Vol.22 買主のローン解除通知が、特約の期日までに売主に到達しなかったことによるトラブル


「解除権留保型」のローン特約において買主がローン解除を行う場合、特約の期日までに、買主のローン解除の意思表示が売主に到達しなければ、契約解除の効果は生じません。媒介業者は、買主のローン解除の意思表示を受けた場合、必ず特約の期日までに売主に到達させる必要があることに、十分な注意が必要です。

トラブル事例から考えよう

買主の融資解除の通知を媒介業者が解除期日までに売主に伝えなかった
【東京地判 令3・10・22】

取引経過

(1)令和2年8月27日、買主Aと売主Bは、本件土地について、本件売買契約を締結し、翌28日、AとBは、Aが内金450万円を支払うことにより、決済日・融資解除期日等の変更契約を締結した。

<本件売買契約(変更契約後)の内容>
売買代金:9,000万円  手付金:450万円  違約金:900万円(変更契約前:450万円)
内 金:450万円(変更契約前:なし)
決済日:令和2年10月26日(契約変更前:同年9月28日)
融資特約:融資が否認された場合、買主は融資解除期日までであれば売買契約を解除できる
融資解除期日:令和2年10月6日(変更契約前:令和2年9月19日)

(2)同年10月5日、Aは金融機関に申し込んだ融資が否認されたため、融資特約により契約解除を行う旨の書面(本件解除通知)を、買主側媒介業者Cに交付した。同日、Cは売主側媒介業者Dに、同書面のデータを添付したメールを送信したが、Dの担当者は、「Aの融資否認に信用できない点があった。融資解除期日を延長したのに本件契約が解除されることをBが納得しないと考えた。Cより本件土地をCが購入するかもしれないとの話を聞いていた」ことから、Cの本件土地購入の判断がされるまでは、Aの本件解除通知をBに伝えることを留保した。そのため、本件解除通知は融資解除期日を経過した後にBに到達した。

(3)AはBに、融資特約により契約を解除したとして900万円(手付金および内金)の返還を求めたが、Bは融資解除期日までに本件解除通知を受けていないとして返還を拒絶した。

(4)Aは、Bに対し手付金および内金(900万円)の返還を求める訴訟(事件1)と、Dに対し不法行為を理由とする900万円の損害賠償を求める訴訟(事件2)を提起した。

トラブル事例の図
トラブル事例の図

【本件裁判所の判断】

事件1 売主Bに対する請求

【判決】 請求棄却

【理由】 媒介業者Dが故意に本件解除通知を売主Bに伝達しなかった以上、買主Aの本件意思表示がBに伝達される可能性はなかったと認められることから、融資解除期日までに本件意思表示がBの勢力範囲内に置かれたとは認められない。

事件2 売主側媒介業者Dに対する請求

【判決】 損害賠償900万円を認容

【理由】 宅建業者であるDの立場に照らすと、売主Bのみならず買主Aに対しても、本件解除通知を了知したときは、遅滞なくBに伝える信義則上の義務があり、これを行わなかったことはAに対する不法行為に当たる。

01解除権留保型ローン特約の注意点

ローン特約には、「解除権留保型」(融資承認が得られなかった場合、買主が契約解除をすることができる特約)と、「条件型」(買主が融資承認を得られなかった場合、契約が自動的に消滅する「解除条件型」、買主が融資承認を得られた場合、契約の効力が発生する「停止条件型」)があります。

特約の期日までに、買主の融資申込みが不承認となった(もしくは承認が判明しなかった)場合、「条件型」ローン特約の場合は、売買契約が自動的に消滅、または不成立となりますが、「解除権留保型」の場合は、買主が特約によるローン解除を行わなければ、契約は解除されず、また、特約の期日後は、買主はローン解除をすることができなくなります。

媒介業者においては、「解除権留保型」ローン特約におけるローン解除は、「ローン解除の意思表示が、特約の期日までに、必ず売主に到達する」必要があることについて、十分な注意を払っておく必要があり、また、契約締結に際して、買主に説明・理解を得ておくことが重要です。 

02解除権留保型ローン特約と媒介業者の対応

「解除権留保型」ローン特約において、媒介業者の責任で買主の意思表示が売主に到達せず、買主に損害が生じた場合、媒介業者はその損害について賠償責任を負うことになります。媒介業者においては、買主がトラブルに巻き込まれないよう、次のような慎重な対応が必要です。

  • ①買主がローン解除できなくなる事態に陥らないよう、買主の融資申込み手続きの状況等を把握する。
  • ②買主の融資が不承認となった場合、ローン解除の意思表示が、特約の期日までに、必ず売主に到達するよう手配を行う。(注)
  • ③特約の期日までに買主の融資承認が得られるかが不明な場合は、必ず特約の期日までに「Ⓐ特約の期日の延長の覚書等を締結する。Ⓑローン解除の意思表示を売主に到達させる手配を行う」のいずれかを行う。
  • ④買主が、ローン解除の意思表示を行った場合は、売主にその意思表示が到達したことを確認する(売主側媒介業者に伝達を依頼する場合は、売主に到達した確認をする)。
  • ⑤営業担当者に、「解除権留保型」ローン特約の場合は、前記①~④の対応が必要であることを周知徹底する。

(注)裁判例などにおいて、買主のローン解除が可能なのに、媒介業者(担当者)が誤った認識や独自の見解により、「融資不承認は買主に責任がありローン解除はできない」等として、買主のローン解除を妨げる(媒介業者に賠償責任が生じる)例が見られる。媒介業者においては、融資不承認が明確に買主の責任といえるものでない限り、ローン解除の意思表示の売主到達を行う(買主の解除権を確保する)必要があると認識しておきたい。

03条件型ローン特約の利用

「条件型」ローン特約の場合、特約の期日までに、融資承認が得られなければ、売買契約は自動的に消滅等することから、買主が融資を得られず契約が履行できないのに、契約解除をすることができない等の事態は生じません。

買主・媒介業者の、「解除の意思表示が特約の期日までに売主に到達しない」リスクの回避には、「条件型」ローン特約の利用が有効と思われます。


一般財団法人不動産適正取引推進機構
調査研究部 上席研究員
不動産鑑定士

中戸 康文

一般財団法人不動産適正取引推進機構(RETIO)は、「不動産取引に関する紛争の未然防止と迅速な解決の推進」を目的に、1984(昭和59)年財団法人として設立。不動産取引に関する紛争事例や行政処分事例等の調査研究を行っており、これらの成果を機関誌『RETIO』やホームページなどによって情報提供している。
HP:https://www.retio.or.jp/