えています。
―特に期待していることは?
グローバルをけん引している外資系企業が数多くオフィステナントに入ってくれることですね。国内からはどんな企業が入居するのかも楽しみです。その中から世界をフィールドに活躍する企業が出てくることで、このエリアの注目度もさらに上がりますからね。
都市開発に必要なのはその都市ならではのエッジ
―他の地方、地域のデベロッパーが開発をする際、このプロジェクトはモデルになるのでしょうか。
都市の再生を進めるうえで、自分たちがどういう付加価値をつけられるか、何が求められるかを考えるきっかけになると思います。
これからは、都市開発によってハード面が整備され、「スーパーができた」「街がきれいになった」という価値観ではなく、それによって生み出される付加価値にこそ意味がある時代です。今回は国際都市を目指す東京だからこそ、「国際色豊かなまちづくり」というエッジの効いたコンセプトを見出すことができ、それによって様々な新たな付加価値ができました。各地域にそれぞれの特色がありますし、人々に求められるものも異なります。はたして自分たちの地方都市では何が必要なのか、“エッジ”は何かを考えることが大切だと思います。
地方創生という点からみても、自分たちが不動産事業者として地域の人たちに何が求められているかを、これまで以上に考えることが重要になってきます。何か一つエッジとなるコンセプトが見つかれば、非常に有意義なまちづくりができるはずです。
宇都正哲(うと・まさあき)
東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程修了。株式会社野村総合研究所へ入社後、不動産、都市開発などに関する受託調査を経験。また戦略系コンサルタントとして企業の事業戦略、企業戦略に携わる。著書に『人口減少下のインフラ整備』など。