Vol.19 店舗の借主が目的の営業ができず貸主・媒介業者に損害賠償を求めるトラブル


事業用の建物賃貸借において、建築基準法や消防法等の規制により、建物を借主の目的の事業に使用することができずトラブルになるケースがみられます。媒介に際しては、建築基準法等に関して建物を借主の事業に使用できるかについての調査は、原則借主自身が行う必要があることについて、借主にアドバイスをしておくことが重要です。

トラブル事例から考えよう

〈事例〉 居抜き店舗の借主の飲食店営業が消防法令等によりできなかった

<事案の概要>

借主Aは、貸主Bより、マンション1階の本件店舗(居抜き店舗:厨房設備として、製氷機、食洗器、IHヒーター、冷蔵庫、電子レンジ等がある)を、媒介業者Cの媒介により賃借した。

Aは本件店舗の内装工事を行い、消防法関連の届出を管轄消防署に提出したところ、消防署から、消防法に抵触するとして、排気ダクトの交換、防火装置の設置等の是正を受けた。

しかし、排気ダクトの交換をすると、既存の厨房スペースの天井高が2.1m未満となり建築基準法令に違反することから、Aは本件店舗での飲食店営業は不可能と判断して契約を解除し、BおよびCに対して、飲食店店舗として使用できない絶対的違法物件を賃貸・媒介をした過失責任があるとして、内装工事費用等35万円余、逸失利益7カ月分473万円余、計509万円余を求める本件訴訟を提起した。

一審(東京地判 令3・3・18)はAの請求を棄却、控訴審(東京高判 令3・9・15)も、「BおよびCに情報提供義務または説明義務違反による不法行為は認められない」としてAの請求を棄却した。

トラブル事例の図

01借主の事業に建物が使用できないトラブル回避のために

賃貸借する建物が、借主の目的の事業に使用できるかについての調査は、原則、建物の設備の状況や法令上の制限の有無を含めて、建物を使用する借主自身が調査し、賃貸借契約を締結するかどうかの判断をする必要があります。

しかし、本件のように、借主がその調査を行わずに契約を締結してしまい、改装工事を行ったが消防法等の規制によって建物を使用することができず、契約を解除して生じた損害を貸主・媒介業者に裁判で求めるという事案が最近よくみられます。その要因としては、借主が「①建物の設備の状況や法令上の制限により、建物が借主の事業に使用できない場合があることを認識していない、②建物が借主の事業に使用できない場合、媒介業者や貸主より説明がされるものと誤解(期待)をしている」ことなどが考えられます。

東京地判R3・4・12(ペットショップ目的、媒介業者への請求棄却)、東京地判R3・3・26(飲食店目的、貸主・媒介業者への請求棄却)他

このようなトラブルに巻き込まれないために、事業用建物賃貸借の媒介に際しては、「賃貸借する建物で借主が目的とする事業に使用できるかに関し、その建物の設備で足りるか、建築基準法や消防法等の規定上問題がないか等については、具体的に使用内容を知る借主自身が、専門家に依頼して調査・確認する必要があること(宅建業者の通常の調査の範囲外であること)」を借主にアドバイスし、また、重要事項説明の際にも説明し、借主がその確認をした上で、契約締結を行うようにする必要があると思われます。

重要事項説明書の記載・説明のポイント

重要事項説明書の記載・説明のポイント

02媒介業者が通常行う調査のポイント

事業用建物賃貸借の重要事項説明において、宅建業法35条で例示の法令に基づく制限が「新住宅市街地開発法、新都市基盤整備法、流通業務市街地整備法」のため、宅建業者が通常の調査として行うべき用途地域等の調査を漏らしてしまい、結果、借主が建物を目的の事業に使用できず、調査説明義務違反による賠償責任を負うことになった事例もときどき見られます。

借主の目的の事業と建物の使用に関する公法規制等の調査は、賃貸の媒介においても、売買の媒介の場合と同様の調査が必要であることの認識漏れがないようにお願いします。

<調査確認が必要な項目例>

  • ・ 公法規制:用途地域、都市計画区域、市街化調整区域、条例
  • ・ 区分所有建物の場合:マンション管理規約等による制限
  • ・ その他:媒介業者が借主の建物の使用に影響がある事項を知っていた場合はその事項 など

一般財団法人不動産適正取引推進機構
調査研究部 上席主任研究員
不動産鑑定士

中戸 康文

一般財団法人不動産適正取引推進機構(RETIO)は、「不動産取引に関する紛争の未然防止と迅速な解決の推進」を目的に、1984(昭和59)年財団法人として設立。不動産取引に関する紛争事例や行政処分事例等の調査研究を行っており、これらの成果を機関誌『RETIO』やホームページなどによって情報提供している。
HP:https://www.retio.or.jp/