Vol.18 建築基準法43条2項(旧43条1項ただし書)の重要事項説明に関するトラブル
建築基準法旧43条1項ただし書(現43条2項1号、2号)により建築された既存住宅は、行政の許可基準等の改正等によって「建替えができない、建替えはできるが建築について制限がある」場合があります。建築基準法43条に関する説明に際しては、より慎重な調査を行い、買主に誤解を与えない説明を行う必要があります。
トラブル事例から考えよう
〈事例1〉 既存住宅取引において建築基準法43条1項ただし書※により再建築可能と重説をしたが、行政の許可基準等の変更により再建築ができないものであった
【東京地判 令3・1・13 ウエストロー・ジャパンより】
※ 建築基準法平成30年9月改正により、現43条2項1号、2号
<事案の概要>
平成29年4月、本件既存住宅(昭和48年建築)および本件通路(共有持分1/2)について、買主Aは、売主業者B(前所有者Qより購入)・媒介業者Cより、下記説明(本件重要事項説明書 概要)を受け購入した。なお、当初Bは、1億2,800万円での売却を希望していたが、「再建築の場合、新たに建築基準法43条1項ただし書※の許可が必要」との説明を受けたAは、大幅な値下げを要求、結果8,500万円で売買された(当初Aは、BおよびCに対して、本件既存住宅をリフォームして居住すると告げていた)。
本件既存住宅の引渡し後、Aは本件建物の建替えを計画、隣地所有者Pに覚書に基づく承諾を得ようとしたところ、PがAの建替えを承諾しなかったことから、Aは、BおよびCに対して「重要事項説明において、建築基準法43条1項ただし書の許可が必要であることの説明をしなかった。また、Pが建替えを承諾しない事実を説明しなかった」として、1,000万円の損害賠償を求める訴訟を提起した。
一審裁判所は、「B・Cは、Aに建築基準法43条1項ただし書に関する説明をしている。Pが建替えを承諾しないとすることを、B・Cが知っていたとは認められない」などとして、Aの請求を棄却した。
Aが控訴(一審判決の2カ月後、AはP所有の「本件通路の共有持分1/2」を1,500万円で購入した)。
控訴審においては、本件既存住宅は、行政の許可取り扱い方針の変更により、建築基準法43条1項ただし書による再建築ができなかったことが判明、BおよびCが和解金をAに支払うことにより和解をした。
01許可基準等の改正により建替え許可が得られない場合があることに注意
建築基準法旧43条1項ただし書(平成30年9月25日改正により、現43条2項1号、2号)により建築された既存住宅を売買する場合、行政の許可基準等が改正されたため、取引時点では建替えの許可が得られないとか、許可は得られるが建築の制限があったという例はよく見られます。
本件の売主業者・媒介業者は、前所有者と隣地所有者との建替えに関する覚書があることから、建替えができると誤認をしたようですが、覚書の作成時点では、行政の許可取り扱い方針が改正されていて、本件通路で旧43条1項ただし書による建築確認は受けられない状態でした。
本件では、和解金の支払いで解決されていますが、もし、買主が本件通路の所有権を全部取得(隣地Pより共有持分を購入)することができず、建物の再建築ができなかったとすれば、売主業者らは、相応の賠償責任を負うことになったものと思われます。
建築基準法上の道路に接しない土地建物については、現時点において「建物の建築が可能か、可能な場合はどのような建築規制があるか」について慎重に調査を行う必要があります。
02行政調査では図面等を持参し慎重に調査を
行政での調査において、図面等の資料を持参せず、口頭で説明をして、誤った回答を得てしまったという失敗例があります。
行政の回答は、問い合わせで示された情報の範囲で行われます。現時点における取引不動産の位置図や周辺図、測量図等を持参し、正確な回答が得られるよう慎重な調査を行うことが必要です。
調査では「建替えが可能か、建替え可能の見解が得られる場合はその根拠(建築基準法現43条2項1号、または2号の該当)、建替えが認められる建物に関する制限(容積率、建ぺい率、階数、用途等)」などについて調査を行い、調査先の部署、担当者名、調査年月日を控えておきます。
03買主希望の建物に建替えができないトラブルに注意
行政から建替え可能の見解を得て取引した既存住宅について、後日買主から「重要事項説明になかった制限(用途、規模等)があり、希望する建物に建て替えることができなかった。その説明があれば購入しなかった」などと言われトラブルになる例が見られます。
建替えに際しては、具体的な建築計画をもって行政に相談しないと、建物建築に関する制限が判明しないこともあることから、建替え・増改築等目的の買主に対しては、契約前に建築士等に依頼して、希望する建物の建築が可能かの確認をしておく必要があること(宅建業者の調査では不明なこと)を、アドバイス・説明しておくことが重要です。
04重要事項説明書記載方法の留意点
行政より建築基準法43条2項による再建築が可能との見解を受けた場合の重要事項説明では、「行政の許可基準等の改正により制限が生じる可能性がある、実際に建築申請を行うと建物建築に制限がある場合がある」ことから、買主の誤解を招かないよう、少なくとも次のような説明を行っておく必要があると思われます。
〇「道路の種類」の説明においては、「建築基準法上の道路に該当しない通路(原則として建築確認不可)」等と説明し、補足として「建築基準法上の道路に接していないこと、建築基準法に定める接道義務を満たしていないことから、原則として建築物の建築はできないこと、現在の建物については増・改築、再建築はできないこと」を明記する*。
* 買主等の誤解を招く恐れがある「建築物の建築:可」とする説明は不適切です。
〇次に、行政の建築基準法43条2項の許可に関する見解を、ヒアリングした内容そのままを記載するとともに、再建築の許可に関しては、建物の用途、規模等についてさまざまな規制がかかることがある旨についても説明を行う。
〇宅建業者が調査を行った年月日、調査先の部署、担当者名の記載を行い、宅建業者が行った調査範囲を明示する。
一般財団法人不動産適正取引推進機構
調査研究部 上席主任研究員
不動産鑑定士
中戸 康文
一般財団法人不動産適正取引推進機構(RETIO)は、「不動産取引に関する紛争の未然防止と迅速な解決の推進」を目的に、1984(昭和59)年財団法人として設立。不動産取引に関する紛争事例や行政処分事例等の調査研究を行っており、これらの成果を機関誌『RETIO』やホームページなどによって情報提供している。
HP:https://www.retio.or.jp/