Vol.17 取引後、数年を経過してから「説明を受けていない」と言われるトラブル


説明を行ったと思っていた事項を、後日、買主(借主)から、説明を受けていないと言われるトラブルが見られます。取引直後ならともかく、数年も経過してからですと、当時の記憶はあいまいになっていることが多いことから、説明を行った旨の証拠を残しておくことは重要です。

トラブル事例から考えよう

〈事例1〉分譲して3年後に、買主より、マンションパンフレットに記載の床暖房の設置がないとして設置費用等の請求をされた
【東京高裁 平29・9・21 判例集未登載】

<事案の概要>

買主は、マンションパンフレットの仕上表に「リビング・ダイニングに床暖房を設置」と記載されている、新築マンションの一室(本件居室)を、平成21年6月、売主業者より購入した。 なお、本件居室は、キャンセルした前申込者のオプション申込みにより、基本プランの和室部分を、リビング・ダイニングに拡張したもので、拡張部分に床暖房は設置されておらず、その場合の間取図はパンフレットにはなく、別添間取図が用意されていた。

平成24年11月、買主は、拡張部分に床暖房が設置されていないことを知り、リビング・ダイニングがパンフレットでうたっている全面床暖房になっていないとして、売主に拡張部分の床暖房の設置を要求した。

売主は、床暖房の設置がないことは、口頭や別添間取図によって説明しているとしてこれを断ったところ、買主は、説明や別添間取図は受けていないと主張して、床暖房設置費用68万円、慰謝料50万円等、計131万円を求める訴訟をおこした。

パンフレット間取図
トラブル事例の図

〈事例2〉重要事項説明書の読み上げが説明をしたことの重要な証拠となった
【東京地裁 平30・3・6 RETIO116-126】

賃借したマンション(本件居室)でのエステサロン営業を、マンション管理組合から管理規約違反により停止するよう通知を受け営業を取りやめた借主が、媒介業者に対して、本件居室では店舗営業が認められない説明を一切しなかったと主張して、341万円余の損害賠償を求める訴訟をおこした。

借主の主張
・ 媒介業者に、エステサロン兼住居の物件を依頼していたが、重説等で、店舗や居住用以外の用途が認められない説明は一切なかった
・ 契約前、媒介業者は「貸主に借主の営業の了解を得た」と借主に伝えた
裁判所の判断:借主請求棄却
・ 借主は、居住用以外の使用は禁止と明記されている契約書・重要事項説明書に署名していることに加え、重要事項説明を受けた際、内容を読み上げられたと供述していることから、媒介業者が店舗営業できない説明を一切しなかったと借主が言うことができないことは明らか
・ 借主の目的用途と全く異なる重要事項説明書の読み上げにおいて、借主が何ら疑問を抱かず質問もしなかったというのは不自然

01「説明を受けていない」と言われるトラブル

買主・借主から、取引後に問題が生じた場合に、「そのことの説明を受けていない」と宅建業者が言われてしまうことがあります。

しかし、不動産取引に関するトラブルは、数年、場合によっては十数年後に発生することも珍しくなく、そうなると宅建業者の記憶はあいまいになっていて、また、買主等が説明を受けたことを忘れている場合もありますから、「説明を受けていない・説明した」のトラブル対応として、説明を行った旨の証拠を残しておくことは、重要なポイントになります。

02説明を行った証拠を残すために

事例1では、売主受領の「間取図確認書」には、明確に買主が「別添間取図」を受け取った記載がなく、またその説明・確認の時間は1分程度であったこと、売買取引の経緯・流れ、買主と売主の証言の具体性などから、裁判所は、売主の、別添間取図交付による床暖房の設置がない旨の説明はなかったと認定しています。

一方事例2では、裁判所は、重要事項説明書を受けた旨の借主の記名押印に加え、読み上げがあったことから、借主が説明を受けていないという主張ができないことは明らかとしています。

説明を行った証拠を残す観点から、
①重要事項説明書の添付書類の書類名において、交付した重要な書類等は、その名称を明記する(その他書類一式としない)
②受領する確認書等には、説明した事項や渡した書類等を具体的に記載しておく(または、その旨を営業記録に記載しておく)
③重要事項説明書・確認書等の読み上げによる説明は、特に有力な証拠になることから、必ず行う(説明時間が短いと、十分な説明がされていないと判断される場合がある)

以上は、重要なポイントになると思われます。

03床暖房の設置に関する説明義務について

事例1では、裁判所は、パンフレットではリビング・ダイニングに床暖房が全面設置と読めるところ、プラン変更によりその約3分の1部分に床暖房がないことは、一般顧客において重要な情報にあたるなどとして、売主の説明義務違反、買主への慰謝料5万円を認めています(なお、床暖房設置費用等については、相互因果関係がないとして棄却されています)。

宅建業者としては、一般の買主・借主の立場から見て、判断に影響すると思われる事項については、漏れのない説明を行うよう注意することが必要です。


一般財団法人不動産適正取引推進機構
調査研究部 上席主任研究員
不動産鑑定士

中戸 康文

一般財団法人不動産適正取引推進機構(RETIO)は、「不動産取引に関する紛争の未然防止と迅速な解決の推進」を目的に、1984(昭和59)年財団法人として設立。不動産取引に関する紛争事例や行政処分事例等の調査研究を行っており、これらの成果を機関誌『RETIO』やホームページなどによって情報提供している。
HP:https://www.retio.or.jp/